第二章 社畜とお姉さんの、デパートデート

第7話 デートに着ていく服がない

 今日は、寿々花すずかさんとのデート前日である。


 どうせヘタレな俺が相手では、デートと言うほど大げさなものにはなるまい。


 とはいえ、相手をガッカリさせる訳にはいかなかった。


 だが、最大の難関が。


 デートに着ていくための服がないのだ。


 女性って、どんな服装が好みなんだろ? わからん。


 困ったときは、同性に質問だ。


 村井むらいは、一応連絡先は知っているが……参考にはならん。

 あいつの脳は、ネコが支配している。社員合同BBQでも、ネコ耳パーカーを着てくるほどのネコ狂いだ。


 妹にでも、電話してみよう。


「もしもし、愛子あいこ?」


 一八歳の現役JKだが、村井よりはマシだろう。


『どしたん、ヒデ兄?』


 愛子は俺たち三兄弟姉妹の末っ子だ。俺と愛子の間に、もう一人弟がいる。


「実は、女性と買い物に行くことになったんだが、俺はオシャレにうとくてな」

『あ……うん。別に気を使わなくていいんじゃない? どうせカレシ持ちでしょ? だったら、普通にしてれば』


 結構、ざっくりとしているなぁ。俺がモテないことを最初から見越して話してくる。


「それが、相手がフリーかどうかはわからないんだ。一応、相手さんが恥ずかしくないような格好で歩きたいんだよ」

『じゃあ、無地の上下で。ブランドは普通に量販店モノでいいよ』


 そうなのか。ああいったものを、女性は一番ダサいと感じているって思っていたが。


『柄とかプリント付きのやつは、やめたほうがいいね。あれは上級者向けのファッションだから』


 俺が持っているのは、大半がそれだ。

 安くて、体型を気にしなくていいのである。


「わかった。買い直すよ。ありがとう」

『いいって。今トシ兄と買い物してるから、もう用事ないなら切るね』

「ああ、すまん」


 俺が「切る」と言う前に、向こうは切ってしまった。そっけない。若い子ってあんな感じなんだろうな。


 あいつ、次男の俊樹としきにはベッタリなのに、長男の俺にはまったく懐かなかった。そのときから、俺には女難の相があるんだろう。


 でも、トシキは年下キラーだったっけ。


 俺の方は、年上には受けるんだよなぁ。といっても、相手はおばさんばっかりだが。

 長男なのに、頼りないからだろうか?


 まあ、いいだろう。考えてるばかりでも仕方ない。


 ピオンへ、買い物に行きますか。明日のデートコースだがな。下見も兼ねて、あちこち回ろう。


 大型ショッピングモール『ピオン』には、大勢の人で賑わっている。


 一階にあるカフェのテラス席では、ノートPCを開いた男女が画面に向かって語り合っていた。俗に言う、ノマドかな? 案外、テレワークかも知れない。でも、テレワークなら個室を借りるか。外だと、騒音とかうるせえもんな。


 服屋へ直行し、白いワイシャツを買う。黒も考えたが、重たすぎた。


 下は、手持ちのチノパンでいいだろう。アイロンだけかけておくか。ハンガーに掛けながら使えるタイプを過去にノリで買ったが、ようやく使う時が来た。


 服のセンスは、俊樹に聞いたほうがよかったかもな。

 しかし、あいつは俺よりオトナっぽくて、なんでも似合うからアテにならん。

 兄としてのプライドが、邪魔をした。

 こんなんだから、精神的に子どもなんだろうな、俺は。


 さて、もう昼か。腹が減ったな。なにか食って帰ろう。


 明日はデートだ。ガッツリ食べられないだろう。

 だから今のうちに、ラーメンをいただきましょうかね。


 フードコートに入ると、ラーメン屋は一件だけあった。チェーン店だが、まあいい。俺の好きなタイプの麺だし。


 ラーメンとチャーハンをいただく。


 ああ、もうわかりやすいくらいうまい。


 ほどよいほころび具合のチャーシューに、昔懐かしいナルト。中太のちぢれ麺が、パイタン系スープに絡む。


 チャーハンをスープにくぐらせるのも、また格別だ。


「はあ。寿々花さんの手料理も最高だが、これにはこれの、よさがあるな。実にいい」

「ホントですねえ。たまーに無性に食べたくなりますよねぇ」

「え、寿々花さん!?」

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