第34話 夏祭りでドキドキ

 二人で浴衣を借り、夏祭りへ。


「どうかな、ヒデくん」


 寿々花すずかさんが、浴衣を披露した。白を基調として、柄は赤いツバキである。髪も、ポニーテールにしていた。


「すごくキレイです。寿々花さん。もう花火大会みたいです」

「そういうヒデくんもいいね。ガッシリしているのが、甚平からでもわかるよ」

「とんでもないです」


 俺は着物がはだけたら、直し方がわからない。なので、着脱しやすい甚平にしてもらったのだ。


「行こうか」


 自然と、寿々花さんが手を差し伸べ来る。


「はい」


 俺も遠慮せず、寿々花さんの手を取った。


 昼間から縁日はやっていたようで、屋台飯で賑わっている。


 縁日は射的などで、遊びを中心に楽しんだ。といっても、キャラメルくらいしか当たらなかったが。


 金魚すくいや、ヨーヨー釣りも楽しんだ。とはいえ、持って帰るワケにはいかない。金魚は逃がし、水風船は欲しがっている子どもにあげた。


「花火って二〇時からだね」

「一九時半までには、ディナーにいきましょう」


 だが、寿々花さんはお腹を押さえている。


「ひょっとして、お腹すいちゃいました?」

「うーん。でも今食べると夕飯が」


 だよな。腹にたまらないものがいい。


「タコ焼き六個入りを買って、二人でシェアしましょう」

「さんせー」


 タコ焼きを買い、休憩所へ。向かい合わせになって、三つに分ける。まだ一八時になっていないから、腹に影響は出ないだろう。


「ハフハフ。かき氷もいいけど、熱いのもおいしいね」

「そうですね。うまいです」


 ソースがかかりすぎているが、その方が味がドッシリしていてうまい。タコと一緒に味わうと、よりいっそう味が増す。


「他に、欲しいものはありますか?」

「ラムネかな?」


 しかし、この休憩所は酒しか置いていない。ちょうど、ドリンクの入れ替えだったみたいだ。ソフトドリンクは、別の店に行く必要がある。


 俺も、今は酒って気分じゃない。酒は、ディナーまでおあずけだ。


「あっちのフライドポテト屋で、ラムネ売ってますね」


 ついでだから、ポテトも買ってしまおう。


「丘の上にベンチがあるよ。あっちまで行こうか」

「いいですね」


 花火まで時間があるため、まだ空いている。


 俺たちは、神社のそばにあるベンチに座った。


 軽快な音で、寿々花さんが下駄を鳴らす。


「ヤブ蚊にだけ、気をつけてくださいね」

「はーい」


 夜景を見つつ、ポテトの小を二人でつまむ。


「ああ、ヤバイね」

「ディナー入りますかね」


 どうして、屋台ってこうも誘惑が多いのだろう。すべて小サイズで頼んでいるはずなのに、むしろ色々食ってしまっているような気が。


 ポテトも、そんなにうまいわけじゃない。揚げすぎて、パサパサだ。とはいえ塩がキツイから、暑さ対策にはもってこいである。この強い塩味も、祭りの醍醐味だ。


「りんごアメも、チョコバナナも、ガマンするの大変」

「俺もです。こう暑いとビールが恋しいですね」

「でも、楽しいね。私、男の人とお祭りに来るの初めて」

「異性と行くのは、俺も初めてですよ」


 寿々花さんと、じっと見つめ合ってしまった。


「下駄、しんどくないですか?」

「腫れてたりとかは、していないよ」


 雑談していないと、妙に意識してしまう。


 会話で場をつなぐか。 


「――ッ!」


 急に、寿々花さんが俺に抱きついてきた。


 後ろで草がガサガサっと鳴ったので、驚いてしまったらしい。


「ヘビかなんかいる?」

「いませんよ。安心して」


 ただ、なにかいるのはたしかである。


「確認してみます?」

「怖いよぉ」

「ヘビだったら一大事なんで」


 俺たちは、そっと神社の裏手を覗き込んだ。


 後ろで俺の甚平を引っ張りながら、寿々花さんも恐る恐るついてくる。


「ん!?」


 思わず、俺は声を上げそうになった。慌てて口を押さえる。


「どうし……っ!」


 寿々花さんも、同じように物陰に隠れた。


 なんと学生のカップルが、神社の裏でキスをしていたのである。

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