第4話 おはぎと、炊き込みごはん
「ありがとうヒデくん。荷物を持ってくださって」
「いえいえこれくらい。夕飯をごちそうになるんだから」
二つのエコバッグを持って、俺は
「何も聞かないんだね?」
「はい。どんな寿々花さんでも、寿々花さんなので」
「わあい」
寿々花さんはえへへと笑う。
「実は、激安スーパー巡りが趣味なの」
「そんな一面があったなんて。てっきり、ピオンでお買い物をするものだとばかり」
「映画を見に行くのは、ホントだよぉ。でも、おかずの買い物はこっちでやるの」
ピオンへは、洋服や靴など「スーパーで買えない品」を揃えるために行くそうだ。
今日も、その帰りだったらしい。
それで、部屋着もおしゃれさんなんだな。
ずっと家にいるから、ああいう激安店で爆買いするのが運動になるのだという。
「今日は炊き込みごはんだから、楽しみにしてね」
質のいいタケノコが、手に入ったらしい。
「うれしいです! あ……」
ゴハンものと聞いて、俺はハッとなる。そういえば、俺が買ってきたのって。
「どうかした?」
「いえいえ。なんでもありません」
「じゃあ、ありがと」
家の前まで来て、寿々花さんは部屋へ入っていく。荷物を家の中にまでは、持っていけなかった。そんな図々しいマネはできない。
どうすっか。おはぎと炊き込みごはんで、ライスが被っちまった。こっちはもち米だが。
書い直すか? いや、コンビニに行って別のスイーツを選んでいる間に夕飯ができてしまいそうだ。おとなしく待つとしよう。
シャワーを浴びて、ベランダで涼む。
「ヒデくん、できたよ。ふやああっ!」
ベランダから顔を出した寿々花さんが、慌てて自室に引っ込んでいく。
「あ、ありがとうございます! すいません!」
しまった。くつろぎ過ぎだろうが。上半身裸で待機しちまうとは。ハイボールの缶も片付けるか。
「とにかく食べよー」
「はい! いただきます」
急いで、自室に入ってスウェットを着る。おやつを常温にしておくのも忘れない。冷蔵庫に入れておくと、もち米が固くなるからな。
「先に前菜を食べててねー」
「うおーどうも。いただきます」
寿々花さんが、小鉢をくれた。
中身は大根のサラダである。
あーこれ、ハイボールにめちゃ合うやつ!
大衆居酒屋のお通しでも、こんなに美味は出ないぞ。
もっと水っぽいか、切り方がヘタで硬い。
本格的な飲み屋か、料亭とかで出てくるやつだこれ。
味付けがかつお節としょうゆってのも、うれしい。無限に飲める。
ダメだダメ。メインで炊き込みごはんがあるんだよ。ここで腹一杯になんてできるか。
「はいどうぞ。おかわりが欲しかったら言ってね」
寿々花さんが、俺の分のお茶碗をくれた。
「ありがとうございます。あの、寿々花さん」
「どうしたの?」
「先に言っておきます。おやつですが、おはぎなんですけど」
何も考えずに、買ってきてしまった。
「そうなの? おはぎ好きー」
寿々花さんは、喜んでくれている。
「いや、ライス後のお菓子でライスものを選んでしまって」
「おやつは別ライスだよぉ」
別腹という言葉は聞いたことあるが、別ライスってナゾ単語すぎるな。
「追いライスと思えば、おはぎだっておいしいよ」
「ですかね? とにかく、いただきます」
寿々花さんの言葉に感謝しつつ、炊き込みごはんを。
「おお。タケノコとシイタケって、こんなにうまいんですね?」
どれが欠けても、おそらくこの味にはならない。
わずかにある鶏肉も、しっかりと具材を整えてくれている。
寿々花さんの親指がめり込んだ具材が、味わい深い炊き込みごはんとなって復活した。
まいったな。炊き込みごはんだけでこんなにも具材を楽しめるなんて。
おかずはトロロ昆布入りの吸い物と、卵焼きだ。
「うまい……しょっぱい方の卵焼きだ」
「甘いほうが好きだった?」
「いえ。実家はこんな感じだったので、おいしいです」
「ありがとー」
これはうれしい。中の海苔もいい味を出している。
炊き込みごはんを主役に立てたのか、基本薄味のもので揃えていた。
「あとはお漬物とかなんだけど、物足りないかな?」
「最高です。おかわり」
二杯目を食い終わり、デザートへ。
「寿々花さん、ごちそうさまでした。これ、限定品のおはぎです」
「わあああああ! CMでやってたやつだ」
特大おはぎを見せると、寿々花さんは大いに喜んだ。
「食べられます? なんなら半分こして」
「大丈夫! わたし甘いものはバックバクいけちゃうから!」
ソフトボールくらいあるけど、いいのかな?
「どうぞ」
「うわ、大きいね。ありがとー」
こんもりとデカいおはぎに、寿々花さんはかぶりつく。
「うーん、おいひい! 結構アンコを食べないと、もち米までたどり着かないね」
ホントだ。食べごたえがすげえ。なのにアンコがしつこくない。もち米もさっぱりしていて、これはデザートとしては最高じゃないのか?
「ごちそうさまでした」
「こちらこそー。おいしかったー」
よかった。気に入ってもらえて。
「次は洋食をがんばっちゃうねー。お買い物で具材はたくさんあるから」
「いつもありがとうございますっ」
「いえいえ。寂しいからやってるだけだよ。じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみなさい」
いやぁ。心も腹も満たされて、満足この上ない。
ハタから見たら、俺たちってどう見られているんだろうな。
砂糖を吐きそうになるのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます