姉妹での遊園地(そして母)

閃矢 亮晃(せんや りょうこう)

姉妹での遊園地(そして母)

「わーい♪早くつかないかなー♪」

「聡美ち~ゃん。落ち着きなさい」

「(聡美うるさいなー……春休みは部屋でのんびりと本を読んでいたかったのに……)」

 朋美は、母の運転する車の後部座席で、スマートフォンを手に持ち電子書籍を読みながら怪訝な表情をした。

 今日は春休みの初日。母が遊園地の優待券の期限が今日までという事で、3人で遊園地に向かっていた。

 助手席ではしゃぐ聡美は見ても分かるくらいの活発的な女の子。運動も得意で、来年の春に中学に入学したら運動部に入りたいと言っている位だ。

 片や姉の朋美は完全に正反対で、インドア派。中学の部活は文学部で、この春休み中は読書三昧で過ごそうと思っていたのに、完全に当てが外れた格好だ……

 勿論、行かないという選択肢が朋美にはあったのだが、お母さんの「朋美はお姉ちゃんだから、聡美を置いて行く訳にはいかなわよねぇ……♪」の一言により、やむなく一緒に行く事になった。なお平日の為、お父さんはお仕事中であった……

「(それにしても……)」

 朋美は座っている後部座席の隣にある大きなトートーバッグが気になった。普段買い物で目にするエコバッグよりも倍以上の大きさだ。

「(飲み物は遊園地で買って飲めばいいし、何が入っているのだろう…?)」

 バッグの中を覗こうかと思ったが……

「朋美ちゃーん♪バッグの中除いちゃだめよ~♪」

 運転席からお母さんはにっこりと笑顔で言ってきた。そう言えば聡美の笑顔は母親譲りかと改めて思った。

「何で?」

 と朋美は聞こうと思ったが、笑顔のお母さんの目が笑っていなかった為、朋美はそれ以上聞くのをやめた。



「おねーちゃん。あれ乗ろー♪」

 遊園地に着くなり聡美が指さした先を見て、朋美はあからさまに怪訝な表情をした。

「(いきなりこれから乗るの……!?)」

 聡美が指さした先はジェットコースターだった。確かに聡美は前からジェットコースターに乗りたかったと言っていたが、朋美にとっては1番乗りたくないアトラクション。それを最初に乗る事になるなんて……

 朋美は乗りたくない&姉妹にとっては初めてのジェットコースターを諦めさせようと説得を試みた。

「でも聡美、あなたまだ小学生でしょう?ジェットコースターなんて――」

「ふっふーん♪」

 と、そんな朋美の説得を遮るように、聡美は注意書きと思われる立て看板を指差す。そこには……

【身長130cm以上・小学生は4年生以上で、中学生以上の同伴が必要です】

…と書かれてあった。


「と言う訳でおねーちゃん行こう♪」

「どういう訳で行こうって…あっちょっと引っ張らないで……」

 聡美に強引に引かれていく朋美。朋美は助けを乞うように、お母さんの顔を見るが…

「行ってらっしゃ~い♪」

 にこやかに手を振る。

「(いや姉が助けを求めているのに…うちのお母さんときたら……)」

結局、聡美に引き込まれた朋美は、ジェットコースターの最前列にふたりで乗る事になった。


 ただでさえテンションが低いのに、いきなりのジェットコースターに更にテンションがダダ下がりの姉・朋美に対して妹の聡美は……

「えへへー楽しみだね♪おねーちゃん♪」

 屈託のない笑顔で、今か、今かと発車を待ちわびている。

「(ったく…我が妹ながらこの笑顔はずるいわ……)」

 昔からこの笑顔には弱い一家。朋美も『仕方がない』と言う気持ちで気持ちを固めた。


(プルルルルル…♪)

 発車の合図とともにジェットコースターがゆっくりと進み坂を登っていく。登っていく空は快晴で雲ひとつない。

「(あぁ…空はこんなに青いのに……)」

 擬人化された戦艦が言いそうなセリフを頭の中で思い浮かべながら朋美は上がっていく乗り物のバーをぎゅっと握りしめる。隣にいる聡美の顔を伺う余裕は無いが、相変わらずはしゃいでいる声が聞こえる。

 やがて頂上まで登った乗り物はゆっくりと角度を下げ空から地面へと視界を変えていく…と同時にすさまじい加速による光景が目の前に広がる。

「(ぎゃああああああ!!!!)」

 乗り物は地面に突っこむような感じかと思ったら右に左に上に下にと言葉では形容しがたい形で物凄い速さで駆け抜けていく。

「キャー!」「うぉーー!!」

…とか後ろの方で聞こえているが、朋美自身はそんな事を楽しむ余裕は微塵もなかった。膀胱がきゅうっと収縮する感じはあったがどうにかちびらずには済んだ。

 もうすぐ到着し、スピードが落ちて来た時に、ふと朋美は隣の聡美の声がしない事に気が付いた。まだ怖いが、恐る恐る隣の聡美のほうに顔を向ける。

「聡美……?」

 隣の聡美は乗った時の元気さはどこへやら、俯いたままバーをぎゅっと握りしめていた。手もブルブルと…いや、体全体で震えていた。朋美はふと視線を下に向けた。

「(あっ……)」

 聡美のハーフパンツは、足の付け根の部分がほんの少し色濃く染まっていた。見た感じ、シートまでは濡れていないので、おちびりをしてしまったのだと朋美は思った。


(プシュー……)

 ジェットコースターは乗り場に戻ってきた。他のお客がぞろぞろと降りる中、聡美はブルブルと体を震わせたまま俯いている……

「(早く下りないと……)」

 朋美は聡美のバーをゆっくりと下ろし、優しく声をかける。

「ほら、おねーちゃんしか見えていないから大丈夫……」

 朋美は聡美を抱きかかえるようにして、一緒に乗り物から降りた。一応シートを確認したが、幸い濡れた形跡は無かった。

 降りた聡美はハーフパンツの足の付け根の色濃く染まった部分を見で顔を真っ赤にし、その部分を手で隠そうとする。だがそこは姉、朋美。上着を脱ぎ聡美に着せた。

「おねーちゃん……」

 聡美は絞り出すように声を出すが…

「聡美、行くよ」

 後ろから優しく抱きかかえるように歩きながらジェットコースターの建物から出た。


「お帰り~♪…あら~……?」

 お母さんは、ジェットコースターから帰ってきたふたりを見るなり何かを察したのか、トートーバッグからプールで使う大きめの巾着袋を取り出し朋美に渡した。

「朋美、お願いね」

「あっ……」

 袋の中を受け取って確認した朋美は察した。袋の中にはタオルとウエットティッシュ、そして聡美の下着が入っていた。

「よし、朋美。このまま行くよ」

「うん……」

 今度は聡美の手を取り朋美はトイレに向かって歩き出した。


 ただ、朋美にとってはひとつ納得のいかない事があった。それは……

 袋の中には朋美の下着も入っていた事だった。


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 トイレの入り口に着いた朋美と聡美。その時、朋美は思った。

「(あれ?これ私が聡美のおちびりを処理するのか?)」

 そう思って朋美は聡美の顔を覗き込むと、ふと目が合ってしまった。目が合った瞬間、聡美の顔は真っ赤になったかと思うと、手で涙目になった眼を拭(ぬぐ)い、袋を朋美から奪い取った。

「ひ、ひとりでできるもん!おねーちゃんはそこで待っていて!」

 そう言って聡美は、トイレの個室の中に駆け足で入っていった。

「あー…バレバレだったかー……」

 聡美は頭を軽く掻いたが、内心「元気を取り戻して良かった」とも思った。


 それから聡美と朋美は食事休憩を挟みつつも色々なアトラクションに乗った。いや、正しくは聡美が朋美をほぼ強引に引き連れて色々なアトラクションに乗ったというのが正しいかもしれない。

「はい、朋美ちゃんも聡美ちゃんもお疲れ様~」

 お母さんは、ふたりがアトラクションから戻る度に、ペットボトルの飲み物を渡してくれて、それを2~3口程飲んでお母さんに返した。 

 そして時間もだいぶ経った頃、お母さんが……

「聡美、朋美、そろそろ帰らないといけないから次で最後ね」

「えー!?」

 お母さんがにっこりと言うが、聡美は頬をぷぅと膨らませて拗ねた表情を見せた。

「(はぁ…聡美に振り回されるのもこれで最後…良かった……)」

 聡美に引き連れられて、少々ぐったりとしていた朋美には、安堵の表情を見せた。

「それじゃー最後あれにするー!」

 そう言って指さしたのは、お化け屋敷の建物だ。

「「えっ!?」」

 朋美とお母さんが驚くのは無理もない。一昨年ぐらいに家族で遊園地に行った時にお化け屋敷に入り聡美が先にどんどんと進んでいったが、途中で泣き出して戻ってきた過去があったからだ。

「う゛ー!聡美はもう怖くて泣いたりしないもん!ほら、おねーちゃん行くよ!!」

 そう言って聡美は朋美の手を引いてお化け屋敷の中に入っていった。

「あ、ちょっ……」

 またしても聡美に強引に手を引かれた朋美はそのまま一緒にお化け屋敷の中に入っていった。勿論、お母さんは後ろでにこにこと手を振って見送っていた。


 お化け屋敷は、一昨年と違って若干のリニューアルはされて以前より怖くなっていた。ただ朋美にとっては、そこまで怖いと言う訳では無かった。たまに……

「おぉ……」

 ぐらいのリアクションを見せる程度であった。

 一方の聡美は……

「ぎゃああああああぁぁぁ!!」

 全くの正反対で、お化けや幽霊、驚かせる仕掛けが出るたびに絶叫をしていた。

「ほら、大丈夫だから。怖くないから……」

 朋美は半分呆れた顔をしつつも、そっと聡美の手を握る。聡美が驚いて絶叫するたびに、思いっきり手を握られるが、その手を振りほどく事は無かった。

 そんな調子でお化け屋敷も半分を過ぎたぐらいに、朋美の下腹部は重みを感じていた。

「んっ……」

 聡美に連れられアトラクションに乗り終わるたびに、お母さんが飲み物を渡してくる為か、膀胱には結構な水分が溜まってきた。トイレは食事の後に行った以来で、本当は最後のアトラクションに行く前にトイレに行こうと思っていたが、強引に聡美に手を引かれたのと「(あとひとつぐらいは我慢できるか……)」と思ったので、口には出さずにいた。

 その結果がこの下腹部の重み…もう中学生だし、妹の前で漏らすわけにはいかないと思い聡美の手を引いて必死に足を進める。勿論、妹の聡美に悟られないように。


 「おねー…ちゃん……早く…出たい……」

 お化け屋敷もだいぶ進み、最初の勢いはどこへやら、聡美はすっかり怯えた状態で震えながら、姉・朋美の手を握りしめたままになってしまった。

「そうだね。早く出たいね……」

 思う事は同じだが、朋美は違う意味で早くお化け屋敷を出たかった。

「(うぅ……まだ大丈夫だけど……)」

 足を進めるものの、驚かせる仕掛けに遭遇するたびに、聡美は悲鳴や絶叫をして足が止まるものの、それでも必死に聡美をなだめながら、朋美は聡美の手を引いて進んで行く。


 ふたりは、お化け屋敷の中をかなり歩いて来た。霊安室みたいな部屋を抜けると、先には長い廊下が続いていた。廊下の両脇には大きな窓が見える。

「(マップを見る限り、これを抜ければ出口のはず…これなら間に合う……)」

 そう思い、少しずつ震える聡美の手を引きながら少しずつ足を進める。 長い廊下に入った瞬間、突然窓がガタンと開いた。

「ウ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!!」

 開いた壁から大きなうめき声を出して大量のゾンビが低い声を上げながら、捕まえるような感じで手をこまねくようにして現れた。流石の朋美もこれには息を飲んだ。膀胱がきゅっとなるのを感じた為、早くここを出ようと聡美の手を引いたその時――

 「うわああああん!!」

 聡美が堰(せき)を切った様に泣き出した。朋美は後ろを振り返る事無く、何とか聡美の手を引く。聡美は手を離す事無く一緒に長い廊下を抜けたが、抜けた所でぺたんと座り込んだ。薄明りの状態とはいえ聡美のハーフパンツはじわじわと色濃く染まっている。

 それを見た朋美は、背筋がぞわぞわとして膀胱が少しだけ収縮してしまった。もう限界が近づいている事は朋美自身でも分かっていた。お姉ちゃんとして、ここまで来て漏らしてしまう訳にはいかない。

「(もうすぐ出口…聡美の手を離せば、ギリギリ間に合う……)」

 朋美は力の抜けゆく聡美の手をそっと離した。

「(でも……)」

 朋美は聡美の泣きじゃくった顔をじっと見つめる。

「(でも…でも……)」

 朋美は聡美の前で跪いて、ぎゅっと聡美を抱きしめた。

「(聡美を見捨てるぐらいなら、漏らした方がまし……)」

 抱きしめた瞬間、下半身の方で水音が聞こえてくる。

「おねぇちゃんだめ…おねぇちゃんの洋服も汚しちゃう……」

 聡美はおもらしで朋美の服が汚れてしまうのが恥ずかしくて、朋美を引き離そうとして、ジタバタと暴れて振りほどこうとする。

「(振りほどかれたら、私も漏らしちゃっているのがバレる……)」

 なんとも情けないなと思いながらも、朋美は聡美に必死に振りほどかれないように、ぎゅっと抱き締め続けた。

 ただ、そこは姉・朋美、妹・聡美を思う気持ちに偽りは無かった。

 「大丈夫…大丈夫だから……」

 朋美は、聡美の耳元でそう囁き、優しく頭を撫でる。同時に、下腹部の力を少しずつ抜き、しゅぅ、しゅうと少しずつ熱い雫を垂らす。

 聡美は朋美を引き離そうとジタバタと抵抗していたが、やがて諦め、ゆっくりと手を朋美の背中に回した。

「ごめん…なさい…おねぇちゃん…・ごめんなさい……」

 聡美がブルブルと震えながら絞り出したようなか弱い声が朋美の耳に届いた。しゅううと水音もさっきより勢いが増した気がした。

 通路の床は、聡美と朋美を中心に水たまりが徐々に広がっていく。この水たまりはどこまでも広がっていくのでは無いかと錯覚してしまいそうだったが、小さな水音は終息していった。

 お腹が軽くなって、開き直るような感じで落ち着いた朋美は、聡美に問いかける。

「聡美、立てる?」

 聡美は朋美に問われて、静かに頷いた。

「よし、じゃあ行こう。多分ここは…ここのお化けたちがきちんと掃除してくれるよ」

 朋美は気を利かせて言ったつもりだったが、聡美は顔を真っ赤にして……

「えー…恥ずかしいよ……」

 聡美は朋美の腕に抱きつくようにして、もじもじと恥ずかしがっていたが……

「聡美を驚かせた罰だから仕方がないよ。さ、行こう」

 朋美は、聡美の手を引いて出口に向かって歩き出した。

「(スタッフさん。ごめんなさい…本当にごめんなさい……)」

 聡美とは違って、スタッフにおもらしの処理をさせる事と自分もお漏らしをしてしまった罪悪感の朋美は、聡美に悟られないように顔真っ赤のまま、お化け屋敷から出ていった。


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「お帰りなさ…あらら~~……」

 出口で待っていたお母さんは、ふたりを見るなり驚いた表情を見せた。と、同時に何かを察した。 

「朋美、持って行きなさい。あと、聡美ちゃんをお願いね~」

 そう言ってお母さんが渡したのは、プールで使う大きめの巾着袋を再び…ではなく、トートーバッグごと朋美に渡してきた。

「(あの袋だけじゃないの…?)」

 朋美は不思議そうにトートーバッグの中身を覗き込んだ。

「あー……」

 それを見た朋美はすべてを察した。トートーバックの中にはあの袋と、聡美だけではなく、朋美の替えのハーフパンツも入っていた。

「よし、聡美。行こうか」

 そう言って頷いたままの聡美の手を引き、朋美はすぐ近くにあったトイレへと足を進めた。


 トイレに着いた朋美と聡美は、広めの多目的トイレに入った。春休みとはいえ平日の為か、並ぶ事無く入れた。

「聡美、脱がすわよ」

 朋美の声に聡美は静かに頷いた。朋美は聡美のぐっしょりと濡れたハーフパンツと下着を下ろした。聡美の股間はまだ毛が生えていなく、おもらしで濡れた部分が窓から差し込む光でキラキラと輝く。

 うまく説明できないけど…何か綺麗だ……とか錯覚しそうな眩しさを朋美は感じていたが、それを振り払い姉としての責務を果たそうとウエットティッシュを取り出し濡れた部分をふき取った。

 拭き取るたびに、聡美の体ばビクンと反応し体をよじろうとする。

「聡美、動かないで。うまく拭けないでしょ」

「だってぇ…くすぐったいよ~~……」

 頬を赤らめて恥ずかしがる聡美に、愛しさ(いとしさ)を感じる朋美だったが、そこはぐっとこらえて、淡々と、そして優しく聡美を介抱し続けた。


 こうして綺麗になった聡美の足に、朋美は聡美に新しい下着とハーフパンツを通す――

 …筈だったが、すっかり気分も良くなった聡美の目線は朋美の下腹部に向けていた。

「さ、次はおねーちゃんの番だね♪」

「え゛っ!?」

 聡美の突然の言葉に朋美は思わずどもってしまった。「いゃ、自分でやるから」と言いかけたが、聡美は先程までの落ち込み具合はどこへやら、いつの間にか目を輝かせて、ウェットティッシュ手に持って待ち構えていた。

「はぁ……」

 朋美は軽くため息を付いた。こうなった時の聡美は、やり遂げるまでは曲げないタイプだからだ。朋美の下腹部をきれいにふき取るまでは、朋美は観念してスカートとタイツ、そして下着を下ろした。

「それじゃーいくよー!」

 そう言って聡美は、朋美の下腹部を丁寧にふき取っているつもりだったが……

「んっ……」

 聡美が拭くたびに、朋美の局部にウエットティッシュが当たるので、ビクンとして身をよじらせてしまう。

「おねーちゃん、動かないでーー」

「だってー……」

 そんなやり取りをしながらも、聡美は朋美の下腹部を一生懸命綺麗にしていった。

「(しっかし、お互いに下半身丸出しの状態なのが何かね……)」

 一生懸命な姿の聡美だが、その下半身は丸出しの状態。そのギャップに朋美は少しだけ微笑ましくなった。

  こうしてお互いに綺麗になった所で、朋美はトートーバックから下着とハーフパンツを取り出した。

「聡美、履かせるよ」

「はーい♪」

 聡美はすっかりいつもの元気を取り戻し、素直に片足を上げる。朋美は聡美の足に新しい下着とハーフパンツを通した。

「さぁ、次はおねーちゃんの——」

「いや流石に自分で穿くから」

 聡美を制して朋美自身で新しい下着とハーフパンツを穿いた。新しい下着はさらされで、とても気持ちが良いなと、改めて朋美は思った。

「ふぅ…聡美、ありがとうね……」

「うん……おねーちゃんもありがとっ!」

「どういたしまして」

 お互いににっこりと微笑みながら手を繋いでトイレを後にした。



帰りの車内、聡美は遊び疲れて後部座席で静かに寝ていた。今日1日で色々な事がありすぎたので無理はないかもしれない。

「(しっかし、聡美の笑顔は相変わらず可愛い……)」

 頬が緩むのを必死に堪えながら朋美は聡美の様子を眺めていた。

「朋美、今日はご苦労様ね。今日の晩御飯は朋美の好きなものにするからね」

 お母さんが朋美をねぎらう様に話しかけた。朋美はお母さんに聞きたかった事を問いかけてみた。

「お母さん、聡美は昨日からジェットコースターとお化け屋敷に行きたいと言っていたからわかる。でも何で私の下着だけでなく替えのハーフパンツも用意したの?」

 お母さんは微笑みながらこう答えた。

「何となく~かな~~?」

「は……?」

 予想に反したのか朋美は一瞬きょとんとした。

「何となく、聡美があんな状況になった時でも、お姉ちゃんの朋美は絶対に見捨てないって思ったからかしらね」

 何となくと言う言葉でごまかしているが、お母さんはすべてお見通しという事を朋美は理解した。

「はぁ…お母さんにはかなわないなぁ…あっ!」

 朋美はふと思い立ったことをお母さんに聞いてみた。

「お母さんも子供の頃に遊園地に行って、そんな事もあったの?」

「さぁ、どうかしらね~~♪」

 お母さんはにっこりと微笑んでいたが、朋美はそれ以上を聞く事をやめた。


何故なら、お母さんの目は完全に笑っていなかったからであった――



(終)



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姉妹での遊園地(そして母) 閃矢 亮晃(せんや りょうこう) @r_senya1008

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