はじめてのお出かけ②
レイシアはお父様との約束を守り、静かに静かに歩いてた。周りから見ればしっかりとした小さなレディに見えた。けれど心の中は大騒ぎ! 興奮しっぱなし!
(すごいすごい! キレイ! 絵本で見たよりキラキラしてる! マドに絵がかいてあるよ、天井にも)
薄暗い礼拝堂の窓にはステンドグラスがはめ込まれ、やわらかな日差しが様々な色のガラスを通して差し込み、部屋の空気に溶け込みながら床や壁を彩っていた。
絵本では表しきれない光の芸術。静かな緊張感と厳かな雰囲気を、レイシアも感じていた。
レイシアは一番奥に人形を見つけた。
「あれが神様?」
レイシアは静かに尋ねた。お父様は答えた。
「女神様、アクア女神様だよ。レイシア」
「女神様?アクア女神様?」
「神様は沢山いるのは知っているよね。女神様は女性の神様。ここの教会は水の女神様を
(あの人形は女の神様なんだ! そうか、神様のお家だからキラキラ光ってるのね)
レイシアを真ん中に親子三人椅子に座ってお祈りした。レイシアは絵本に描いてあった少年が祈っている絵とおんなじたねと思った。その時、真っ白い裝束を身に纏った男性がゆっくりと歩いて来た。
(キレイな人。あっ! あそこに女神様がいるから、もしかして男の神様なの!? 神様がうごいてるの?)
レイシアが「あなたは神様ですか?」と恐る恐る尋ねると、その男の人は微笑んで言った。
「レイシア様。私は神様に仕える神父のバリューです。今日はよくいらして下さいました。これからレイシア様の5歳の誕生日を神様にお知らせして祝福を頂きます。さあ、一緒にお祈りをいたしましょう」
神父は壇上に上がり、歌うようにお祈りを始めた。レイシアの両親も神父様に続いてお祈りの言葉を口にしていた。レイシアもムニムニとお祈りの言葉みたいにつぶやいた。よく分かってなかったけど。
しばらくすると神父はレイシアを壇上に呼び寄せ、女神様の前に立たせた。
「さあ、私と同じように跪いて手を組みなさい。そして私の言う言葉を繰り返して、神様に誓いなさい」
神父は祈りの言葉を紡ぎだす。
「清らかなる流れを司る、水の女神アクアに捧ぐ」
歌うように語るように美しい旋律を奏でながら、神父が一小節目を唱えレイシアに追唱を促す。レイシアは神父の言葉を思い出しながら、祈りの言葉を小さな声で唱えだした。
「きよらか、なる、ながれ、を、つか、、つか、さどる?、さどる。つきさどる。さどるどるどる、ドララララ、、ドラ、ドリ、ドル、ドレ、、、、、ドラャーーー」
厳かな空気感によって引き起こされた緊張と、聞いたことのない言い回しにレイシアはプチパニックを起こしていた。
神父は子供用の祈りの言葉でなく、正式な大人用の祈祷文を読んでしまったと舌打ちした。やっちまったと焦ったが時すでに遅し。気が付くとレイシアは三白眼になりながら、
「ドルマルナルヨシ&ナ¥ブ@+ …………ロロ……ズ……べ……ヒャッ ヒャッ ヒャヒャヒャ シャーーーーー」
神父もパニクった。
「レイシア様、落ち着いて下さい。落ち着いて下さい。立ち上がって深呼吸です」
神父はレイシアの両脇にガシッと手を入れ、力まかせに持ち上げると演台の上に立たせた。
神父とレイシアの目線の高さが同じになる。
神父はレイシアと目を合わせ『こうするんだ!』と鬼気せまる迫力で腕を伸ばし、胸の前でクロスすると、大きく腕を開いては閉じ 開いては閉じ、スーハー スーハー と深呼吸を始めた。
「さあ一緒に!」
神父が声をかけると、レイシアは無表情三白眼のまま、両腕を開いては閉じ 開いては閉じ、スーハー スーハー深呼吸を始めた。礼拝席に座っていた両親も、神父の号令を聞いて、
((新しい儀式かな?))
と思いながらも立ち上がり、腕を大きく動かしながらスーハースーハー深呼吸を始めた。後ろに控えているターナー家の使用人達も深呼吸を始めた。たまたま礼拝に来ていた町の人々も…………。
♪みんな揃ってスーハースーハー。腕を開いてスー♪♪♪。腕を閉じたらハー♪♪♪。スーハー スーハー スーハー スーハー ………………。
……礼拝堂は、謎の一体感と、得も言われぬ幸福感に包まれていた……
後に王国中に広がり後世までにも残る、
聖なる儀式『スーハー』
が誕生した瞬間だった。
◇
皆が落ち着いた後、神父はレイシアに子供用の祈りの言葉を唱和させた。他にもいろいろある正しい洗礼の儀式がつつがなく執り行なわれた……ホントだよ。
厳かな洗礼式を終え、無事水の女神の祝福を受けたレイシアは、呼吸の大切さを覚えた。教会に来て初めて学んだ生きた知恵【
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