第27話 一緒に焼肉

 俺と寿々花すずかさんは、ホットプレートを外へ出した。


 正確には、こたつテーブルを窓際まで持っていくだけだが。


「よいしょよいしょ」

「ここでいいですよ」


 テーブルを窓際に置いた。


 ああちくしょう。俺はなんで外用のテーブルを買わなかったのか。一応それっぽいものがあるのだが、皿を二、三枚置いたら埋まってしまう。とても、ホットプレートまで置くスペースはない。

 とはいえ必要はないか。こんなことたまにだろうし。


 延長コードを出して、プレートの配線を伸ばす。延長コードなら、腐るほどある。風呂に入りながらノートPCで動画を見たくて、配線を何本ものコードでつなぐのだ。目が良くないから、スマホだと見えないのである。


「いつでもいけます」

「タン塩から行くね」


 寿々花さんが、熱したプレートにタンを置いていく。


 肉を焼いている間に、俺は皿とタレ、レモンと塩を用意する。そそう、酒とライスも忘れない。


「ドリンクはお茶でいいです? 無糖の炭酸もありますけど」

「お茶をいただきまーす」

「はいどうぞ」


 二リットルのお茶を寿々花さんの隣に置く。


「ヒデくん焼けた! お先にどうぞ」


 ここはレディファーストだろうが、寿々花さんはフェアを望む。


「では、お言葉に甘えて」


 焦がしてしまっては、せっかくの譲り合いもムダになる。


 それに、寿々花さんの分も焼けているしな。


「いただきます。塩レモンいいっすね」

「ホントだねえ」


 専門店と比較しても、実に薄い肉だ。実際は物足りないはずなのに、こんなにも満たされている。


「手頃な値段でも、幸せって買えるんですね」

「うん。実感してる」


 二人でタン塩を楽しんだ。


 続いて、カルビをいただく。こちらも、見た目こそ安っぽい。しかし、一度口に入れたら……。


「はああ。はああ」


 言葉が出ない。肉を焼きコメをかき込むだけの、マシーンになってしまった。なんの生産性もない、堕落したおっさんになる。これは、人をダメにする味だ。頭からつま先まで、機能停止をさせる。


「キャンプでお肉を焼いたじゃん。ぜったいアレ以上の経験って、なかなか得られないって思ったの」

「俺もです。とんでもないですね」


 家で肉を焼いて、こんなに幸せになれるとは。


「やっぱりさ、一緒に食べる人がいるとぜんぜん味変わるんだね」

「ですよね。それ焼けてますよ」

「おっとっと」


 ロース肉を山盛りご飯の上に載せた寿々花さんの、実にうれしそうな顔よ。


 これを見るためなら、家じゅうが臭くなっても構わない。


 ライスをロースに巻いて食いながら、俺は喜びを噛み締めた。


 メイストームのせいか、風は少し強い。だが、そのおかげで臭みはすべて吹き飛ばしてくれた。ありがたい。


 ホットプレートを洗った後、外でくつろぐ。俺は缶ビールで、寿々花さんはオレンジジュースで。


「お酒が飲めたら、よかったんだけど」

「体質の問題ですからね。こればっかりは」


 冷えたビールが、油まみれのノドを潤してくれる。こんなウマい酒って、いつ以来だろう。


「このジュースおいしいねぇ。ひっく」


 なんだか、寿々花さんの様子がおかしい。目がうつろになり、千鳥足になっている。気分も心なしか陽気な感じに。


「あっ、それジュースじゃないですよ。ノンアルです」


 俺は、寿々花さんの持っている缶を確認した。


 健康診断が近いので、ノンアルの酒を買っておいたのだ。

 ノンアルコールと言っても、微量のアルコールは入っている。

 そんな量でさえ、寿々花さんはこんなになってしまうのか。


「ヒデくん、風が気持ちいいねぇ」


 寿々花さんが、柵から身を乗り出す。


「危ないですよ」

「だいじょーぶ」


 そのとき、五月特有の強い風が拭いた。


 ブラウンのロングスカートが持ち上がる。白い太ももがさらけ出された。


「ひゃああああ!?」


 スカートを抑えようとして、寿々花さんは手を柵から放してしまう。あやうく、おっこちそうになった。


「寿々花さん!」


 俺は、寿々花さんの腰を抱きしめる。


 どうにか、落下は免れた。


 しかし、ムリに引き寄せたので、家の中へダイブしてしまった。


 俺は、寿々花さんを押し倒す形に。

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