第25話 一緒におうちでお弁当作り

 今日も、快適な朝を迎える。


 やはり、仕事がないっていいな。


 昨日はあの後、寿々花すずかさんとは特に何もなかった。洗い物をして、雑談して。それくらい。


 俺としては、寿々花さんと隣で語り合うだけで満たされている。


 夫婦って、あんな感じなのかなと思えた。


 いやいやいや、調子に乗りすぎか?


 少なくとも、俺は喜んでいる。だが、相手はどうだ? 寿々花さんは、俺なんかと話すことで満足するのか? 少なくとも、俺を嫌ってはいないとは思いたい。ただ、好かれているかは別問題だ。


 俺の態度に、落ち度はなかっただろうかと。


「おじゃましまーす」


 寿々花さんが、俺の部屋に来た。


「いらっしゃい。今日は、何をしましょう?」

「そうだね、ああ」


 窓を見ながら、寿々花さんはため息をつく。


「お天気がよかったら、公園でお弁当にしようかなって思ったんだけど」


 雨が、窓を叩いている。


「なかなか、うまくいかないですね」

「だから、おうちで作ります」


 三段重ねの重箱を、寿々花さんが用意した。


 そういえば、唐揚げを作るって言っていたな。弁当に入れる予定だったのかも。


「ぜひ、教えてください」

「はーい」


 また、寿々花さんがエプロン姿に。


「まずは、唐揚げを作ります」


 一口大に鶏肉を切って、ビニール袋の中で下味を付ける。


「ヒデくん、お肉をもんでくださーい」


 揉み込んで、俺は肉に味をなじませた。


 その間に、他の具材を調理する。


 ブロッコリーを茹で、タコウインナーを焼き、きんぴらごぼうを作った。ミニナポリタンまで。


「卵焼きって、甘いのとしょっぱいのって好みある?」


 ボウルに入った卵を溶きながら、寿々花さんが聞いてきた。


「特には」

「じゃあ、しょっぱいのにするね」


 今日は、デザートがある。甘い卵焼きも、お菓子扱いにはなるが。


 きれいな卵焼きが完成し、まな板の上で切られる。その後、弁当箱に収まった。


 唐揚げを揚げている間に、寿々花さんがツナ缶を開ける。


「主食は、サンドイッチとおにぎり、どっちにしようか?」


 サンドイッチだとサラダに、おにぎりだとツナマヨ味になるそうだ。


「おにぎりで」

「じゃあ、おにぎりにしましょー」


 昆布と梅干し、かつおぶしと、複数の具材を使う。ツナも忘れない。


「できたね」

「ええ、壮観です」


 豪華な料理が、目の前に並ぶ。ため息が出るくらい、うまそうだ。


「いただきましょう」

「はい。いただきます!」


 まずは、二人で作ったおにぎりから。


「あああ。すっげ」


 口に入れた瞬間、顔がほころぶ。


 握力で崩れない、引き締まったおにぎりだ。なのに、口の中ではふんわりとなる。


「ヒデくんのツナマヨも、おいしい」


 俺のいびつな形のおにぎりを、寿々花さんはありがたそうに食らう。


「唐揚げいきます……うんめ」


 茶色は正義だな。世の中には、茶色い弁当を笑うやつがいる。が、それだと「具が一品だけの弁当」なんて、ウケるはずがない。茶色は、欲望の塊だ。茶色の魔力が、俺に劣情を促す。


「すごい勢いで食べるね? そんなにおいしい?」

「はい。脳をかき回されてます」

「オーバーだねえ。でもうれしい。作ったかいがったよ」


 寿々花さんは、唐揚げをパクっと。


「うん! これは煩悩の塊だ!」


 子どものように、寿々花さんがハシャぐ。


「ああ、ヒデくんが揉んでくれたから、適度に繊維が崩れたんだろうね」


 もも肉をわっしわっしと食べながら、寿々花さんが感想を述べる。


「ありがとう、ヒデくん。おいしくなったよー」

「マジっすか。そう言ってもらえるとうれしいです」


 家で弁当って、物悲しいイメージがあった。外に出られなくて、雰囲気だけでも味わおうって感じの。


 でも、違う。こんなにも楽しい。


 お茶を飲みながら、俺の心は満たされていた。


 食後にアニメ映画を見ながら、二人でくつろぐ。


「デザートは、おやつで作ろうか」

「はい」

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