閑話 教会改革 領主視点❶

 人生50年。死産と1歳までの死亡率はかなり高い。冒険者は生き急ぐ。老兵は去る。老い先は短い。だから、若く体力のある内に世代交代できなかった者は、何もやり遂げることができず後悔のまま老いていく。


 それを知っている責任ある立場の者は、早い段階で隠居して若者にチャンスを与えようとする。若者は認められようと奮闘努力し成果をあげる。それが持てるものの役割。なかなか権力にしがみついて上手く譲れない者もいるが。


 それと、教会は別だ。年齢を重ねると徳が増える、とか言ってジジイ共がトップに君臨している。煩悩が増えるだけじゃないのか? 老害としか言いようがない。



 俺クリフト・ターナーはホーリー貴族学園を卒業してから、父の下で領地経営を学び手伝いをしている。その一環で父から孤児院の改革を課題として出されたんだ。


 ……内密に調査したら、ひどい有り様だった。


 中央から派遣された神父はこんな田舎は嫌だとばかりに、孤児院の予算を本部に賄賂として横流しをしながら、自分の懐まで潤わせる始末。


 孤児達は労働力としてあちこちで働かされその賃金まで掠め取る。挙げ句人買いに子供を売る。


「何故放っておいたんだ」


と父に調査書を叩きつけた!


「この期間でよく調べた。でもまだ足りないな。神殿は調査書だけでは煙に巻いてしまう、古狸共の集まりだ。これも持っていけ」


 父は証拠となる品々を机に積み上げた。父も怒っていたらしい。私はそれらを持って王都の中央神殿に殴り込んだ。



 教会は事実を認めたが、横領も賄賂も、孤児の売買すら公表しないようにあちらこちらから圧力をかけてきた。うちだけじゃない。これが一般的な孤児院の在り方だと。


 憤りを感じながらも、俺は教会へ貸しを認めさせ、新しい神父の指名権を勝ち取った。教会にどっぷり浸かった年寄りは駄目だ。できればキャリアのない若いヤツがいい。


 そう言うと、「話し合ってきます」と担当者は席を立った。なぜ認められない。イライラした俺はお茶を出しに来た修道士に嫌味の一つも言おうと思い顔をみた。そこには、どこかで観た顔があった。


「シャルドネゼミのバリューか?」


 学園で見たことがある。確か成績はいいが変わり者、人間関係が苦手なのに何かと目立つ有名人だった。


「はい。確かにシャルドネ先生にはお世話になりましたが……貴方様は」


「俺は領主候補科のクリフトだ。学科は違うが同期生だよ」


 懐かしさのあまり、学園の話や領地の話、教会の内部の話など付き合わせてしまった。

 しかしバリューはこんな短い会話でも分かる程、頭の良さが滲み出ている。なんでこんな才能溢れる者が教会に? 教会の毒に晒すのは惜しい人材だ。我が領に欲しいな。


「バリュー様、我がターナー領の神父になっていただけませんか」


 思いっきり丁寧に膝を曲げてお願いしたら、バリューのヤツあたふたしだした。思わず笑いそうになったよ。


「お止めくださいクリフト様。椅子に座って下さい。私ではなんとも。上司を呼んできます」


 老害共は、「見習いごときに」などと怒ったり、他の者を勧めたりあの手この手で止めさせようとしたが、俺が調査書の控えをチラつかせたら真っ赤になりながら


『神父見習いとしての派遣』


として認めた。神父見習いなので予算を削るそうだ。


 まったくしみったれた話だ。こっちの体制も考えてくれだと?誰が組織内の都合など考えてやらなきゃいけないんだ。

 

 そして俺は素晴らしい仲間を手に入れる事ができた。そして私達は自領の教会を改善した。



◇ ◇ ◇


 孤児院の改修、虐げられていた孤児のメンタルケア、食事の改善、教会への寄付集めと安定的なスポンサーの開拓、孤児院の社会的信用の向上、孤児の普段の仕事探しと就職先の斡旋、前任の神父と繋がっていた悪徳商人と関係者への処罰、等々やるべきことが山積みだった。


 前の神父何やらかしてくれたんだ。まったく。それに対してバリューの有能さよ。あの時バリューと出会えた事を神に感謝した。


 えっ、教会が嫌いじゃなかったかって? 神は信仰してるよ。組織が信用できないだけさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る