はじめてのお手伝い②

 食事を終えると後片付け。勝手が分からないレイシアは、何もできずに突っ立っていた。


「そこの新入り、あんたはこっち」


と孤児のリーダー(9歳女子)サチは、パンの入ったカゴとオタマをレイシアに渡した。アイを筆頭に長く孤児院にいる子は読み書きなどの勉強は終了している。今日は調理担当だったので、サチは休み時間のレイシアの壊れっぷりは知らない。

 綺麗なドレスを着て、手を震わせ、俯きながらみすぼらしい食事を静かに食しているレイシアを見て


 (貴族の子かな?上品なお金持ちの子が捨てられたんだ。可哀想に。私が面倒見なきゃ)


と勝手に思った。


「あたしはサチ。アンタは?…………レイシア?いい名前ね。だけど孤児にはむかないわ。……今からあんたの名前はレイだ。いいね、レイって呼ぶよ」


……どこぞの風呂屋のババァ?……。


「じゃレイ、チビ共のご飯に行くよ。手伝いな」


 そう言うと鍋を抱えて歩き出した。育児室に入ると少女が二人で3歳以下の子供12人を見ている。サチは「ご飯の時間だよ。あ、こいつ新入り。ほら挨拶」と言うと鍋を置いた。


「はじめまして。レイシアです」


 レイシアはスカートを摘んで礼をすると子供達が集まってきた。


「じゃ、レイはパンを配って。チビ達はパンもらったらスープ取りにきな」


 サチはそう言うとスープを盛り始めた。レイシアはパンを配りながら


 (何この小さな生き物。カワイイ、カワイイ、頭なでたい。ほっぺさわりたい)


と煩悩に悶えていた。


 パンが1つ余った。見回すと部屋の隅で体育座りをしている少年がいた。


「あー、あの子ね。一昨日来た新入り。捨てられたばっかでいじけてんのよ…。レイ、新入り同士話でもしてきな」


 サチに言われレイシアはその子に近づいた。しかし何を話せばいいのかレイシアには分からない。仕方ないので黙って隣に座った。


 (何もできない)レイシアはそう思っていたが、心理学で言えば同調行動と言う相手の心を開かせるテクニックの1つ。下手に話しかけるより何倍も効果がある高等テクニックを使っていたのだ。


 レイシアのドレスが目に入った男の子は、姉を思い出して「おねえちゃん」とレイシアに抱きついて静かに泣き出した。


 レイシアは、(えっ、なに?わたし泣かした? どうしたの? どうするの? どうしよう? とりあえず頭なでてみる? ああ、なんて手ざわり。モフモフ?)


 男の子は強度のテンパだった。レイシアは心ゆくまで、モフモフを堪能した。


◇ ◇ ◇


「レイ凄いね。あの子落ち着いたわ。ありがとな」


 調理場で洗い物をしながらサチは言った。レイシアはなぜ褒められたか分からない。モフモフしてただけだから。

「サチさんこそスゴイです。なんでもできて」


「あたしはみんなのお姉さんだからね」


 胸を張るサチ。レイシアはお姉さんと言う単語に反応した。


「わたし、おねえさんになります。(もうじき弟か妹が生まれるんだよ)」


「そう、お姉さんになるのね。(あの子のお姉さん役引き受けてくれるのね、よしよし)」


 ……微妙に会話が噛み合わない。


「わたしサチさんのようなステキなおねえさんになりたいです」


「だったら、何でもできなきゃね」


「何でも?」


「そう。読み書き計算、掃除洗濯食事の用意、どんな仕事もこなしてこそ一人前のお姉さんよ。かんばりな」


「うん、がんばるよ。かっこいいステキなおねえさんになるために」


 サチは、来月自分が卒院する前に(良い人材が入った。ひと月鍛え抜けば即戦力だ!)と喜んだが、すぐに孤児でないと分かり愕然とするのだった。


 レイシアは、おねえさんのハードルが、果てしなく高くなったのに気づいていなかった。

 

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