第24話 一緒に料理

 俺が玉ねぎの皮をむく。


 それを、寿々花すずかさんがみじん切りにする。早い。あっというまに玉ねぎが小さくなる。


 ニンジンの皮を俺がピーラーでむき、寿々花さんがサイの目状に細かくしていった。


「よいしょ、よいしょ」


 寿々花さんが、デカい肉と格闘する。


 モモ肉を切っている間に、俺はフライパンを温める。


 肉をコメ・野菜と一緒に焼く。それは、俺の担当だ。


 まな板を洗って、寿々花さんはハマチを刺し身状態へと切っていった。手際がいい。


 溶かしたコンソメスープを少量、寿々花さんがフライパンに投下する。


「この段階で、ある程度下味をつけるんですね?」

「塩コショウとケチャップだけでも十分おいしいよ。一応下味をつけると、くるんだ卵を割ったときに、香りがフワッて広がるの」


 想像しただけで、うまそうだ。


「楽しみにしててね」

「はい」


 最後にケチャップを投下し、チキンライスができあがった。


 次は、難しい工程だ。チキンライスを卵に包む。


 一度キッチンペーパーで油を取って、加熱。油を引いて、溶き卵をインした。寿々花さんはフライパンを巧みに動かし、卵を広げている。


「まずはひとつめ、ほっ」


 チキンライスが、キレイにくるまった。魔法かと思うほど、早い。手元が見えなかった。これは、マネができないな。


 二つ目も完成して、オムライスの形はできあがり。


「あとは、イラストか、字を書くだけだね。なんて書いて欲しい?」


 ケチャップを開けて、寿々花さんが俺に聞いてくる。


「得意な絵で」


 あまり俺好みの絵だと、食べられなくなる危険があった。


「わかった」


 寿々花さんはウインクしているネコを書く。ハートマークを添えて。


「はい、ヒデくん」


 ケチャップを、寿々花さんから渡される。


「俺も書くんですか?」

「そりゃあね」

「なにがいいですか?」

「うーん、どうしようかなー」

「思いつかなかったら、ハートでいいよ」


 寿々花さんからリクエストされて、俺はハートを書いてみる。


「あっ」


 手元が狂ってしまった。なんともいびつな形に。これではスペードじゃないか。


「まってて。ここをこうやれば」


 スプーンで、寿々花さんが絵を塗りつぶす。スペードだったものが、見事なハート型に。


「これで完成だね」

「すいません、フォローしてもらって」

「いいよ。食べよう」


 テーブルまで持っていき、手を合わせる。


「いただきまーす。うん、おいしい!」


 寿々花さんが、一口目から目をキラキラさせた。


「これ、おいしい。程よく家庭の味!」

「たしかに、家で出てくる味ですね」


 このケチャップの雑味が、妙にありがたい。少し焦げ付いているコメも、鶏肉のコクと合わさって適度にバランスが整っている。


 こういうのが欲しかったんだな、俺は。


「ハマチもいただきます。これは……うま」


 ケチャップの味に、しょうゆがケンカをするかなと思っていた。ところが瞬時に、ハマチの脂っぽさが浮き上がってくる。

 箸休めとしても主食としても、十分に引き立っていた。どっちも担当できる、リベロ的な刺し身だ。


「大根のツマもおいしい」


 ツマ用のおろし金で、オレがすった。


 シャキシャキして、みずみずしい。ケチャップとしょうゆで疲れた舌を、優しい辛味でリセットしてくれる。


「ヒデくん、はい」


 寿々花さんが、手を天井に掲げた。


 食べながら、俺も同じポーズを取る。


「いえーい」


 俺と寿々花さんで、ハイタッチした。


「うわあ、大成功だ。ごちそうさまぁ」

「ちょっと待ってください。デザートもありますよ」


 用意したのは、キャンプ場で買ったおみやげのヒヨコまんじゅうだ。


 やはり、今日のデザートと言えばこれだろう。


「ああ、これ食べたくて、ずっとガマンしてたんだぁ。幸せ」


 まんじゅうを大量に口へ詰め込み、寿々花さんはうっとりした。


「あの、ヒデくん。明日も料理するじゃん。そのときさ」

「はあ」

「今日のお礼にさ、デザートも作ってみよっか?」


 手作りデザートか。たまには、そういうのもいいな。


「はい!」

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