第16話 カレーライス

 キャンプ可能な場所まで、移動した。


 スペースを確保して、焚き火台を設置する。


 その間に、寿々花さんが買ってきた野菜を刻んでいく。


「ホントは燻製とかパエリアとか、変わり種にしようかなって思ったんだけど、ヒデくんも一緒だからシンプルなのにしようって思ったの」

「ありがとうございますっ。お手伝いします」


 野菜も肉も、駐車スペース近くの売店で売られていたものだ。ついでにバーベキュー用の肉も買って、クーラーボックスに保存してある。


「ねえヒデくん、お酒があったほうがよかった?」


 野菜を切りながら、寿々花さんが聞いてきた。


「いえいえ。今日は楽しいので、晩酌は帰宅まで取っておきます」


 火をおこしながら、オレは返事をする。


「うん。ありがと」


 ちょうどいい感じに火がついたので、まずは米を炊く。メスティンで炊くなんてはじめてだが、だいたいは飯盒と同じ調理法らしい。


「寿々花さんって結構お料理するんですか?」

「一人だと、あんまり。キャンプ場に来ても、インスタントラーメンとかだよ」

「それはそれでうまいですけどね」

「うん。うん」


 すごく力強く、うなづかれる。


「キャンプ場で食うインスタントラーメンって、極上の味がするんですよね」

「えっ。ヒデくんって、キャンプするの?」

「俺はしません。父がアウトドア派で」

「わかった。だから火おこしが上手なんだ」

「お恥ずかしながら。昔取ったきねづか、ってやつでして」


 ガキの頃、オヤジによく釣り堀に連れて行かれた。俺は釣りなんてしょうもないから、携帯ゲームばっかしてたな。


「そこで食うカップめんが、最高だったんですよ」

「わかる。なんかおいしいよね。一人だとそっちやっちゃうかも。荷物にならないし。味気ないけど、それはそれで味があるよね」

「ええ。わかりますっ」


 話している間に、寿々花さんのカレーができあがっていく。コトコトという音が、より食欲をそそった。


「量は少ないけどいい?」

「これくらいだと思います。大勢いると少ないかもしれませんが」

「だよね。私、カレーっていつも作り過ぎちゃうの」


 以前寿々花さんは、俺の部屋までカレーをおすそ分けしてくれたこともある。


 GW前のデスマ期間は、それで乗り切った。残業続きでベランダデートができない分を、カレーで補給したのである。


「あのときは、カレーばっかりで飽きちゃわないかなって思ってたけど」

「寿々花さんお手製のカレーなら、毎日でも食えます」


 事実、食べきるのがもったいなくて二日続けたこともあった。


「アウトドアで食べる寿々花さんのカレーは、また格別だと思います」

「ありがとう。じゃあ、食べようか」


 紙皿に盛り付けて、いただきます。


「あっふあっふ。うまい!」


 シンプルで、まごうことなきカレーだ。なんの変哲もない、チキンカレーである。が、なんだろう。家で食べるより二〇〇倍くらいウマい。


 ジャガイモも玉ねぎもニンジンもいたって普通のものを使っているのに、味わいに深みがある。


「ホントだ。いつも使ってる市販のルーなのに、なんでこんなにおいしいの?」


 隠し味は、何も入れていない。「その方が市販のルーでは正解」と、テレビでやっていたからだ。もともと美味しく作っているので、余計なことはしなくていいと。


 寿々花さんによると、それははじめから知っていたらしい。さすが、料理をする人は違うな。


「外で食うとウマ味が倍加するって言いますけど、ホントですね」

「うん。お米もふっくらしていて、お米だけでもいけちゃいそう」

「それは言いすぎですよ」

「でも、おいしいよ」


 おそらく、メスティンのおかげだろう。


「ナンで食べるならバターを入れてもいいんだけど、これでも十分美味しいね」


 なにげに寿々花さん、結構おかわりしている。お皿が小さいので、何度も食べられてしまうってのもがあるけど。


「はい。自画自賛じゃないですが、コメ最高ですね」

「うん。ヒデくんの腕前に感謝だよ」

「ありがとうございます!」


 寿々花さんの絶賛が、なによりのスパイスだ。


 喜びと幸せを、米粒とともに噛みしめる。

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