第5話 兄を2次元から取り戻す
つくば市の二人の住むアパートに大きなダンボールが届いた。
両親から。しかし、宛名は珍しく碧純になっているため基氏は開けずに、碧純帰りを待った。
妹といえども女子に送られてくる親からの荷物。要冷蔵とも書かれていないので大丈夫だろう。
着替えや下着なんかも入っている可能性がある。それこそ生理用品だって考えられる。家族の生理用品などティッシュペーパーやトイレットペーパーと同じで、特に気にする恥ずかしい物ではないが、見られる側としては不快な気持ちにしてしまいかねない。それに秘密の日記帳や実家の部屋から剥がされたアイドルポスターかもしれない。
見られたくはないだろうと最低限のマナーだった。
・・・・・・太陽の日差しで、ほかほかとなった乾いた妹のパンツをたたんでいるのに。
鼻に持って行き一息吸い込む。
「お日様の匂い・・・・・・」
それで確認しなくても・・・・・・。
その頃学校では、
「真壁さん、良いかしら」
そう言って帰り支度をしていた碧純を呼び止める結城有紀の姿にクラスメイトは驚いていた。ほとんど自分から誰かに話しかけることの少ない憧れの存在『筑波のエルフ』こと、結城有紀が、真壁碧純に話しかけている姿。
「碧純で良いって」
「だめよ、先生の妹君にそんなこと出来ないでござる」
「委員長、また武士語になってるから」
そう言われてハッと口元を押さえるが周りには気がつかれていない様子にフッと胸をなで下ろした。
「で、委員長どうしたの?」
「お兄様はご在宅かしら?」
「ん~いるんじゃないかな?基本、家から出ないし。私、学校来ている間にノルディックウォーキングくらいはしているみたいだけど、あと食糧の買い出しとか」
基氏の玄関の傘立てには二本のジュラルミン製のスポーツ用杖がささっている。基氏が、ウォーキングをするための物。最初、何も持たずウォーキングをしていた基氏は、ちょくちょく職務質問を受けた。昼間にウロウロしている作務衣姿が怪しさを醸し出していたのだろう。ひげも毎日剃らない基氏、理不尽であるが怪しい人物に見られてしまうのは仕方がないことだった。
そこで考えたのがノルディックウォーキング。
二本の杖を持ちタオルを首に掛けて歩いていれば間違いなくスポーツを楽しんでいる人に見える。
そして、腕も鍛えられるのだから一石二鳥だ。案の定、職務質問は極端に減った。なくなった。ただ単純に警察官に顔を覚えられただけだったのは基氏は気がつかなかったが。
「行って良いかしら?」
「え?委員長、うち来たい?」
碧純が少し大きな声で言ってしまうと周りはざわめいていた。
憧れの存在が、ちんまりと可愛い碧純の家に行く。百合百合展開を想像している生徒も中にはいたかもしれない。
「別にかまわないけど、なんで急に?」
「お兄様にこの前の御礼をと思って、クッキーを焼いたの」
「え~気を使わなくて良いのに~。田舎じゃ乗り合いなんてほんと、普通のことなんだから」
「えぇ、それはわかったは。でも、バイトの雇い主でもあるし。雇い主が運転してくれたわけだし」
「ん~・・・・・・リアルな女子高生アドバイザー・・・・・・っとに、お兄ちゃん、私がいながら」
そう怒ってみせる碧純を結城有紀は「ふふふっ」と上品に笑ってみせると、まるでその二人の周りだけに白い百合が咲き乱れているように見ていた同級生は多かった。
「エルフ様が笑ってる」「あのいつも表情をお変えにならない結城様が碧純ちゃんと笑いながら会話してる」「二人はただならぬ関係なのかしら」「私もまざりたいわ」
そんな周囲の声は二人には届いていなかった。
結城有紀は少しだけ人見知りなだけで、特段気難しい性格なわけではない。
話しかければ普通に返す。ただ、容姿端麗、憧れの存在、勝手にあがめ奉られ過ぎて、なかなか周りが話しかけられなかっただけ。勝手に高嶺の花にされたのだ。
結城有紀には同じ中学卒業の親しい友人だけが話しかける事を許されているかのようだった。そんなルールないのに。
「ちょっと待って、お兄ちゃんにメッセージ送るから」
『委員長がお兄ちゃんに会いたいって』
『おぉっおっおれに』汗マークのスタンプと共に
『なに勘違いしているの?バカ兄貴こないだの下校の御礼のクッキー渡したいって』
『あっ、なるほど良いよ。今原稿落ち着いたし』
「お兄ちゃんは、良いって」
そう言って、二人は揃って下校すると周りは羨ましいと見ていた。
碧純は碧純でちんまりと可愛い女子。裏では妹にしたいナンバーワンにランキングされており妬みというまなざしより、この凸凹カップルを優しく見守りたいと言う温かな視線だった。
「委員長もアニメやライトノベル好きなの?」
「勿論大好きでござるよ。ヒロインを演じたいと思うくらいに」
「声優さんだっけ?良いなぁ~夢があって」
「碧純さんは笑わないのですね」
「ん?」
「声優と言っても」
「え~人の夢を笑うほどデリカシーないほうではないんだけどな。それに人を楽しませる職業って絶対必要だし。でも、委員長だと、モデルさんのが似合いそう」
そうケラケラと笑ってみせると、結城有紀は
「友達になってくれませんか?」
そうぽろっと口から自然に出ていた。
「え?友達じゃん。クラスメイト、んんん、同級生みんな友達」
「そうじゃなくてちゃんと連絡先も交換した友達に」
「みんななんでそんな線引きするんだろうね?田舎なんて顔見知りはみんな『友達』ってひとくくりにしちゃうのに。そんな線引きわざわざすることないと思うんだけどなぁ~、あっ、でもアドレスは交換しようね」
スッと自然にスマートフォンを出した結城有紀に対して碧純は
「歩きスマホ禁止」
と、ズバッと言うと、周りから距離を取られていること憧れの存在として絶対的な者とされてしまっている結城有紀には新鮮すぎて、ついギュッと碧純を抱きしめてしまった。
「うわっちょっといきなり何、暑苦しいって」
「ふふふっ、ごめんなさい。ただ、ちょっと嬉しくて。それと、有紀って名前で呼んで欲しいでござるよ」
「それじゃ~有紀殿のほうが似合うよ~」
「でもいいでござるよ」
「やだよ、私の方が恥ずかしいもん、有紀ちゃん」
そう言われるとまたしても碧純を抱きしめてしまう結城有紀に碧純はくっつくなと、距離を取っていた。
この後、電話帳は部屋で交換された。
「お兄ちゃん、ただいま~」
「お邪魔するでござる」
「お帰り~と、いらっしゃい。碧純が同級生を家に連れてこられるってお兄ちゃん嬉しいぞ」
「うわ、なに、お兄ちゃん、キモい、私、普通に友達出来てるし」
「田舎っぺ娘がハブられてないかお兄ちゃん心配していたんだ」
「キモ、ちょっとやめてよ」
ほぼ冗談の兄妹のやり取りに結城有紀は羨ましそうな視線を送っていた。
「先生、これこないだの御礼とバイトを雇い続けてくれている御礼でござる」
結城有紀が可愛くリボンで包んでいるクッキーを渡すと、
「ありがとう。でもバイトの件はこっちも助かっているから。女の子の服なんてわかるかっちゅうねん」
「ん?先生どうしたでござるか?また、服選びでござるか?」
「んだから、ユエルがいなかったら絶対書けないから」
雑誌の山を見せていた。
「はははははっ、拙者が進めた雑誌ばかりでござるな」
「流行り廃りに色の組み合わせに持つバッグ、担当編集からもっと詳しく描写してって言われているから、ユエルにはもっと頑張って貰うからね。でも、今日は、碧純の友達、結城有紀さん、ゆっくりしていきなよ。暗くなったら送っていくし」
「ありがたきしあわせでござる」
「お茶入れたから、みんなでクッキー食べようよ」
碧純は実家のお茶を入れてリビングに並べていた。
「ちょっと自慢の緑茶なんだ。やんごとなきお方への献上にもされる大子のお茶飲んでみてよ」
「拙者、外見で誤解されるでござるが、中身は日本人、緑茶を愛するでござる」
「ねぇ~有紀ちゃんその話し方、疲れないの?」
「平気でござる。いただきます。おっ、色は薄めなのにしっかりとした味、甘さもありながらもお茶の葉特有の渋みも忘れない、香り豊かな味、美味しい・・・・・・でござる」
ほっと一安心というのか気が付けた結城有紀は、武士語を忘れかけていた。
「そう言えば、碧純、実家から荷物届いてるぞ」
「あっ、ママだ。お菓子入ってないかな~、のし梅に吉原殿中、刺し身こんにゃくでも良いなぁ」
そう言いながらダンボールを開けると、上には茨城のお菓子と大子名物の刺し身こんにゃく、十割の常陸秋そばの乾麺、奥久慈シャモ入りの真空パックのだし汁が入っていた。
下はというと・・・・・・。
「ちょっとママなに入れてるの、うわっ」
拡げられたのはフリフリが可愛いメイド服、ご丁寧にピンク色とオーソドックス黒色の二着、さらにその下には、コスプレセットのブルマ体操着セットとスクール水着、中学生の時のセーラー服と新品ルーズソックス・・・・・・パステルカラーのシマシマパンツが、10枚入っていた。そして0.01と書かれたコンドーム10箱も。
「ゲホゲホゲホゲホっとに何送ってきてるんだよ母さん・・・・・・」
手紙が一番下にあり、
『お父さんと使おうと買いましたがインポになってしまったので、基氏、"大切な人"とするときに使いなさい。コスプレ衣装も使えなかったので碧純、部屋着にでもしなさい』
『碧純』と書かず『"大切な人"』と書いたのは佳奈子の最低限の気遣いだった。
結城有紀はそれを聞いて引くどころか大受けしていた。
「あはははははははははっ、面白い母君でござるな」
「うん、ちょっと変わってる」
「・・・・・・母さん・・・・・・父さんインポって隠していてあげてよ」
「でも、先生、パステルカラーのシマシマパンツ好きでござるよな」
「うん、嫌いな人っているの?」
「いないでござるよ」
「って有紀ちゃんも、お兄ちゃんもなんで平然とパンツの柄について普通に話せるのよ」
「え?だって作品アドバイザーでそう言う話もしていたから」
「で、ござる」
「・・・・・・だいたい、パステルカラーのシマシマパンツって、有紀ちゃん持ってるの?」
碧純と基氏はテーブルと椅子の間から見える結城有紀の足に目が行ってしまうが、パッとそらした。黒色のタイツがとても似合う細い足。・・・・・・基氏・・・・・・匂いを嗅いでみたいなどと内心で思ったのは内緒。
「パステルカラーのシマシマパンツは持ってはいないでござるよ」
「だよね、だよね、あたかも女子高生はみんな穿いてて当たり前みたいに書いてるけど」
「あっ、そう言えば碧純のパンツにもなかったな?そう言えば昔はクマさんパンツ穿いていたよな?」
「おろ?」
「有紀ちゃん誤解しないで、お兄ちゃんが洗濯物係で私がお料理係なの、うち農家で忙しいときとか、家事とかはずっと手伝ってたし、こっちに来て2人で家事分担したの」
「おろ~、大丈夫でござるよ大丈夫でござる。誰にも言わないでござるから」
「絶対なんか誤解してるから~」
顔を真っ赤にする碧純に結城有紀は肩をポンポンと叩いていた。
そんなことを気にしていない基氏はメイド服を拡げて見ていた。
「へぇ~こんな感じなんだ~、着ている人のを見たいかな~」
創作脳に切り替わっていた基氏にとってメイド服は観察する対象に変わっていた。
「お兄ちゃんが着ろって言うんだったら着てあげなくもないんだからね」
「先生がご所望なら拙者も着るでござる」
「え?良いの?」
「バイト特別料金発生の所ではござるが、碧純ちゃん割引と言うことで」
「怪しげな特別料金はおいといて、その割引なによ?」
「先ほどのハグ代でござる」
「うわっ、なにそれ~」
ジト目で結城有紀を見る碧純だったが、二人が抱き合っていと言うことに基氏は何かツボにハマってしまったのかハァハァハァハァと鼻息を荒くしていた。
「ちょっと待ってて着替えてくるから、有紀ちゃんこっち」
そう言って、メイド服とシマシマパンツとルーズソックスを持って碧純の部屋に行く二人を基氏は見送り、中に入っていたコンドームは気まずいので見えないところにしまった。
結城有紀のサクサクで甘さ控えめのお店に出しても良いようなクッキーを食べながらスクール水着を眺めている基氏。
10分近く経過して二人は出て来た。
「ジャーン、お兄ちゃんどう?」
ピンク色のメイド服に身を包んだ碧純は勢いよく出て来た。なにか、変身美少女バトルアニメでも見ているかのようだった。
「メイド服にルーズソックス・・・・・・萌える・・・・・・ハァハァハァハァ」
少々興奮している目に次に入ってきたのは、黒いメイド服の結城有紀。
胴回りなどの寸法は問題なかったが、いかんせん碧純用、長身の結城有紀には丈が短すぎてスカートでパンツが見えないようにもじもじしていた。
「拙者には似合わなかったでござるよ」
「ロリっこと、長身メイド服の戦隊物かよ、ハァハァハァハァ」
「お兄ちゃん、あんまり見ちゃだめ」
そう言うと、結城有紀のスカートの隙間からパステルカラーのシマシマパンツが見えていた。
「え?パンツも履いたの?ハァハァハァハァ」
「パンツの上から履いたでござるが、見られると恥ずかしいでござりんす」
「キャラ崩壊キターーーーーーーーーーー」
「ちょっとお兄ちゃん、通報案件だよ」
「待て待て待て待て待てスマートフォンを手にするんじゃない。ちょっと待て、このブルマ履いてよ。ブルマなら良いでしょ」
「はいでありんす」
結城有紀はブルマを受け取ると碧純の部屋に入っていった。
「お兄ちゃん、有紀ちゃんばかり見過ぎ」
それは誤解だった。基氏、極度のシスコン。いや、碧純を一人の女性として見ている。
だが、今は高校生であり妹。一緒に暮らす妹に欲情しないようにしているため、結城有紀に視線を移している。それが真実だった。
パステルピンク色のブルマを履いて出て来た結城有紀は、先ほどよりは恥ずかしそうにはしていなかったがもぞもぞと落ち着かない様子だった。
「ブルマも履いたことがないでありんす」
「・・・・・・ブルマとスクール水着は国指定無形文化財にして高校生まで義務づけるべき国の宝」
「・・・・・・お巡りさんってなんばんだっけ?」
「ぎゃーーーーーやめろーーーーーー兄を警察に突き出す気か」
「だってお兄ちゃんキモい」
「キモくたって兄は兄だぞ」
「前科持ちの兄を持つ妹になるのかシクシクシクシク」
「碧純が通報しなければ、前科持ちにはならん」
その二人のやり取りを必死に結城有紀は笑いを堪えていたがついに笑いのダムは決壊したようで、大笑いをはじめてしまった。
「あはははははははははっあはははははははははっあはははははははははっあはははははははははっあはははははははははっあはははははははははっお腹痛いあはははははははははっあはははははははははっあはははははははははっやめてお腹痛い」
「有紀ちゃん?」
「ユエル?」
「私一人っ子で、こんな楽しい事なかったから」
「そうか?喜んでもらえて何よりだ」
「変態お兄ちゃんが笑いの種になって妹としてもなによりだ」
「いたっ、チョップ禁止、背伸びなくなるから」
「もう止まっただろ?」
「そんなことないもん、これから有紀ちゃんみたいに育つんだもん」
「あはははははははははっあはははははははははっあはははははははははっ、本当お腹痛い」
結城有紀は大笑いしてパステルピンク色のブルマも気にせずお腹を抱えて笑っていた。
「俺、妹、そしていろいろアドバイスもらうのに雇っているとはいえ、女子高生にこんな格好させているのバレたら、社会的にはアウトだよな」
「完全にアウトーーーーーーーー」
碧純が叫んだところで、
「あら、鍵開いてるわね。真壁君、お散歩中にお届け物があったから預かっていたわよ」
と大家さんが玄関のドアを開けてしまった。
「・・・・・・忠信さんにプロのお姉さんが来てるって連絡しなきゃ」
大家さんと父親の忠信とは知り合いで二人を見守るように頼まれていた大家さんは、部屋の光景を完全に誤解していた。
「違うんだよ大家さん違うの待って」
この後、基氏の必死の説明で、なんとか忠信への連絡だけは避けられた。
今日も両親が留守だと聞いた二人は、奥久慈シャモ入りけんちん汁で常陸秋そばを漬けて食べる茨城名物『けんちん蕎麦』の夕飯をご馳走して、家の近くまで痛車で送り届けてあげた。
「先生、碧純ちゃん、また遊びに行ってもよいでござるか?」
「いつでも歓迎だよ、有紀ちゃん」
「妹共々よろしくね、気をつけて帰るんだよ」
「はい、ごちそうさまでした」
~大家さん~
「あなた、真壁君、大丈夫かしら?」
「なにが?」
「妹さんだけじゃなく、もう一人女の子連れ込んでいたわよ」
「もう一人、背の高いすらっとした人、メイド服着てた」
「・・・・・・凄いな3人でコスプレプレーか?おい」
「あなた!」
「冗談だ、クッキー缶で叩こうとするな。基氏くんなら大丈夫じゃないか?前に飲みに連れて行ったときポロッと言ったけど妹と結婚するのが夢だって」
「ちょっとそれだって可笑しいじゃない」
「あぁ、基氏くんは奥さんの姉さんの息子なんだよ。ほら何年か前に豪雨災害あっただろ?あの時亡くされてな、忠信が引き取ったんだよ。で、忠信も出来ることなら跡取りにしたいって」
「じゃ~あの2人は?」
「両親公認の仲、暖かく見守ろうじゃないか」
「あんな変な車乗ってるから私は心配よ」
「ほら、これ読め。基氏くんが書いている小説だ」
「それは知っているけど文字が小さくて」
「んだな、俺たちには老眼でキツすぎる」
「もっと字が大きければ良いのに」
~結城有紀~
先生に恥ずかしい姿見せちゃった・・・・・・。
でも楽しかったなぁ~。お兄ちゃんがいる生活ってあんなんなのかな?羨ましいな~。
先生がお兄ちゃん・・・・・・うんん、先生が彼氏で碧純ちゃんが妹、キャッ。
そんな想像をしながら筑波山の上に輝く月に向かって、良い出会いをありがとう。そう呟いていた。
パステルカラーのシマシマパンツ貰ってしまったわ。どうしよう。学校に履いていく?
私みたいな長身より碧純ちゃんみたいな可愛らしい娘の方が似合う物なんでござるがな。
~真壁碧純~
「お兄ちゃん、私たち実の兄妹じゃないの有紀ちゃんに言った方が良いのかな?」
その言葉に碧純の様々な気持ちが込められている事を基氏は感じていた。
長く一緒に育ち、そして心から好きな相手の言葉。その言葉の奥の意味を感じる。
『以心伝心』『ツーと言えばカー』そんな言葉で表現出来てしまうのかもしれない。
「言わなくても良いんじゃないか?」
そう返すと、碧純は少し不機嫌な表情を見せ、帰りの車の中は静かだった。
その夜、静かにお風呂に入る基氏、そこにバスタオルで体を隠した碧純が入ってきた。
どこか寂しげで冗談で兄をからかうためにやっているような表情ではなかった。
「お兄ちゃん、一緒に入ろう」
「バッカ、お前・・・・・・」
「ちゃんと水着着てるし良いでしょ、昔は一緒によく入っていたじゃん」
声のトーンの違いを感じ、基氏はそれ以上の拒否をしなかった。出来なかったと言って良いだろう。バスタオルを取ると、佳奈子が送ってきた旧式スクール水着。平たくちんまりしている碧純のための物では?碧純専用だろ?碧純のために作られて物に違いない。あらぬ妄想をしてしまうが、碧純がしおらしい。
シャワーでスクール水着の上から体を流して、当たり前のごとく基氏の前に背中を向けて湯船に浸かる碧純。その背中はどことなく寂しさを放っていた。
「お兄ちゃんを誰かに取られるってやだよ」
そうボソリと言うと、基氏も少々間を開けて、またボソリと一言
「わかってるって」
「え?」
「高校卒業するまでは、これ以上は言えない。そう決めている」
「・・・・・・うん、そっか・・・・・・そう言うことか」
「そう言うことだ、わかれ」
「うん、わかるよ。だってずっと一緒だったんだもん。それに背中に堅いの当たっているよ」
「バッカお前それは生理現象だっつうの」
「うん。わかってる・・・・・・待っててね、お兄ちゃん」
「あぁ、ちゃんと待つさ」
その短い言葉のやり取りだけで二人はお互いが両思いであることを確信していた。
だから、それ以上の言葉を必要としなかった。
基氏は妹の楽しい学生生活を願い我慢し、碧純もまた、兄のその気持ちを理解し我慢すると決めていた。
卒業のその瞬間まで。
『待っててね、お兄ちゃん』
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