第19話 一緒に風呂を!?

「え!?」


 あまりの出来事に、俺は対処できない。湯船に浸かったまま、出てこられなくなった。


「このお風呂結構大きいし、二人なら大丈夫だよ」


 たしかにここは円形の風呂で、大きい。夜景が一望できる、最高のビューイングだ。とはいえ、夜景よりいい景色の寿々花すずかさんがいるとなると、話が変わってくる。


「でも、裸でって」

「大丈夫。水着だもん」


 白いビキニを、寿々花さんは見せびらかす。


「川がいい温度だったら遊ぼうって思って、用意したの。水が濁っていたからやめたけど」


 ああ、あの時から洪水フラグは立っていたんだな。


 俺は断ろうとした。が、ここで変にゴネると寿々花さんが入浴しなくなるかも。そのほうが危険だと判断した。


「とにかく、一緒に入ろう」


 問答無用で、寿々花さんは湯に浸かる。


 俺は寿々花さんをなるべく見ないように、外を眺めることに集中した。


 いまだに外は、雨がザーッと鳴っている。


「止みませんね」

「そうだね」


 会話に詰まったらとりあえず天気の話題を、って言ったやつを殴りたい。全然、弾まないじゃねえか。弾んでいるのは、寿々花さんの豊満な胸だけで。


「ヒデくんは、私とお風呂ってイヤかな?」

「とんでもない。うれしいですよ!」


 なんて返せば正解か、わからない。ただ、最大級の賛辞を送るくらいしか思いつかなかった。


「今日は、楽しかったね」

「はい」

「また来ようね。次は、ちゃんとお泊りの準備もして」

「はいっ……はは」


 まさか、同じ部屋で泊まることになるとは。


 寿々花さんの口ぶりだと、次も同じ部屋ってことに?


 宿代を考えたら、そうかもしれないが。


 ユースホステルって、相部屋が多いって言うし。


 やばい。たいして浸かっていないのに、のぼせそうだ。かといって、上がるとなんらかのハプニングが起きて、俺がポロリしてしまいそうになる。寿々花さんと一緒に風呂って、ここまで破壊力が高いとは。


「……出ます」

「そうだね。けっこうゆったり浸かっちゃったもんね」


 体を洗うため、椅子に座る。


「じゃあ、背中流すよー」

「え、じ、自分でできますからっ」

「いいからいいから」


 もう、寿々花さんは手にスポンジを持って泡立てていた。決断が早い。


「お願いします」

「うん。じゃあ洗うね」


 優しい手付きで、俺の背中にスポンジが這う。


 その間、俺はシャンプーで髪を洗った。


 ああ、いいな。ビキニ洗車っていう仕事があるらしいが、俺がその車になった気分だ。


「後ろだけ洗うことになるけど、いい?」

「問題ありません。流石に前は、自分で洗います」


 スポンジを借りて、俺は手早く前をこする。自分でやるって、こんなに痛かったっけ?


「じゃ、流しまーす」


 ジャーっと、寿々花さんはお湯をかけてくれた。


「あとはシャワーでひゃあ!?」


 突如寿々花さんが、俺に体重を預けてくる。石けんの泡で足を滑らせたのだろう。


 程よい弾力が、俺の背中にピタッと張り付いた。


「大丈夫? ヒデくん!」

「俺は平気です。寿々花さんにケガは?」

「ないよ。足もくじいてない」


 寿々花さんが、俺からどく。


「重くなかった?」


 シャワーで俺の身体についた泡を流しながら、寿々花さんは聞いてくる。


「まったく、平気です」

「でも、血が」

「血?」

「鼻血出てる!」


 え? そうか。のぼせた上に、興奮して――


「ヒデくん!?」


 俺の意識は吹っ飛んだ。




「はっ」


 柔らかい感触を後頭部に感じながら、俺は目を覚ます。


 寿々花さんが、俺に膝枕してくれていたと気づいた。


「ごめんね。体調が悪いのに気が付かなくて」


 うちわで俺を扇ぎながら、寿々花さんは心配そうな顔で俺を見下ろしている。服はTシャツとスパッツになっていた。


「すいません。ぶっ倒れてしまって」


 普段は、こんなことはない。しかし、イレギュラーが重なってしまって。


「ルームサービスでスポーツドリンクもらったから、口をつけておいて」

「ありがとうございます。もう平気です」


 ペットボトルのドリンクをグッと飲むと、少し落ち着いた。


「眠れそう?」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、寝よっか」

「は……い」


 デカいベッドが、一つしかないんだが?

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