トンボの赤

@kazutaka

第1話

 名古屋の栄。午後23時18分。三車線道路の信号待ちの最前列に大手企業のプロテインのジャケットを着たバイカーが横三列に並んでいた。体力勝負なのか。各社のスペック勝負をしているのか。

 恵太は車内に取り付けてあるドライブレコーダーを見た。助手席には彼女の日奈子が、これって何かの撮影?私たち、どこかで番組で撮られてるの?と興奮気味に、スマホをバイカーに向けている。恵太はちらっと覗きこんだ。バイカーが主なのか、日奈子が主なのか。日奈子か。声が大きすぎる。撮るのは上手いようだが、スマホの機能が良いのか。

 バイカーたちはお互いを気にしてない様子だった。

 信号が青にかわった。ある期待をしていたのは恵太だけだろうし、恵太の想像を彼らが超えてくれるとは限らない。恵太の後ろの後部座席に座る、友幸のシートベルトは黙ったままだった。友幸は何も起こらないことを願っているのだろう。ウィンドウを下げていた。換気か。6月の風は肩に力を入れさせ、首を凝らせる。

 バイカーたちは一人も煽っていない。排気ガスも必要以上に噴き出していない。

 賑やかだったのは車内だけだった。日奈子はSNSに上げる気でいるようだった。画はそんなに面白くない。恵太は腕時計に搭載されている心拍数は15分前より少し下がっていた。

 映画ではないからね。アクション…起きないか。

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