第30話 水着選び

 寿々花すずかさんの水着を選ぶ、手伝いをすることになるとは。


 とはいえ、こっちも休めるように手筈を整えておかないと。


 最近は有給も取りやすくなった。いうほどデスマも起きなくなってきたし。


 作業効率も、ここ数週間はすこぶるいい。体調も万全だ。やはり、寿々花さんから栄養をもらっているからだろう。


 やはり人間って、身体が資本なんだよな。どれだけ金があっても、健康でないと。


「ねえヒデくん、これどうかな」


 そんなしょーもないコトを考え続けていないと、この目の前にドンと押し寄せてくる爆撃に耐えられない!


 もう、何着目だよ。一着目はホントに面積の少ない水着を披露し、二着目はブラヒモがないタイプを選んできた。三着目が、これである。ピンクのビキニだ。


「い、いいと思います」

「そっかー。じゃあ、色違いを付けてみるね」


 まだ続くのか。


 うれしいが、これはある意味では拷問だな。目の前に熟れた果実があるのに、手を出せない拷問である。


「白にしてみたんだけど」


 また、カーテンが開く。


「俺は、白の方がいいと思います」


 さっきのピンクも背徳感が会って素晴らしかったが、やはり寿々花さんは白が似合う。

 

 

 それから、俺はひたすら仕事に励んだ。どうしても、有給を取る必要があるから。


 その甲斐があって、別のプロジェクトチームが手伝ってくれることとなる。


「我々も、8月は大型連休が欲しい。なので、お互い協力し合おう」と、女性リーダーは言ってくれた。彼女も、交際相手とデートがしたいとか。


 それぞれのプロジェクトを補完しつつ、自分たちの仕事もこなす。


 やっとプロジェクトが終わった時は、休めるぎりぎりになってしまった。


 しかし、どうにか寿々花さんとの夏を手に入れられる。


 寿々花さんとの旅行は、電車を利用した。レンタカーでもよかったが、この場所は電車のほうが便利だ。車だと道が混みそうだからとボツに。


 以前のキャンプみたいに、大雨でトラブルになる予想もあった。しかし、電車がアウトになった道なんて車もアウトだろうと。


「ヒデくん、泳ごう!」


 寿々花さんが、足首まである茶色のワンピースをぐぐっとたくし上げた。


「え、ここで着替えるんですか!?」

「大丈夫、下に着てるから」


 買ってきた白ビキニが、あらわになる。


 おし。誰もいなくてよかった。


 こんな姿を見られたら、誰もが振り向いただろう。


 ちょっと幼く見えるポニーテールも、ステキだ。


「すごく似合っています。海にもマッチしていますね」

「わあ。ありがとうヒデくん。海に入ろうか」

「はい」


 ビーチボールを膨らませ、海へと向かう。

 


 

 で、今に至る。


 誰もいない海で、俺たちはビーチボールをトスしあっていた。


 砂浜はまだシーズンではないのか、ガラガラだ。


 まだ、夏休みにもなっていないのだろう。ヘルメットを被って自転車に乗る学生が、道路を通り過ぎていく。


「すごいです。ほぼ貸し切りですよ」

「いいね! ちょっと水着買ってから太っちゃって、またパッツンパッツンになっちゃった」


 寿々花さん、それはふくよかになったんじゃないです。胸が成長しなさったんですよ。


 そう教えてあげたい。しかし、セクハラになってしまう。


 俺の心の中に、そっとしまっておく。


「この際だから遊んじゃおう、ヒデくん。よっと」

「はい。それっ」


 俺たちがトスを楽しんでいる時だった。


 フェリーが、水平線を横切っているのが見える。


 俺は予感した。高い波が来ると。


 だが、その波は俺の想像をはるかに上回っていた。


「え? え? え?」


 サーフィンでもできそうな大型の波が、俺たちを流していく。


 踏ん張っていたのに、俺は逆さまに海の中で転げ回った。


「あっぶね」


 びしょ濡れになって、水面へと上がる。


「ヒデくん」


 か細い声で、寿々花さんが海水に入ったまま俺を呼ぶ。動けないようだ。 


「待っててください」


 俺は、寿々花さんの元にたどり着いた。


 途端に、寿々花さんが俺に抱きつく。


「どうしたんですか?」


 問いかけてみたが、密着した瞬間にわかってしまった。何が起きたのか。


「ブラが流されちゃった」

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