第五章 お隣さんと、海デート
第29話 福引でペア宿泊券をゲット
白いビキニを着た妖精が、俺にビーチボールをトスしてくる。
海パン姿の俺は、レシーブで返した。
七月を迎えた割に、砂浜には誰もいない。まだ時期が早かったようだ。
俺と
なぜこうなったか。理由を知るには、梅雨時の話をしなければならない。
梅雨が始まったあるとき、俺は寿々花さんとピオンに来ていた。
新作映画を一緒に見ようという。
映画自体は、そこそこ面白かった。ヒューマンドラマらしくスタイリッシュに決めつつ、適度に監督の毒が見えて楽しい。考えさせられつつ、エンタメにも徹している。三時間近くもあったが、まったくダレなかった。あんな映画って、邦画でもあるんだな。そりゃあ賞を取るわけだ。
「ああいうしんどい親って、いますね」
「だよねえ」
雑談をしながら、カフェでケーキを食う。
「退屈じゃなかった?」
「いえ。人間ドラマって監督の人生観とか素が見られるんで、距離か近づくんです。いいですよねぇ」
正直な感想である。忖度ではない。
「ありがとう、ついてきてくれて。お友だちを誘っても、恋愛ドラマ以外は一緒に行ってくれなくて。それも激甘の」
「わかります。わかりやすいシナリオもいいでうが、先が読めすぎるのも、ちょっと食傷気味になりますね」
「そうなんだよねえ」
寿々花さんも、映画好きの友だちが欲しかったのだろうか。
俺の周りはどうだ? ないな。ネコ好きの後輩はいる。同僚はゲーム好きこそいるが、映画までは見ない。課長は子ども向け映画なら、息子さんと見るだろうけど。
「海、行きたいねえ」
「ああ、久々に海っていいですよね」
今回見た映画の舞台が、海沿いの街なのだ。
海についてきてくれる人って、俺の周りにいるかな? 誰もいないなぁ。
会計になり、寿々花さんが席を立つ。
「出します」
「いいよ。ついてきてもらったから、私が払います」
精算すると、寿々花さんが福引券をもらっていた。
「金賞、ペア宿泊券だって」
子どもみたいに、寿々花さんはハシャイでいる。
「どなたかと行くつもりですか?」
寿々花さんのことだ。カレシの一人くらい。
「ううん。そんな人いないよ。当たったら、二人でいこうね」
「海沿いのホテルに、ペアで、ですか……」
これは、やばいな。理性を抑えきれるか?
別室にしてくれって言っても、こんな高い宿泊料では、俺は砂浜にテントを張って寝ないと。
とまあ、皮算用しても仕方ない。参加賞のティッシュで十分だ。
「ガラガラがあるね。やってみよう」
好奇心旺盛な寿々花さんが、ガラガラを回す。
たいして買い物をしていないので、一回分しか使えない。まさか、そんなんで金賞を引くなんて。
「ヒデくん、当たったよ!」
当たっちゃったよ金賞っ!
寿々花さんの指に、金色の球体がつままれている。
「二等の食事券もよかったけどね。これ、すごいね! 一緒に行こう!」
「すごいです。寿々花さん。ホントにすごい」
こんな強運ってあるのかよ。しかも、ペアの相手が俺とか。
「あっ……」
「どうしたんですか?」
休みなら都合がつく。最近はそんなに忙しくなくなったし、もし修羅場っても乗り切るつもりだ。なんとしても、有給は手に入れる!
「水着、新調しないと」
寿々花さんが、お腹をプニプニつまむ。
「買ってくるから、ついてきて」
「え、いいんですか?」
着替えを見ろと?
「ヒデくんに見てもらいたいなと」
「わかりました。俺の好みで選んでいいんですね?」
「うんうん。せっかくだもん。わたしが選んだら地味なワンピースになるよ。それか、水着の上にシャツとデニムになる」
それはそれでおいしい! いやいや、冷静になろう。
「布面積の少ない水着の上にTシャツとか、それもアリだよね」
何を言い出すんだこの人は!?
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