第43話 一緒に家具探しと……
仕事が休みになったタイミングで、
「あんまりムリはするなよ。いくら好きな仕事をしていても、毎日動けるってわけじゃない。お前自身がネコと戯れる時間も、ちゃんと作るんだ」
昼食をともにしながら、俺は村井にアドバイスした。
好きな仕事ほど、やりすぎてしまう。定休日を設け、仕事関係なく自分がネコと遊ぶ時間を作るように指示する。
「わかりました。いってらっしゃい」
村井とネコに見送られ、俺たちは外出した。
「ヒデくんと、お出かけだ」
小さい子と遊ぶかのように、寿々花さんは俺に声をかける。
「まずは冷蔵庫ですね。あとは」
「ベッド。とにかくベッドだよ」
家具売り場で、寿々花さんがぴょんぴょん跳ねた。
「洋服ダンスは、空きが結構あるから。ベッド見に行こ」
楽しそうだな。
さすがに、ベッドで跳ね回るなんてことはしないが。
「これどう? シーツに敷くクッション」
低反発式で、手を乗せると沈み込んでいった。
「いいですねえっ。フッカフカですね」
手頃な価格のベッドを見つけたので、低反発シートを追加して購入する。シートのサイズもピッタリでちょうどいい。
あとは冷蔵庫を新調した。どちらも一人分の食材を買うと、すぐ満タンになるからだ。寿々花さんは入居したときに、俺の使っていたモノは処分している。
そこから数日、ネコカフェを開く。
スタッフの募集が落ち着くまで、朝と夜は俺たちも店員になることにした。村井一人で、男性サラリーマンの相手をさせられないからだ。最初の客は、そんなに悪い人ではなかったが。
その後、村井はマシンのメンテ方を教わって、カフェを順調に営業している。
冷蔵庫と、ベッドが家に届いた。
古い家具類と入れ替えると、いよいよ寿々花さんと二人で暮らすんだなと実感が湧く。
夕飯を、村井と一緒に食う。今日はざるソバだ。寿々花さんによると、引越しソバがまだだったからとのこと。
寿々花さんのレクチャーで、村井の料理もだんだんとうまくなっていた。
「マシンの音で眠れないとかあるか?」
「ないです。静かなもんですよ」
ソバをモリモリと食いながら、村井が状況を報告する。
「ネコも去勢済みの子だけなので、騒いだりはしません。小さい子にいじわるもしないですね」
客も優しい人ばかりで、楽しいという。
「手作りお菓子とかも出してあげたいんですが、ご時世的にムリでして」
「仕方ない。いくら地域密着型といっても、衛生面でクレームが出たら大ごとだからな」
「とにかくありがとうございます。これであたし、夢に近づきました」
村井は、寿々花さんと俺に感謝を述べた。
夕飯を終えて、待ちに待ったベッドである。
「広いねえ」
入浴後スウェットに着替えて、ベッドに並んで座った。自然と、指を絡ませながら。
「なんか、こうしてマジマジと見つめ合うのって照れるよね」
寿々花さんが俺の部屋に入って、もう数週間になる。お互い、もう着替えなどで気を使う仲ではない。それでも一線は保ってきていた。そういう気分にならなかったのである。
「飲んだ方がいい?」
「いえ。酔った勢いとか、イヤなんで」
二人で寝るなら、ちゃんと理性を持って及びたい。
「やっぱりマジメさんだ。ヒデくんは」
「寿々花さんも、優しいです」
「いやいや。度胸が足りないだけだよ」
気分よさそうに、寿々花さんはユラユラと揺れる。動きが止まり、俺たちは一緒に寝転んだ。
ライトを消そうとしたら、手を添えられる。
「ちょっと、エッチ過ぎません?」
「最初はね」
俺の上にのしかかり、寿々花さんが服を脱ぎはじめて……。
気がついたら、朝になっていた。
俺の手は、寿々花さんの感触を求める。
寿々花さんが、いない。
やはり、あれは幻だったのか?
いや、俺はたしかに、寿々花さんの感触を覚えている。
朝食を作っているのかとキッチンへ向かう。
書き置きだけがあった。
「父と話し合ってきます」とだけ。
胸騒ぎがする。
答えは、つけっぱなしのテレビにあった。
お父上の会社が、倒産したと報道している。
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