第18話 ユースホステル
俺と
寿々花さんは、受付と話し込んでいた。
俺はフロントで、ことの成り行きを見守る。
ニュースでは、大雨が結構な災害になっていると報せていた。
ドヨーンとした顔で、寿々花さんが戻ってくる。
「どうでした?」
「なんかね、隣の県で落雷があって」
大木が道路を封鎖してしまい、道路が崩れてしまったらしい。
「他の県の旅行客が、こっち側の高速に集中しちゃったんだってさ」
で、帰れなくなったと。
「今帰っても、家に帰れるのは深夜になるよって」
翌朝に帰ったらどうか、と打診されたようだ。
ひと部屋だけ空いているから、貸してもいいという。
「わかりました。おいくらですか?」
「お金の心配はないよ」
値段を聞くと、どえらい安かった。朝食付きで、一泊一万を切るとは。
「ここ、ユースホステルだから安いんだよ。お夕飯代もカットしてもらったし」
「……ホステス?」
「ユースホステルね。青少年用に貸し出される宿のこと」
ここは昔、テーマパーク用の大衆食堂と従業員用の宿舎だったらしい。そこを、若い外国人観光客や留学生用の宿として改装したという。
「従業員も、日本や海外の大学生が大半なんだって」
どうりで客も従業員も、やたら外国人が多いなと思っていたんだ。
「とりあえず泊まろうか?」
「そうですね。着替えも必要ですし」
なにより寿々花さんの白シャツが、雨に濡れて大変なことになっている。
「やあん」
寿々花さんが、胸を隠す。
「今日は涼しい格好で行こうってなったのが、アダになっちゃった」
「とにかく、部屋に入りましょうか」
「そうだね。お風呂入ろう」
たいてい、ユースホステルは風呂とトイレは共同らしい。ホントにベッドしかないという。
早く部屋に入って共同浴場へ……。
「マジか」
風呂が、ある。しかも、ほぼ部屋と地続きだ。
フロントに、寿々花さんが電話をかけた。
「お年寄りとか、一人でお風呂に行けない人用のお部屋を、貸してもらえた」
なるほど。バリアフリー施設も設けているというわけか。
『今は利用者がいないので、どうぞ使ってくれ』と、言われたという。
「えらいサービスがいいんですね」
「以前、ここに寄付したからかもしれない」
利用したとき、えらく気に入って寄付金を提供したらしい。「税金対策なんだけど」と、寿々花さんは苦笑いしていた。
「くしゅん」と、寿々花さんがクシャミをする。
まずいな。ひとまず湯を溜めるか。
「雨、やまないね」
「ですね。どんな様子なんだろう?」
俺はテレビをつける。天気は相変わらず悪かった。明日の早朝まで、雨は続くらしい。
「溜まったんで、入ってください」
「ありがと。お先にいただきます」
寿々花さんが、着替えを持って風呂に入っていった。
帰らないで正解だったかも。変にあのまま帰ると、余計に体調が悪くなっていただろうな。
数分後、寿々花さんが上がってくる。
タオルを首にかけているが、乾かそうという感じではない。しかも、ピンクのTシャツを羽織っているだけ。
下は、はいているのか? ダボッとしたシャツに隠れて、下は見えない。
「もういいんですか?」
「十分あったまったよ」
ホントに? えらく行水だったぞ。五分も入っていないような。まあいいか。
「それじゃあ。俺も風呂をいただきます」
「いってらっしゃい。お洗濯するから、着替えはすぐ横の洗濯機に入れておいて」
服を脱いで、汚れ物を洗濯槽へインした。一緒に洗って大丈夫なんだろうか。
「洗濯機、回しますよー」
「どうぞー」
洗剤を入れて、洗濯機を起動させた。
まあまあ大きい浴槽へ、身体を沈めていく。
風呂は円形で壁がなく、一面を窓が覆っている。
外には、雨に濡れた夜景が広がっていた。
あったかい。雨に濡れた身体に、熱が染み渡る。
「おじゃましまーす」
え、なんだ? 浴室のドアが勝手に。
ドアの向こうから、白いビキニを着た寿々花さんが現れた。
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