はじめてのダンス❶

 教会の活動の一つに孤児院の運営がある。様々な理由で親の庇護が受けられない子供達を保護するのだが、孤児院のあり方は教会次第。神父(運営)や領主(タニマチ)の思い一つでどうとでもなってしまう。


 ターナー領の孤児院は、王国一孤児に優しいと言っても過言ではない。神父が頑張っているから。領主がケチらないから。


 おかげで、例えば旦那を亡くし後妻に入る未亡人に、

「子供は要らん、連れてくるな」

といった横暴な相手がいたとする。言う事を聞かなければいけない母親が、自領の孤児院を嫌がり、わざわざ他領から子供を捨てに来る。そんなことがよく起こっていた。


 王都近くの裕福な地域に住んでいながら遠いど田舎まで来れる程余裕のある家の子供が、あまり豊かとは言えないターナー領の孤児院に捨てられて行くのだ。理不尽……。


 世知辛い話だが、他領の孤児院は酷い所が多い。親心としては少しでも子供に幸せになって欲しいと言う事だろうが、ターナー領からしたらいい迷惑。


 しかし来る孤児拒めない。

 それが、人の良いターナー領の性質。


 故に農村特有の『ご近所同士の相互扶助』がしっかりしている長閑な田舎の割に、ターナー領の孤児院には多くの子供達が集まっていた。


◇ ◇ ◇


 教会の控室。洗礼を終えたレイシアに両親は、「よく頑張った」「素敵でした」とレイシアを褒めながら、家族でゆっくりと休憩していた。


 儀式をやりきって緊張の解けたレイシアは絶え間なく話し続けていた。しばらくして興奮が収まるのを見届けてお父様が言った。


「レイシア、私があげたプレゼントの正しい使い方を神父様が教えてくれるよ。これから神父様に字を習って来なさい。素敵なレディになるためにね」


と言って石板とチョークを渡した。


 レイシアは石板を胸に抱え、迎えに来た神父に連れられて教会を出た。歩きながら神父は、


「これから行く教室の中では、私の事をバリュー先生と呼ぶように。君のことはレイシアと呼びます。これは教室での先生と生徒の約束事です。よろしいですね」


と伝えた。


 レイシアが、「はい、バリュー先生」と言うと神父は「よくできました」と褒めた。そして先生は教室の扉を開いた。

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