第四章 お隣さんと、おうちデート

第21話 お隣さんと、おうちで過ごそう!?

 メールやメッセアプリを確認して、寿々花すずかさんがため息をつく。


「えっとね、一階の松川まつかわさんは、実家に帰ってるって」


 松川さんたちは、集中豪雨地帯になった実家へ物資を持っていったという。奥さんのお母さまは、身体が不自由なのだとか。なので、余計に心配だと言って出たそうである。


 管理人の老夫婦は、息子さんご夫婦が迎えに来たらしい。GW中は、そのまま向こうで世話になるそうだ。都会見学などをしに行くと連絡してきた。


「他の方も、帰省したり旅行へ行っていたり、誰もいなくなったよ」


 隣の女子大生は、カレシと旅行へ行ったという。


 一番左端にいる中年のサラリーマンは、北海道へ帰省した。


 ということは、このアパートには俺と寿々花さんしかいない。


「ヒデくんは、帰省しないの?」

「家が近いんですよ。帰ろうと思ったら、いつでも帰れるので」


 ただ妹が受験生なので、帰っても気を使う。ぶっちゃけ迷惑かなと。ただでさえ、妹は俺には懐かない。


「そうなんだね。私は実家と揉めてて」


 理由は聞かないでおく。個人的な事情だと思うから。


「何も聞かないんだね?」

「ええ。聞いても俺が解決できるとは思えないし。話したら楽になるとは思いますが、俺の口が重いとは限らないので」


 ヘタに情報を手に入れたら、外部に漏れる危険がある。誰が聞いているかわからない。


「なので、どうしても話したくなったら聞きますよ」

「ありがとう。とりあえず問題は、これなんだよね」


 お土産として買っておいた、おまんじゅうの処理だ。


 日持ちするものを買ったつもりだったが、渡す相手は誰もいない。となると、保存が必要になる。


「でね、冷蔵庫がパンパンになっちゃった」


 寿々花さんに、スマホを見せてもらう。


 見事に、お土産の箱で冷蔵庫が膨れ上がっていた。野菜室もスキマがない。


「大変ですね」

「そうなの。食材が入れられなくて。かといって、私が食べちゃうわけにもいかなくて」

「ええ」

「考えたんだけど、お邪魔でなければ、ヒデくんのおうちにお呼ばれしてもいいかな?」

「はいどうぞ……ってえええ?」


 いいのか? 男の家だぞ?


「そんな、ご迷惑じゃあ」

「いいよ。寝るのは自室で寝るので。お風呂とかもするし。ただ、お食事はヒデくんに作ってあげられるなって」

「ありがたいですけど、寿々花さんは怖くないんですか?」

「全然。ヒデくんはいい人だもん」


 まいったな。ここまで無害な人間として見られては。


「つっても、ここって同棲禁止では?」


 決まりとして、身内でも勝手に住んではいけない決まりだ。


 俺の隣に住む女子大生には、カレシがいる。が、家には住まわせていない。寿々花さん情報だと、向こうの家には頻繁に行くという。その女子大生はゆくゆく、向こうに住もうと考えているそうだ。


「だから、お泊りはしないわけ」

「なるほど。つっても、ほぼ同じですよね?」

「一度ヒデくんがお休みの日になにをするのか、見てみたかったんだよね」

「そうなんですか?」


 俺のようなおっさんの生態なんて観察しても、つまんないと思うが?


「お昼とかは外食なのか、今流行の出前か。映画はナニを見るのか。色々知っておきたくて。そうしたら、どんな料理が食べたいのかなってわかるでしょ?」

「ですね」

「あと、正直さみしくて」


 不動産会社に連絡してみたが、さすがに仕事もないのだとか。引っ越しシーズンで、もう決まっている案件だけしかないそうだ。


「もちろん、ヒデくんが困るって言うならあきらめるけど」

「いえ。そういうことでしたら、おあがりください。汚いので、片付けが終わったら呼びますね」

「ありがとう。わたしも調理器具とか、用意していい?」

「どうぞ! 俺料理しないんで、助かります」


 さっそく俺は、部屋に戻って片付けをはじめた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る