第22話 おうちで何をしよう?

 部屋を片付けながら、寿々花すずかさんの言葉を思い出す。


 さみしい、か。


 寿々花さんはもっと、友だちがいるイメージが強かった。

 下の松川まつかわ一家とも話すと言うし。

 意外とコミュニティが狭いのか?


 まあいいか。今は、部屋を片付けよう。寿々花さんも待たせている。


「おまたせしました」


 炊事場を最後に片付けて、俺は寿々花さんを招き入れた。


「お邪魔します。ごめんね、図々しくて」

「そんなこと、思ってませんよ。お茶どうぞ」


 コーヒーを淹れて、寿々花さんにくつろいでもらう。


「ありがとう。おいしい」

「すいません。来客用のカップなんて置いてなくて」


 来客があっても、ドリンク用のカップなんて揃えていなかった。買ってこないと。


 とはいえ、今からどうするんだ?


 二人して、硬直してしまう。にらめっこじゃないんだから。


「あの、ゲームってします?」

「アプリのパズルくらいなら」


 パーティゲームは、買ってないんだよな。この機会に買ってみるのもいいかも。


 つくづく、この部屋を「ただ寝るために用意しただけ」にしていたのを痛感する。

 身体を休めることはいいのだが、もっと他人を入れる余地がないとダメかな。

 人を拒絶してきたような感じがした。人と合わせるのが、昔からめんどくさかったんだな。


 連休は、まだ二日残っている。この空気をなんとかしないと。


 決して、寿々花さんが邪魔ってわけじゃない。俺の気を散らしておかないと、手を出してしまいそうになるのだ。


 俺は、寿々花さんが部屋にいるだけで満たされてしまっている。


 しかし、寿々花さんは違うだろう。楽しんでもらいたい。


「夕飯って、どうするんです?」


 昼は、帰りにファーストフードで済ませた。店に入ったのが、朝の一一時くらい。家に帰っても、食材を買うところからスタートになるからである。


 朝はシリアルのみで、いくらなんでも軽すぎたし。


 食前は会話しながらコーヒーで会話を膨らませ、食後のデザートまでたらふくいただいた。


 夕方前にならないとセールが始まらないので、スーパーには寄っていない。


「ヒデくんは、食べたいものってある?」

「寿々花さんが作ってくれるなら」


 俺は、寿々花さんの料理に甘えることにした。


『料理を教わる』って手も考えたのだ。しかし、やめた。寿々花さんに「もう来てほしくない」と、伝えているいるようだったから。


「お刺し身にしようかなって。ピザとかお肉で重かったでしょ?」

「それもそうですね。お刺身とメシで軽めに取りましょう」


 買い物まで、まだ四時間以上ある。となれば、


「映画見ます?」

「うん。そうしよう」


 映画っていったら映画館なのだが、GWの今はどこも混んでいるだろう。子ども向け映画ばかり上映しているから。


 騒がしい映画館へ行くくらいなら、家で過ごすか。


「あー。プレイリストが、見事なまでにアクションばっかだな。寿々花さん、見たいのをチョイスしてください」


 寿々花さんに、マウスを託す。


「これでいい?」


 寿々花さんは俺のリストから、ちょっと古めの映画を選ぶ。


「これさ、見たことなかったの」

「俺もなんですよ。見ようと思って見ないのってありますよね」

「うん。この際だから見たいかなって。どう?」

「見ましょう。菓子を持ってきます」


 二時間分の菓子を用意して、再生する。


「主人公が、意外にイヤなやつなんだね。こっから成長するのか」


 見ているのは、クマが空手を覚える成長系の映画だ。


「ヘタレ主人公が事件をきっかけにたくましくなるって、昔はよくあったんですよね。今だとあんまり見ないけど」

「今は最初からいい人って感じでないと、ダメっぽいよ」

「そうなんですか。世知辛いですね」


 俺は、料理を作る気はない。


 ただ、今は。


「あの寿々花さん」

「はい?」

「今日は、一緒に作りませんか?」

「いいね!」

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