第6話 兄と秋葉原に行きます
「碧純、明日、秋葉原行くけどどうする?」
「え?東京行くの?」
「秋葉原限定な」
「・・・・・・キモ」
「キモくないっとに、行かないんだな」
「行くよ、東京」
「秋葉原限定だぞ」
「え~渋谷とか原宿とか行ってみようよ~」
「・・・・・・行ったことないもん」
「ごめん、お兄ちゃんに東京観光案内期待したのが馬鹿だった。でも、面白そうだから行く、何買うの?」
「世界英雄美少女伝説のヒロインのグッズが発売されたんだよ。それを買うのと、あとお掃除ロボット」
「また買うの?あんなにあるのに?」
「あれの中にはない」
「・・・・・・オタクがわかんないよ、お兄ちゃん」
「お前旦那の趣味の物勝手に売り払うような悪魔の嫁にはなるなよ。あいつらはプラモデル永遠作る地獄行きが待ってるぞ」
「・・・・・・なにその限定的な地獄指定。まぁ~人の物勝手にどうのこうのするやつは私も反対、見てて気持ち良くない」
「よし、それでこそ俺の妹だ」
「褒められてる気がしないんですけど~」
次の日、2人はつくば駅から秋葉原駅に向かった。
つくばエクスプレスで60分。あっという間にオタクの聖地に着く便利なつくば。
「あきはばらーーーーー」
「今度は、俺の妹が可愛いわけがない観たのか?」
「うん、あれ凄く良かったよ」
実の兄妹が結ばれる神ライトノベルは2人にとっては神以上の作品と言えるだろう。
5月の秋葉原は夏か?と思わせるほど暑かった。
「お兄ちゃん、暑い、人多い」
「んだから、東京観光は諦めてくれ」
「うん、今の季節ではないってお兄ちゃん、何暑いのにベストなんて着ているの?」
鞄からナイロン製の白いベストを取り出すと、上に羽織り、スイッチを入れた。
ブーーーーーーーーーーーーーーーーっと低い音がする。
「扇風機付きのベスト」
「うわ、それパパとママが農作業で着ているやつじゃん。しかもベスト版って、なんかお洒落」
「良いだろ」
元々野外の仕事や工場などクーラーが使えない場所での仕事の人のために作られた、扇風機付きの服。
長袖で全体に風を送っていたが、昨今生地もお洒落な柄で作られ、半袖やベスト版が出回っている。オタクの祭典から広がりだしたと一部では言われている。
「なんか、ずるい」
「そう言うと思って、ほら、首かけ扇風機買っておいたぞ」
「あっ、ありがとう」
左右に小さな扇風機が付いていて昔のヘッドホンのように首に掛ける形の、薄黄色のお洒落な扇風機を碧純に渡した。
「目的の物買って帰るぞ」
「うん、涼しい時期に来ようね、お兄ちゃん。って本当にメイドさんビラ配りしてる~」
「始めてなんだっけ?」
「小学校の修学旅行、磐梯山登山だったもん。なんで今更山登りってみんなでブーイングだったよ。中学だと京都に行ってるから東京観光ってしたことないんだよ」
「あっ、碧純の年はそうだったな。うちらは舞浜遊園地と東京観光だったけど。みんな東京は親と遊びに来るからって目新しさがないって声出たんだよ」
「お兄ちゃん達の世代のせいかよ、ずるい~」
ガシガシと兄の脇腹を小突いている碧純。
「濡れ衣はやめてくれ。俺が悪いわけではない。痛いって」
基氏の目的のサブカルチャーグッズ専門店に入ると、客は多く、しかも意外に女性が多かった。
「へぇ~、女の人多いんだね」
「ほら、刀剣なんちゃらとか、鬼の刃とか人気だし、って18禁コーナー行くから、この階でちょっと待ってろ」
「お兄ちゃん、妹に堂々と18禁コーナー行く宣言しないでよね、キモっ」
キモと言うとその発言で聞こえてしまった客に睨み付けられる碧純、全員を敵に回したのかもしれない。
そんなことを気にせず基氏は上の階に行ってしまうと気まずかった。
碧純は特にカルチャー文化、オタクに対して『キモい』と、言ったわけではないのに。
気まずい雰囲気の中、知っている有名アニメグッズを見ていると、
「あれ?碧純ちゃん?」
「え?有紀ちゃんどしたの?」
「それはこっちの台詞だよ~」
階段を上ってきた結城有紀が碧純を見つけた。
大きなトートバッグを持ち、ぴっちりとしたジーンズにお臍がギリギリ隠れているTシャツ、丈の短い麻生地メッシュのベストを羽織ってどこぞのモデルさん?と言う少々秋葉原に似つかわしくないお洒落美人。
「お兄ちゃんに付いてきたんだよ」
「先生でござるかどこでござるか?」
「上・・・・・・」
「あぁぁぁ・・・・・・」
2人に気まずい生暖かい風が流れた。
目線でそれい以上は言わなくても良いと結城有紀は言っていた。
「有紀ちゃんも買い物?」
「レッスン帰りにちょっとね寄ってみたの」
「なるほど、そう言うこと。有紀ちゃんは東京よく来るの?」
「二週間に一回くらいかな、原宿の事務所でレッスンあるから」
「原宿?良いなぁ~行きたいなぁ~」
「行こうか?」
「え?良いの?」
「うん、今日は午前のレッスンだったから、もう終わりで後は帰るだけだから」
「お兄ちゃんを待たなきゃ・・・・・・」
「すぐに降りてくると思うでござるよ」
「ん?どうしてわかるの?」
「先生の好きなグッズが目当てでござるよね?予約してあると思うでござるから」
「そう言う物なの?」
「で、ござる」
「有紀ちゃんお兄ちゃんの話題になると武士になるね」
「なってしまうでござる」
目的の物を手に入れた基氏が階段で降りてくると、結城有紀の姿を見て少し驚きながらも手を軽く振って挨拶代わりにした。結城有紀は深々とお辞儀をしていた。
「お兄ちゃん、有紀ちゃんレッスン帰りなんだって」
「あ~なるほど、お疲れ様」
「ねぇねぇ、原宿行って良い?有紀ちゃん案内してくれるって」
「そんな案内だなんてたいそうな物ではござらぬが、道くらいなら案内できるでござる」
「え?レッスン後で疲れてない?大丈夫?」
「大丈夫でござる」
「ごめん・・・・・・だったら、スカイツリーに連れて行ってもらって良いかな?」
基氏は申し訳なさそうに言うと原宿で頭がいっぱいになっていた碧純は口をとがらせた。
「ちょっとお兄ちゃん、は、ら、じゅく~!お買い物~」
「碧純ちゃん、お買い物したいならスカイツリーにもお買い物エリアあるよ」
「え?そうなの?」
「うん、ちょっとだけだけど広告の撮影モデルで行ったことあるよ。綺麗なショッピング施設だよ」
「なら行こう、いざスカイツリーへ」
碧純は結城有紀の腕をガッツリ掴んで言う。基氏がペコペコと頭を下げていた。
「へぇ~スカイツリーって間近で見ると、こんなんなんだ」
上を見上げて言う。634メートルは伊達じゃなく、兎に角高い。
真下で記念撮影するのは至難の業。
碧純にねだられて結城有紀と基氏が肩を寄せながらスマートフォンを地面に置いていろいろな角度で撮影した。
「碧純、もう良いだろ。ほら、展望室のチケットの時間だから」
「む~良い写真撮れないよ~撮れなかったよ~」
そうふくれっ面を見せる碧純の頬を結城有紀が突っつくお茶目なツッコミをしていた。
「うわっ、耳キーンきた」
展望台に上がるエレベーターに乗ると、基氏は耳に違和感が気持ち悪かったらしい。
高速エレベーターで上がるのだから多くの人が感じる気圧変化。
「拙者も慣れないでござる」
「私も~これ気持ち悪いよね~」
・・・・・・ドアが開くとスカイブルーの青空がどこまでも続いていた。
遠くには富士山が見える展望台。
高いビルに囲まれていないと言うのはとても良い。
「すっご~い・・・・・・ねぇねぇあっちが原宿かな?」
「お前はまだ原宿にこだわるのか?」
「だって~」
「碧純ちゃん、今度行こうね」
「えっ、良いの?」
「もちろん」
「無駄遣いするなよ~」
「お兄ちゃんのその鞄の中の18禁グッズよりは無駄遣いじゃないと思うんですけど~」
また河豚のようになる碧純の頬を結城有紀はプスッと指さしては笑っていた。
よっぽど気に入ったのか、楽しいのだろう。クスクスと笑いながら。
一周ヤイノヤイノと碧純はテンション高く見て回る。
「お兄ちゃん、有紀ちゃん、あっちが茨城だよ」
指さして北を見ている碧純。それを基氏と結城有紀がついて回る。
「先生、ここ物語て書くでござるか?」
「ん~どうだろ?候補ではあるんだけどね~、見て見たかったけどなんかきっかけがないと」
「他も言ってくれれば案内するでござるが」
「それはバイト特別料金かな?」
「碧純ちゃん友人特別割引でござる」
「なにそれ~」
そう言うと、少し寂しげにそして真面目な目で、
「お兄さん、私その友人少なくて・・・・・・しかも、容姿のこととか全然気にしてもいない友達って・・・・・・それに、夢笑わなかった人って初めてなんですよ。碧純ちゃん。そして先生の妹・・・・・・こんな特別な友達って他にいないですよ」
「そっか、碧純が心開ける相手って言うなら兄としては嬉しいかな」
「碧純ちゃん、可愛いですよね・・・・・・」
ちょこちょことあっちこっちを見て回っている碧純はどことなくハムスターのように動いてる。
「うん、可愛い自慢の妹」
その目線が結城有紀には少し不思議な物に感じた。あれ?なにか違和感が。
パパやママが見せるような目線でない気がする・・・・・・。
なんだろ?この違和感。
「・・・・・・先生、勘違いだったらごめんなさい。碧純ちゃんの事好きなんですか?」
「好きだよ。大切な妹」
「・・・・・・そうじゃなくて」
「有紀ちゃん、言わんとしていることはわかるよ。でも俺はそれは今は言わないって決めてるんだ。今はね・・・・・・気持ち悪いよね、んな兄」
「そんなことありません」
「・・・・・・碧純と俺はね、血縁上戸籍上は従兄妹なんだよ。俺、碧純の両親に引き取られて育てられたから。養子縁組もしていないから本当は兄妹ではないんだ」
「え?・・・・・・」
突然の告白に少し戸惑いを見せる結城有紀に続けて基氏は言う。
「あっ、大丈夫、碧純も知ってるから。うちの両親早くに亡くしてそれでね。まぁ小さい頃から一緒だからほとんど兄妹だけど」
「でも、違う・・・・・・」
「あぁ、気がついちゃうんだ」
「ごめんなさい。人の目ってずっと気になって見て来て育ったせい感じてしまって」
「別に隠しているわけではないけどね。決めてるんだ。碧純が大人になるまでは兄妹って」
「碧純ちゃんも、もしかして?」
「うん、言葉にして言ってないけど知ってるし、両親も望んでいるんだ。うち大きな農家だから跡継ぎとかね欲しいわけよ」
「・・・・・・」
「やっぱ気持ち悪いよね」
「違います。とても素敵です。なんか良いなぁ~」
「そうかな?」
「はい・・・・・・それに優しい先生でござるもん」
そう見つめ合ってしまう2人の間を割って入る碧純。
「ロリコン」
「え?」
碧純の悪意が籠もっている言葉に基氏が碧純の頭に拳でグリグリする。
「誰がロリコンじゃい」
「有紀ちゃんは私と同じ年なんだからね。それを口説くなんてロリコンだよ」
「あはははははははははっ、そうだね~私も15歳だもの、ロリコン先生でござる」
「・・・・・・うわ、ちょっとマジやめて、みんな変な目線、俺に送り出してるから」
「ロリコンお兄ちゃん」
「ロリコン先生」
「本当にやめて、痛い痛いなにか心に刺さる視線が痛い」
・・・・・・。
逃げるように展望室から降りる3人。
スカイツリーの下にあるショッピング施設で買い物と夕飯を済ませて、浅草に寄った。
雷門の提灯を見て碧純はまたテンションを高めていた。
夕暮れの浅草は、なぜかタイムスリップをしたような不思議な空気を持っていた。
「原宿行けなかったけど、楽しかった」
「碧純、本当に原宿にこだわるな」
「だって、原宿だよ原宿」
茨城県に住む女子高生には一度は行ってみたい地。最先端のデザートを何時間も並ぶ憧れ。お洒落な服、人気アイドルグッズ。探せばネットで買える時代なのに。
「俺は明治神宮行ってみたいな」
「竹下通りと明治神宮って同じ駅でござるよ」
「え?そうなの?」
「裏と表と言った感じでござる」
「え~だったらお兄ちゃんは明治神宮行っている間に、私と有紀ちゃんは竹下通りで良くない?今度行こうね」
ケラケラと碧純は笑って2人を誘うと、基氏もそれなら良いかもと頷いていた。
浅草駅からつくばエクスプレスで帰路につくと、碧純は基氏にもたれかかって寝ていた。
「先生、私羨ましいでござる。碧純ちゃん。こんな楽しくて優しいお兄ちゃんがいるなんて」
「ありがとう、なんか照れるね」
「私も好きでござるよ先生のこと」
結城有紀は、自分の降りる駅直前で小さくそう呟いて、急いで降りていった。
ホームで手を振る結城有紀は楽しげだった。
「有紀ちゃん帰っちゃった?」
「うん、今降りたとこ」
「有紀ちゃんねぇ~学校だとあんな楽しげな表情出さないんだよ」
「いろいろあるんだよ」
「なんだろうね~みんな難しく考えすぎな気がするんだけどなぁ」
「碧純はその楽しげな表情を見せる数少ない友人なんだろ?大切にしろよ」
「うん、わかってる・・・・・・でもお兄ちゃんは譲らないけどね」
そう言うと、もうすぐつくば駅だというのにまた兄の肩に顔を埋めて碧純は寝息を立てていた。
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