6.素直になることは勇気がいることだけど

 学校へ戻る道で、和花は何でもない風に口を開く。


「和馬君は美空先輩と仲が良かったんだね。あの指輪、和馬君があげたんだよね。かわいかった」

「ん? 三原さんも、ああいうの好きなの?」


 自分が指輪を上げたことも仲がいいことも否定しない和馬を見て、和花はちょっぴり泣きそうな気持ちを隠して微笑んだ。


「うん。好き」

「あ、そうなんだ。あれ、うちの母親が作ったんだよ。三原さんにも作ってもらう? 俺が作ってもいいけど……」

「お母さん?」

「あ、スルー。まあいいや。――うん。うちの親、アクセサリー作りにはまってて、最近シルバーアクセに手を出したんだ。で、美空が欲しいデザインがあるってリクエストして」

「みく……」

 和花の前でぽろっとそうこぼした和馬はハッとして、「やべっ、怒られる」と呟いた。


「これ内緒ね。――美空、ていうか、白鷺部長は、うちの母親の末の妹なんだ。けっこう年が離れててさ、美空と俺のほうが二歳しか離れてないから、俺の叔母さんてバレるとすっげぇ怒るんだよ。名前で呼ばないとしばかれるし」


 ほんと内緒にしてと拝むような仕草をする和馬に、和花はポカンと口を開けた。


「二人は親戚なの?」

「そう」

「付き合ってるんじゃ」

「ない! ありえないし! 無理! 叔母じゃなくても絶対ない!」

「そんなに力いっぱい否定しなくても」

「するよ! 好きな子に誤解されたら――あっ」

「えっ?」


 手で口を押える和馬を見て、和花はゆっくり首を傾げた。

 悪態をついて頭をかく和馬は、開き直ったように和花を見つめ返す。


「三原さんは? 敦賀先輩とやっぱり付き合ってんの?」

「虎太郎先輩と?」

(なんで?)


 突然入ってくる情報について行けない。

 和馬は何を言ってるのだろう。好きな子って誰? やっぱりって何?


「私は……和馬君が好き……」

「へっ?」

「さっき虎太郎先輩に背中押してもらったの! 和馬君に告白しろって」

「えっ、ちょ、待って」

「待たない。今止めたらもう言えない」

「あ、あの」

「しょうがないじゃない。好きになっちゃったんだから。和馬君が誰を好きでも、気持ちを伝えたいと思ったんだもん。私は、入学式で助けてもらってから、たぶんずっと、和馬君が好きだったの!」


 やけくそみたいな告白になってしまったけれど、目を丸くする和馬の顔に、なぜかスッとした。


 全部吹っ切れたように笑った和花に、やっと我に返った和馬が呆然と「マジで?」と呟いた。首まで真っ赤になっている姿に、和花はクスっと笑う。


「マジです。はぁ、なんだかすっきりした」

「たのむ、まだすっきりしないで」

「ん?」

「俺もだよ。俺も好きだから。俺のほうが先だから! 中学の時からずっと好きだった。ほとんど同時に転校したって知って二度と会えないと思ってたのに、入試の時三原さんに気づいて、絶対合格するって決めてたし。入学式ですぐ会えたのも、同じ部活なのも嬉しかった。三原さんの笑う声も、頑張り屋なところも、いちいちなんだかすごく可愛いところも全部、すっごくすっごく、本当に大好きなんだ」


 真っ赤な顔でまっすぐ見つめられて、ようやく彼の言葉を実感する。今度は和花が真っ赤になると、和馬はクスっと笑って言葉をつづけた。


「本当は文化祭で告白するつもりだったんだよ。展示の係で三原さんと組めるよう、美空に部長権限でよろしくって頼んでたし」

 指輪は賄賂だと冗談を言う和馬がニッと笑う。


「三原さん。……いや、の、和花ちゃん。好きです、俺と付き合ってください」


 差し出された大きな手を茫然と見つめた和花は、自分でいいのかと逃げそうになる気持ちをぐっと抑え込んだ。

 夢みたいだけど夢じゃない。素直になることは勇気がいることだけど、

(私はこの手を取りたいな)


「はい、よろしくお願いします」

 だからその手に、そっと自分の手を滑り込ませた。


「和馬君。大好き」


Fin

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今作は小説家になろうにおいて、同じプロットを使って物語を書いたらどんな差が出るか?という趣旨の企画へ書き下ろしたものです。

企画には私も異世界恋愛プロット1つと、現実恋愛プロット2つを提供していて、今作は私自身の現実恋愛プロットを使用しました。

どんな企画だったか気になる方は、2022.7.3の近況ノートをご覧ください。

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素顔のままで恋をして 相内充希 @mituki_aiuchi

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