第12話 ファミレスで喜ぶ女子
「もも、もうちょっと話したかったんですけど、ヒデちゃんの検診の時間なので!」
村井は去っていった。
あのヤロウ、逃げやがったな。
「すいません、騒がしいやつで」
「賑やかで楽しい方ですねぇ」
俺は頭を下げるが、
それにしても、寿々花さんの収入源を瞬時に聞き出すとは。さすが同性といった感じか。
「ヒデくん、お腹も空いたのでお昼にしよっか」
「そうですね」
陽キャを相手にしていたので、腹も減ってきた。
「ファミレスでいいですか? あれが食べたい。でっかいチキンの足!」
「いいですね!」
前回がラーメンとカツオと和食中華が続いている。
洋食系がちょうどいいだろう。
リーズナブルなイタリアンファミレスへ行くことに決まった。
俺がオーダーを書いた用紙を店員さんに。
「ジュース取ってくるね」
真っ先に、寿々花さんが席を立つ。
「俺が行きますよ」
「いえいえ。座ってて」
寿々花さんは、ドリンクを取りに行った。
俺に、砂糖の入っていないジンジャーエールをくれる。
寿々花さんは、炭酸入りのオレンジジュースだ。
「あーっ。ちょっと外暑かったから、炭酸おいしいね」
「そうですね」
メニューが来て、辛いチキンの足を食べ始める。
「うん、辛い! でも、こんな大きいのに辛さが死んでない!」
「うま! なんだこれ? めちゃくちゃおいしいですね。それに、言うほど重くない。やっぱチキンだからですかね?」
結構ボリュームがあるから、サイドメニューは少なめに注文していた。
すぐに追加で、ピザなどを頼む。
「エスカルゴは、残ったオイルをパンにつけて食べるとおいしいよね」
寿々花さんはフランスパンで、俺はフォカッチャでエスカルゴの残りオイルをいただく。
ああ、うま。ガツンとしていつつも、優しい味だ。トロッとしたオイルの風味が、鼻から抜けていく。
「俺、ナポリタンも同じ食べ方するんですよ」
「おいしそう! 今度試そっと」
イカスミパスタをシェアしながら、俺と寿々花さんは語り合う。
食事が終わり、コーヒーでブレイクする。
「さっきの後輩さんとは、仲がいいの?」
「いえ。休日で会ったのは、今日くらいですね。あいつがここの利用者だって、今日はじめて知りました」
俺はめったに、ピオンには寄らない。
そもそも、外出すらするかどうか。健康診断が近くなったくらいでしか、外を歩かないくらいの出不精だ。
家でサブスクの映画を見るくらいで、ロクな趣味がない。
「職場でどうのこうのとかもない。一緒にご飯食べたりとか」
「仲間で社食はやりますけど、あっちは女子で固まってますよ」
「そっかぁ。ヒデくんは職場では、モテるの?」
「ちっともです。イケメンの同僚の方が、モテますね。飲み会でも」
残業が多い職場なので、コンパなどもないと話す。
「ちょっとさみしいね」
「でも、寿々花さんと一緒にお食事ができるので、俺としてはうれしいですね」
「よかったぁ。職場で浮いちゃってるのかって心配してて」
「いえいえ。とんでもないです。課長も子煩悩でして、飲み会とか誘ってこないんですよ。うちは上司が女性で、今は料理をする絶好の機会だって燃えてます」
息子さんが小学校に上がるらしく、かわいくて仕方がないんだとか。
「結婚かぁ。いいなあ」
「いいですよね」
今は「家庭を持つ者は勝ち組」、なんて時代じゃない。
でも、家庭があればまた違った人生があるのかな、という想像だけはする。
「ファミレスで、よかったんでしょうか? お金持ちって聞いたばかりだったので」
「うん。いろんな食べ方を知ったから、めっちゃ楽しい。また一緒に行きたいね」
「俺と、ですか?」
「うん」
よかった。不快にはさせていなかったようだ。食い方が汚いとか思われたら、どうしようかと。
「そうだ、今日の用事ってなんだったんです?」
「一緒に見に行きたいところがあったの。もう一回ホムセンに寄ることになるんだけど」
「何を見に行くんです?」
「キャンプ用品! 今度、一緒にキャンプしない?」
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