第38話 大家さんの家で話し合い
そういえば俺、誰にも
「いいですよ
スビズバーと、
村井は、寿々花さんから直接話を聞いていたらしい。
「そうなんですか?」
「はぁい」
顔を赤らめながら、寿々花さんがうなずく。
「でも、告白なしで交際とかは知らなかったです。そういうの、流行ってんですかね?」
ずぞぞーと、村井は勢いよくそうめんを頬張る。とても、異性が寄り付く気配はない。
「ううん、知らんが」
「よかったです。林田先輩に彼女さんができて。でも、あたしホントにおじゃま虫になっちゃいました」
「いや、気にするな。今は、自分とネコのことだけ考えろ」
後輩の一大事に、自分だけ幸せな気分にはなれない。
「ありがとうございます。林田先輩のそういう優しさが、寿々花さんを引き寄せたんでしょうね」
「うるせえ」
とにかくこの日、村井は寿々花さんと一緒に寝た。
日曜日の午後を迎える。
大家さん宅である離れの家屋で、緊急会議が行われた。
ネコ屋敷と聞いていたが、たしかにネコが多い。
村井は許可をもらって、茶トラをケージから放す。
すぐに、茶トラは他の保護猫たちと遊び始めた。よかった、ケンカしないで。
次期の大家さんは、寿々花さんが引き継ぐことに秒で決定した。反対意見もなし。
ただ、この家をどうするかが議題に上がった。
建物より、飼いネコをどうするか。
大家さんによると、ずっと前から奥さんが車椅子生活らしい。
「飼っている保護猫が道路に飛び出しそうになって、妻が腰を痛めてしまって」
ご主人が、苦笑いをする。
「だからGWのとき、息子さんご夫婦が迎えにいらしていたんですね?」
「はい。転居の話し合いでして」
寿々花さんが聞くと、大家さんはうなずいた。
奥さんの治療に専念することもあるが、もう年齢的な限界を感じたという。なので、息子さん夫婦の元へ行く算段に。
しかし、奥さん一人だけが嫌がった。息子さん夫婦と、折り合いが悪いのではない。息子さんの住むマンションはバリアフリーなのだが、「ペット禁止」なのである。
「前はペットOKでネコも一緒に入れたのですが、マナーの悪い住人がいまして」
半分放し飼いにしていたら、隣のベランダに侵入して鉢植えを食い尽くしてしまったらしい。それで、ペットの飼育がダメになってしまったのだとか。
仕方なく、役所に引き取ってもらおうかと考えているそう。それでも、奥さんは納得していない。
「この子たちを置いて、家を出たくありません」
まだ、奥さんには未練があるようだ。
で、奥さんはアパートの所有者である寿々花さんに相談を持ちかけたのである。
「かわいそう。また離れ離れなんて」
「そうとは限らないが。たしかに、誰が面倒を見てもらえたらいいよな」
「わたしがフリーランスだったら、お世話してあげたいです。ヒデと一緒に」
村井が、飼い猫を撫でる。
優しいな、村井は。
それにしても、俺の前でネコを名前で呼ばないでくれ。照れくさい。
ネコの一匹が、奥さんのヒザに飛び乗る。
奥さんは、ヒザの上で丸まった猫をなでた。
「ネコちゃんたちって、どれくらいいるんです? 結構な数のようですが」
「五匹。どれも保護猫です」
車いすに乗りながら、奥さんがハキハキと答えた。どれも家族なのだろう。手放したくないようだ。
「アパートでお世話は、ムリですね。引き取ろうにも、狭すぎます」
世話をする人もいない。
松川さんご夫婦も、息子さんが猫アレルギーだそうで。
「家は壊すんですか?」
「できれば、若い人のシェアハウスとして残したいと考えています。家賃収入も入りますし」
ネコが好きな人という条件付きで貸し出せたら、と大家さんは提案した。
「いいですね。まだこの家は元気ですから」
寿々花さんの見立てでは、この家は大事に扱われていて丈夫だという。
「いっそ、この家を猫カフェにしてみては?」
俺は、それとなく聞いてみた。
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