第41話 ネコカフェ準備

 村井むらいは、寿々花すずかさんが元いた部屋に住むことになった。


 その際、ネコカフェを試験的にオープンするという。


「えらい急だな?」

「ドリンクバーの使い方と、メンテの仕方などを学んでおきたいので」


 なにより、自分だけネコを占領するのも気が引けるという。


「それはいいな」

「きっかけは、寿々花さんだったんですよ。この辺は子どもや主婦も多いので、暇な人が多いんです。そういう人たちに開放してはどうかって」


 寿々花さんと話し合って、決めたらしい。


「なんていうんです、子ども食堂的な?」


 子ども食堂ということは、無料提供か。


「ああ、いいな。学校帰りのおやつタイムで、タダで使ってもらうんだな?」


 このアパートの前にある道路は、スクールゾーンだ。また、幼稚園も近い。


 一二歳以下の子どもには、無料で提供するという。園児は保護者連れだろうし、親も利用するならそちらから請求すればいい。


「利用したい人には名札を作ってもらって、後で請求する感じ。それでも、月額五〇〇円はいかないようにするって感じだね」


 子どもがいない朝方はモーニング、昼は主婦向け、一九時以降に、またナイト料金にするという。ビジネスマン・OL向けに開くそうだ。


「子どもがわっと来ると、狭すぎないか?」

「わたしが寝室に引っ込むんで」


 寝室がリビングと別に設置してあるので、営業には困らない。


「わかった。ジュース系はこっちで運び込むよう手配する。菓子類は業者さんに頼んでおくから、欲しい物があったら言えよ」

「はい。ありがとうございます」


 自分でも営業できるように、業屋へのあいさつだけは一緒に行く約束をした。


 ネコカフェは、これでいいか。あとは、俺たちの問題なわけだが。 


「ああ、あたしは気にしないでください。夜中に聞き耳立てたりしないんで」

「当たり前だっ」

「むしろ、ネコちゃんたちが発情しちゃったらうるさいかも」


 お前は、そっちを心配したほうがいいよな。


「お夕飯だけは、一緒に食べようね。持っていくから」

「ありがとうございますぅ」


 たしかに、村井だと全部レトルトや冷食ですませてしまいそうだ。いくら今のメーカーが健康面に気を使っているといえど、最終的な体調はやはり消費者による。気分や好きなもので固まったり、同じ味ばかりになったり。


 寿々花さんの料理なら、問題はない。


「でも、林田はやしだ先輩に悪いです」

「いいよ、俺のことは。お前がここに住むのは、短期的なんだから」


 村井がここにいるのは、工事が終わる数カ月後まで。


「待ってください。となると、また寿々花さんは元のお部屋に戻るなんてことは」

「ないないっ。ないよー。そんなイジワルしないって」


 また、寿々花さんがにゅーと抱きついてきた。


 そのさまを、村井がボケーっとした顔で見つめている。


「なんだよ?」

「えっ、いや。あたし、恋愛系ってマジ疎いんですけど、いいなーって」

「うるっせえ。俺たちは帰るからな」


 今後に行う業者あいさつまわりの予定をメモさせた。


 部屋を出た後に夕飯の買い物をして、今日は終わりだ。


 ああ、なんだか休暇なのに仕事した気分だった。


「お風呂沸かしておいたから、入っておいでー」

「す、すいません。でも寿々花さんが」

「いいよ。一緒に入るから」

「そ、そうでした」


 俺が湯に浸かっていると、寿々花さんが入ってきた。俺はできるだけ見ないようにしているが、寿々花さんは、バスタオルもしていない。


 まだ寿々花さんも過剰に意識しすぎているのか、俺の方へは顔を向けなかった。


「昨日の今日でいきなり、ってムリだね」


 寿々花さんが、苦笑いをする。


「そうですね。俺も、まだ慣れません」

「ちょっとずつ、距離を近づけていこうね」

「はい」


 入浴後は、夕飯を村井と食べた。今日の献立は、冷しゃぶと夏野菜の素揚げだ。


「ああああ。栄養満点だぁ」


 俺より、村井の方が喜んでいる。


「明日から外回り行くからな。今のうちに夏バテ対策しておけ。俺もだが」

「はい。当分お世話になります」

「よし。ごちそうさま」


 就寝の時間になったが、まだお互いシングルベッド同士だ。くっつけてはいるが、まだ距離がある。


「ダブルベッドも、見に行こうね」

「は、はいっ」


 楽しみで仕方ない。

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