10話 閑話 教会改革 領主視点❷

 教会の改革も一段落ついた頃、バリューにこれから何をしたいか聞いてみた。


「孤児達に読み書きを教えたいです。本が読めるように。マナーも教えたいです。町の人から嫌な目で見られないように。少しでも良い仕事にありつけるように」


 何てこと考えているんだ! 俺はバリューの考えに驚愕した。

 

 所詮孤児は孤児。可哀想な孤児に居場所と食事を与えておけばいいんだ、俺はその程度しか考えてなかったのか。ちっ、教会の奴らと大差ねーじゃないか……。


「できたら、平民の子供達にも一緒に教えたいのですけどね」


 もう、最高じゃないかバリュー。尊敬するよ。「まるで学園みたいだな」 と言ってみたら、破顔一笑ってこう言う事? って顔で答えた。


「そうですね。私はシャルドネ先生のような教師に成りたかったのです」


 ちくしょー、可愛らしいじゃないか! いつもは無表情なのに。女だったら惚れているよ、まったく。俺は決めた。やりたいようにやらせてやるよ。「予算はぶん取ってやる。やれるだけやってみろ」と言うと抱きつかれた。その後、バリューはあたふたと離れ、膝を着いて、抱きついた謝罪と、感謝と、忠誠を俺に告げた。


 

 教会改革の功績を認められ、俺は父から「これからはお前達の時代だ。よい領主になれ」と領主の座を譲位された。


 父は、レイシアが生まれた三年後に、安らかな顔で母の待つ神々の国へ召された。


◇ 


「それにしても、ずいぶん変わったよな」


 レイシアの洗礼式の相談に教会を訪れたは、お茶を飲みながら当時をなつかしんだ。バリューは「全ては神の御心とクリフト様のおかげです」と言うとやわらかな笑顔で答えた。


「ところで洗礼の後から、レイシア様に孤児院で勉強させませんか」


 貴族の子供は学園の入学(13歳)に合わせて、早い子でも10歳位から初めて読み書きを習い始める。それなのに孤児院では4歳前後から読み書きを教えている。


 10歳で卒院しなければならないのと、6〜7歳にもなれば外で日銭を稼いだり、院内の仕事ができるから読み書きを覚えるのは早めに終わらせたいと言う事らしい。


 天才の考えは常識には囚われないみたいだ。


「早くないか?」


 私がバリューに言うと、反論された。


「孤児でもほとんどの子は一年もあれば読み書きと簡単な計算は身に付きます。クリフト様のお嬢様であればすぐに覚えるでしょう。早めに読み書き出来ればさらにいろいろな事も吸収できます」


 それでも5歳だぞ。そりゃうちの子は可愛いし、利発だし、性格いいけど5歳……


「そうか?ゆっくりでもいいと思うが……」


「私は、そこらの家庭教師より的確に、そして深い知識と教養を伝える事ができると自負しています」


 (だろうな)と、とりあえず頷く。


「もし10歳になってから私に預けますと、レイシア様は4歳の子供達と同じ環境で勉強することになります。周りには読み書きも仕事もできる6歳からの子供達に囲まれて。プライド保てますかね」


 (それはやだな〜)


「勉強は一人では中々身に付かないものです。家庭教師次第では嫌いになってしまうことも多々あります。今でしたら、同じ様な年齢の子供達と一緒に遊び、一緒に学び、切磋琢磨しながら成長できます」


(そんなものか?)


「それに奥様身重なのでしょう。何かと環境が変わる時はよい機会です。奥様の負担軽減にもなります」


 (妻の負担軽減か)


「とりあえず、洗礼後2時まで私に預けみて下さい。だめなら止めればいいのです。その間奥様とデートでもしていたら如何でしょうか」


 (妻とデートか。二人きりデート、久しぶりだな。まあ一度預けてもいいか)


 私は妻とのデートを楽しみに思いながら、レイシアをバリューに預ける事にきめた。


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