第42話 仕事をしているときの社畜

 ネコカフェが、プレオープンした。


 まだ準備段階なので、ドリンクはペットボトルと紙コップで提供する。アソートも、間に合せの市販品だ。なので、まだ朝と夜は営業しない。宣伝とアソート提供元へのあいさつまわりにまわす。営業時は、子どもだけを相手にする。金も取らない。あくまでも、宣伝のためだ。


 俺は会社から、村井むらいのサポート役として正式に任命される。ジャンガリアンは、村井のネコカフェと本契約したのだ。


 オープンに向けて、どのお菓子をカフェに置くか営業に向かう。


 村井とともに、和菓子屋へ。


「おもちを入れてほしいのですが」

「すいません。お子さんやお年寄りが召し上がるので」


 和菓子屋からの要望を、やんわりと断った。


「なるべく日持ちして柔らかく、それでいて消化にいいものを」

「難しいですな。ではまんじゅうと、ピーナッツ入りのソフトあられですね。うーん、まんじゅうばかり売れるよ。人気だから、うれしいんだけどさ」


 店主のおじいさんが、苦笑いをする。


「ここのおまんじゅうは評判なので、置いていただけると助かります」

「ああそう。じゃあいいですよ」

「ありがとうございます」


 ひとまず、一軒目が決まった。


 二軒目の洋菓子屋は、あっさりと決まる。売れ残りでよければと、焼き菓子を大量に回してくれるそうな。


 帰ってきたら、昼食の後で棚の設置だ。


 寿々花すずかさんが、荷物を受け取ってくれていた。


「すいません。あたしの仕事なのに、留守番させてしまって」

「いえいえ。アパート全体のことなので、管理人として当然のことだよ」


 プレオープンのカフェに、アソートを置く棚を用意して準備OK。子どもでも取りやすいように、背を低くしてある。 


 三人までという制限付きながら、子どもたちはネコと戯れて楽しそうだ。同行している保護者も安心である。


 ネコをいじめる子もおらず、かといって怖がる子もいない。実に平和だ。


「かわいいねえ」


 寿々花さんも、ネコに触らせてもらう。


 あなたの方がかわいいです、寿々花さん。


 俺も、抱かせてもらった。


「逃げないですね」


 秒で逃げれられるんじゃないか、と思ったが。


「好かれてるみたい。動物に好かれる人って、優しいんだって」

「俺って、そんなですかね?」

「優しいよぉ」


 ネコもつられて「にゃー」と鳴いている。


 カフェは、それなりに順調のようだ。


「ドリンクを飲んでいるのは、たいてい母親の方ですね」

「ジャンガリアンが強いのは、コーヒーとかお茶だもんな」


 夕飯時に、反省会をした。夏野菜カレーが、モリモリ減っていく。


「ミックスジュースは?」

「あれこそ、大人向けですよ。大人が幼少期を懐かしんで飲む、ってコンセプトなので」


 純喫茶の味だもんな。どちらかというと甘すぎず渋い。


「もっと子どもウケのいい、ドリンクが必要だな」

「スポドリは、どの層にもウケがいいです」

「夏だからだ。秋冬に向けて、ジュース類のバリエーションを増やそう」


 とはいえ、なにがいいんだろう?


「寿々花さんは、欲しいものは?」


 俺はおかわりを頼み、寿々花さんがカレーを盛る。


「うーん。メロンソーダがほしいですぅ。色的にさわやかで」


 あーっ。そういうのか。夏っぽい上に、季節を問わない。


「たしかにコーラに次いで、鉄板ですね!」

「わかった。頼んでおく。ミックスジュースがダメそうだから、メロンソーダで攻めよう」


 俺が村井と会話していると、ずっと寿々花さんがニコニコして見ていた。


「寿々花さん、なんでしょう?」

「いや、お仕事しているときのヒデくんって、そんな感じなんだなーって」

「えっ」


 しまった。仕事を家に持ち込んでいる。せっかくリラックスタイムなのに。これが社畜根性か。


「何、照れてんですか、キモい」

「うるせえよ、村井!」


 俺は、カレーを一気にかき込んだ。


「明日! 明日はお休みです。でかけましょう」


 俺が宣言すると、寿々花さんが手をたたく。


「わあ、ベッド?」

「はい! 見に行きましょう!」

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