閑話 教会改革 神父視点①

  〈人付き合いが……苦手だ〉


 私はバリュー・ミック。学園で貴族の社交を学べば学ぶほど、人間が苦手になった。笑顔でマウントを取り合い、陰口で貶め、罠を張り巡らす。笑顔の裏が読めない私は、貴族社会には向いていなかった。


 そんな時、学園でシャルドネ先生に出逢った。先生から学問の素晴らしさ、本を読む楽しみ、常識の疑い方、狭かった自分の世界が広がる驚きなど様々な経験と知識を与えて貰った。

 将来の夢ができたが、何分なにぶん人と上手く話せない私は、いくつもの就職試験を受けたがどれも面接で落ちた。


 〈いまさら、貴族社会には戻りたくない〉


 ミックの姓を捨て、私は修道士となった。教会で心清らかに過ごすのも、私にとってはお似合いかもしれない。


◇ ◇ ◇


 〈…………なんだ、教会も同じか……〉


 そこに居たのは、領主争いに負けた者、貴族社会で蹴落された者、犯罪に手を染め教会送りになった者、私と同じ就職が決まらなかった者。


 そんな元貴族達は、権力闘争や腐敗を繰り返し、志を持って教会入りした平民は、元貴族の者達にこき使われ、夢も希望も志も命も削られ、奴隷の如くこき使われる。


 トップがカビだらけなら、下の方まで胞子は落ちる。私もやがて朽ち落ちるのか。と思った頃、私はクリフト様と出逢った。



 最近教会内部が騒がしい。教会に喧嘩を仕掛けている領主の子息がいるらしい。関わりたくはないがお茶出しと場繋ぎを命じられた。


「シャルドネゼミのバリューか?」


 懐かしいゼミの名前。知り合い?分からない。


「はい。確かにシャルドネ先生にはお世話になりましたが……貴方様は」


「領主候補科のクリフトだ。同期生だよ」


 専門は違うが同期生らしい。師の名前を聞いて、懐かしさのあまり顔がゆるんだ。

 話して見るとクリフト様には真直な感じしかない。貴族としてどうなんだ? 大丈夫か?


「バリュー様、我がターナー領の神父になっていただけませんか」


 思いっきり丁寧ていねいに膝を曲げてお願いされた。何が起こっているんだ? あわててイスに戻って貰った。


 でも……これはチャンスだ。この方に付いて行ければ何か変わるかも知れない。


 私は動揺と期待を胸に上役を呼びに行った。クリフト様は上役達と言い争いながらも、私をこの腐った教会から開放してくれた。


 (クリフト様に人生を捧げよう。クリフト様の役に立てるようはげもう。もし、クリフト様に裏切られても後悔するまい)


 私はクリフト様に忠誠をちかった。

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