第17話 バーベキューで、ハプニング!

 ウマい、それしか言葉が出ない。いつまでも堪能していたくなる味だ。

 あっという間に、カレー鍋は空になった。


「ごちそうさまでした」


 寿々花すずかさんと二人、手を合わせる。


「ヒデくん、いっぱい食べてくれるからうれしい」

「ありがとうございます」


 また散歩に行くので、一旦焚き火を消す。火に当たりながらまったり過ごす案もあったが、これだけ広いと歩きたい衝動に駆られる。


 回っていない動物園のコースを、二人で歩く。


「それにしても、涼しいね今日は。五月だから、もうちょっと風が強いと思っていたんだけど」


 太陽も曇って、気温がちょうどいい。


「今日は予定がないけど、温泉施設とかもあるんだって。コテージには、内湯もあるよ」


 山道をハイキングしながら、寿々花さんが語りかけてくる。


「やばいですね。入り浸っちゃいますよ」

「さっき確認したら、ひと部屋だけ開いてるんだって」

「へえ」

「ま、利用することはないけど」


 今日は、日帰りだ。「疲れているだろう」と俺に配慮して、翌日以降は何も予定を入れていない。寿々花さんの優しさが、ここでもにじみ出ている。俺は寿々花さんとデートできるなら、疲労なんて吹っ飛ぶ。だが、体のほうが悲鳴をあげるだろう。幸せすぎて。


 帰ると、ちょうど腹が減ってきた。


「じゃあ、バーベキューをやろうか。火おこしお願いします」

「はい!」


 慣れた手付きで、俺は炭に火をつける。


 チリチリと音を鳴らし、炭が燃え始めた。


「すごい大きいお肉だね!」


 寿々花さんが、トングでポークステーキを掴む。お盆ぐらいある。


「屋台で焼いてるのを見て、俺もやってみたくなったんですよ」

「わたしも! じゃあ焼いちゃうね」


 ステーキは網に乗った瞬間、ジュワッといい音を鳴らした。


「半分こしましょう」

「わーい」


 その後、肉や野菜を串に刺す作業を手伝う。


「焼いていきます」

「どうぞー」


 焼鳥のように、網でバーベキューを焼いていく。


 普通の焼肉のように焼いてもいいが、せっかくだし。


「では、いただきます」


 肉にかぶりつく。


 ハラミ肉が、しっとりしてる! ただ焼いただけなのに、他の野菜のうま味と融合してやがった。バーベキューってこういう意味があったのか。


「おいふいい」


 寿々花さんなんて、もう日本語になっていない。そういう鳴き声の動物なのか、と思った。ここ、一応動物園だしな。


「ホントお酒がなくて大丈夫? 飲みたいんじゃ」

「大丈夫です。飲むと作業ができなくなるんで」


 泊まりなら、一杯やっていたはずだ。しかし、俺が運転しないとも限らない。車を使って急な買い出しが必要かも。そんな可能性がある以上、飲む訳にはいかない。


 あったらいいが、なくても十分楽しい。


 お茶を飲んでいるだけなのに、寿々花さんと話しているだけで幸せすぎる。


「なんか、俺って飲むけど酒が好きってわけではないんだな、って痛感しましたよ」


 酒好きなら、もっとこだわった飲み方や選び方をすると思う。でも俺の場合、「あるから飲む」ってスタイルだ。それでは、水とたいして変わらない。


 うまい飲み物なら、なんでもイケる口のようだ。


 ストレスを発散するための飲酒から、俺は逃れられた。その分、自分に合ったスタイルに最適化されていっている。


「では、ポークステーキを……おお」


 語彙が死んだ。コショウで焼いただけの豚肉が、ごちそうになった。なんというポテンシャルだろう。ワイルドな見た目もすばらしい。


 寿々花さんも、ただ瞳を閉じながら味わっている。


「今日一番の当たりかも」


 俺も、まさしくそう思う。外で食うなら、シンプルに肉なんだなと思い知らされた気分だ。


「ごちそうさ……ん?」


 水滴が、俺の額に当たった。額や服が、だんだんと濡れてくる。


「ゲリラ豪雨だ!」

「わあーん」


 急いで焚き火道具を片付け、車に積む。


 だが、出ようとしたときに警備員さんに止められた。


 寿々花さんが、何かを確認している。


 苦笑いをしながら、寿々花さんは俺に向き直った。


「帰れなくなっちゃった」

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