はじめてのダンス❷
敷地の奥に孤児院がある。食堂では子供達が自習をしていた。机と椅子が設置された広い部屋は食堂しかないから。奥にある調理場では当番の孤児が、お昼ごはんを調理していた。
「はい、皆顔を上げてこちらを見なさい」
神父がそう言うと、みんなの視線がレイシアに集まった。レイシアは神父の陰に隠れた。
「大丈夫。ほら顔を出して挨拶しなさい」
神父がレイシアの背に手をやり前に誘導する。レイシアは勇気を出して挨拶をした。
「はじめまして、レイシア・ターナーです」
とスカートを摘んでお辞儀をした。
あちらこちらから一斉に「カワイイ!」「キレイ!」「おひめさま?」「ホンモノ?」といった声があがった。
「はい、みんな静かに、今日から皆と一緒に勉強するレイシアです。仲良くするように」
「「「は~い」」」とみんな答えた。
「じゃあレイシア。そこの席に座っりなさい。」
「はい。バリュー先生」
「よろしい。では授業を始めます。今日はレイシアの初めての授業です。ですから『レイシア』の文字を覚えましょう」
先生はレイシアの石板の上半分に『レイシア』と大きく書いて、レイシアに見せながら言った。
「この文字とこの文字が合わさって『レ』、この文字一つで『イ』、これとコレとこの記号を合わせて『シ』この文字は一つで『ア』です。自分の名前は大切ですからここのスペースに何度も書いて今日中に覚えましょう」
レイシアが見本の文字を、書いては消しまた書いたのを確認して、神父は周りの子供達に指導に行った。
◇
「今日の授業はここまでです。お昼ごはんの支度があるので5歳以下の子は外で待ってるように。6歳以上の子は調理場へ集合」
神父がそう言うと子供達は、
(お姫さまのような服を着たカワイイちっちゃな新人と遊べる!)
とテンション瀑上がり。
教会では、孤児がまともな仕事につけるように、礼儀作法も指導している。故に授業中は静かだったが、休み時間は無関係。
「かわいい!」「どっから来たの!」「お外行こう」「あた¥#@……」「わら%&+」「√π׶∆×」と一斉に話し出すので聞き取ることも出来ないレイシア。思いっきり腕を引っ張られ外に連れて行かれた。
レイシアは屋敷の中ではいつも静かな大人としか接していなかったので、あまりの勢いにどうしていいか分からずパニック。「こっちこっち」と駆けずり回る子供達に引きずられたレイシアは思わず、
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャーー」
とお嬢様らしからぬ笑い声をあげてクルクル回った……。子供のパニックはいつも想像のナナメ上。
子供達は大喜び。レイシアのパニクったテンションにシンクロしたのか
「「「 ウヒャヒャヒャヒャー 」」」
と笑いながら手を繋いで大きな輪になり、グルグルグルグル回り始めた。
(お祈りした、名前も書いた。でも分からないことだらけ。そうだ輪になったままダンスしよう… これだわ!)
♬ランラララ、丸くなって
ランランラン、すぐにできるから
ルンルンルン、ああ円陣ダンス
ルルールルー、友達になれるよ
み〜ん〜な〜〜で〜〜〜(ジャカジャン)♪
踊りきった。歌いきった。
壊れまくったテンションのまま、みんなは心を一つにして大声で笑った。
「「「ウヒャヒャヒャヒャー」」」
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