第40話 同棲解禁

 このアパートは基本、同棲を禁じている。許可なく異性を住まわせてはいけない。


 しかし、寿々花すずかさんは俺と同居するという。


「管理人は私なので、いいんです」


 結構、強引だな。


「俺と住んで、いいんですか?」

「ヒデくんと住みたい」


 そこまではっきり言われると。


「ちゃんと、高橋たかはしさんにも確認を取りました。『同棲しますか?』って」


 高橋さんとは、下の階に住む女子大生だ。トリマーの恋人がいる。彼女のカレシも割と泊まりに来ているらしい。


 寿々花さんが同棲したいなら、高橋さんも同棲する権利がある。ちゃんと、筋を通したんだな。


「どうでした?」

「断るって」


 高橋さんは、同棲しないという。南側の団地群辺りにカレシの職場があるらしく、同棲すると遠くなるからだとか。


「カレシさんのアパートの一室を、トリミングフロアにしてるんだって」

「それだったら、ウチで同棲は意味ないですね。向こうへ住んだほうがいい」

「だから、高橋さんも退去を考えてるみたい」


 高橋さんがここにいるのは、大学が北側にあるからだ。朝に弱いので、大学の近所に越したそうである。


「退去までは、あと二年待ってって言っていたんだけど、ここがオープンしたら住むでしょうね」

「ですね。二階に住むってことは?」

「あの家は二世帯住宅じゃないから、住むとなるとさらにリフォーム料金がかさむの。だから、通いになるかなって」


 その方がいいかもしれない。どのみちリフォーム期間は住めないから。


「ダメかな?」

「いいです。けど」

「けど?」

「よく考えたんですか? たしかに、交際はしていますけど」


 マジマジと言われると、照れくさい。


「うん。付き合ってるんだから、いいじゃん」

「そりゃあそうですが」


「はいはい」と、村井むらいが手を上げた。


「お二人って、いつ頃から意識していたんです?」

「いつ頃って言われてもなあ」


 俺は、首を傾げる。


「本格的にいいなって思ったのは、痴漢をやっつけてくれたときかな」

「ほぼ初期じゃないですか!」

「やあ、だって隣の家に下着ドロが来たらさ、通報のほうが先じゃない?」


 下の階にいる税理士さんも気づいてたらしい。けど、あの人は通報こそしてくれたがビビって動けなかったという。


「でも、助けたのは俺だったと」

「もうだって、何されるか分かんなかったもん。刃物とか持ってたら、危なかったし」


 あ、俺、そこまで考えてなかった。


 持っていなかったのが幸いしたが、窓を破る鈍器とかあったら骨折モノだったな。


林田はやしだ先輩って、行動する時はいちいち後先考えないけど、ちゃんとまとめてくれるんですよね」

「職場でもそんななの?」

「はい。もううちの職場、これまでトラブルとデスマ続きだったんですよ。なんだかんだ最終的にまとめたのは、林田先輩ですね」


 そこまですごくはない。俺がトラブル解決の糸口を知っていたにすぎず。


「頼りになるんだね」

「いや、俺は」

「なにかあったらよろしくね」

「は、はあ」


 戸惑っていると、寿々花さんが俺に抱きついてきた。


「寿々花さんっ」

「大丈夫。頼りにしてるから」

「は、はい」


 後日簡単な手続きを済ませ、正式に俺と寿々花さんの同棲が決まる。


 

 それから数日間、俺は寿々花さんの荷物類を俺の部屋へ移動する作業へ入った。さすがに大型の家具は、業者さんを呼んだが。


 家具類の運び込みが、すべて終わる。俺の部屋にあった家具とまったく干渉をしなかった。寝て帰るだけの部屋だったので、ほとんど荷物がなかったのが幸いである。趣味の類で、部屋を飾る気力もなかったからな。


 で、元・寿々花さんには、なぜか床一面に畳が敷いてあった。ソファまである。


「あの、先輩。あたし、もうネコカフェオープンしちゃいますね」

「ここでか?」

「はい。プレオープンって感じで」

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