第4話 兄の彼女はバーチャルでした。
兄との生活も学校生活も一ヶ月が過ぎ、慣れ始めた頃、部屋で執筆をしているはずの基氏に夕飯を呼びに行った碧純は部屋から話し声が聞こえているのに気がついた。
「編集さんかな?お仕事の電話?邪魔しないように待たないと・・・・・・」
ライトノベル作家の家に担当編集が訪れるような事はほとんどない。
東京都内で編集部が近ければ配達を使わず、直で原稿のやり取りや、打ち合わせをすることもあるらしいが、都内から離れていると、ほぼ、メールと電話のやり取りで原稿は進む。中には担当編集と会ったことがなく、書籍化している人もいると、食事の時の何気ない兄との会話で知った碧純。ちょっと未来的な仕事に感じた。
実際一緒に住んでいて、兄の編集さんが訪ねてきたと言うこともなかった。荷物はよく届く。見本本や返しの原稿だったり、重版の献本だったり、特典のSSだったり、グッズの見本だったり。
部屋の外で待っていると聞こえてきたのは、
「茨城先生、大好き~」
「僕もだよ、大好き」
「愛してるでござる」
「はははっ、それは作中出てこないよ」
はっ?なに今の?こっそりとドアを開けて覗くと基氏は、パソコンの前で二次元な美少女を画面に出し話していた。茨城の公認バーチャル美少女『茨ひより』動画のような美少女と会話をしている兄
「お兄ちゃん、妹が一緒に住んでいるんだからエロゲーはやめてよね!」
焼き餅と兄の自家発電姿に出くわしたらどうしよう?気まずいと、思ってしまった碧純は思わずドアを開けて大きな声で言ってしまう。
「うわっとっとっとっとっとっと、何だよびっくりした」
やましいことはなくパンツもちゃんとはいている基氏は椅子をくるりと碧純のほうに向けた。
その姿にほっと安心する反面、ちょっと見たかったと言う期待もあった碧純。
「え?そちらの女の子は誰?」
とリアルに反応するパソコン画面のバーチャル美少女。
「え?なにそれパソコンゲームじゃないの?最新のAI技術とか?」
自分に反応したバーチャル美少女に不思議がり画面に近づく碧純、
「えっ?・・・・・・ま・・・・・・か・・・・・・・べさん?どして!先生、急用です。ごめんなさい」
パソコンの中から聞こえたと思うと、画面は青色の画面になりバーチャル美少女は消えていた。
「え?今の何?お兄ちゃん?」
「お兄ちゃんの彼女」
「・・・・・・わかんない、バカ兄貴がまた変なこと言い出した~」
「彼女は冗談で、今のはバーチャルなアバターを使っている女子高生で、お話ししていたの。バーチャルだけど中身は女子高生でいろいろ話してリアルな女子高生はどんなのだか取材協力して貰っているの。流行りの事や作中の服の話とか、今人気のデートの場所とか食べ物とか、そんな話を聞くの。会わないんだから合法だろ?お兄ちゃんは何も悪くない」
「リアルなら女子高生ここにいるじゃん」
「田舎から出て来たばかりの、食事の最後にイナゴの佃煮でシメのお茶漬けを楽しみにしている女子高生に話聞いて、万人受けすると思うか?生サラダよりコゴミのマヨネーズ和え作ってる女子高生が参考になるか?ヤモリさんまで串刺し黒焼き計画、昨日窓に付いていたヤモリさん見てしていただろ?ゴキブリ見ても動じずテッイシュ1枚で握りつぶす女子高生を書いてもウケないって」
「だから、バーチャルな人と?」
「そうだよ。前々からだよ。担当編集の猿渡さんの知り合いらしくて、ちゃんと取材費を払ってお願いしているの。碧純が期待しているエッチなゲームじゃないぞ!」
「期待なんかしてない、バカ兄貴」
「さっきからバカとはなんだ。ちゃんと仕事なんだからな」
「絶対、中の人はネカマだって、男だよ、おっさんだよ、絶対編集部の誰かだって」
「・・・・・・ネカマは知っているんだな。だが、ネカマではない。なぜなら、編集さん経由でそれはお墨付きだ。なんでもアイドル声優を夢見ている女子高生らしい。親戚で何度か冠婚葬祭で会ったことはあると言っていた。事務所にも入っていてレッスンに通っているらしい。ちゃんとその事務所を通して取材費払うんだから、そこはちゃんと確認してある。守秘義務の確認と月額3万円の契約書も交わしてある。碧純と同じ歳だと書いてある」
「で、そのバーチャル美少女に『大好き』って言われてたの?」
「それはだな、雰囲気と言う物を感じるのに頼んで言わせた。ヒロインの台詞だよ」
「で、お兄ちゃんも『大好き』」って?」
「だから、物語の構成上そう言うやり取りをシミュレーションして・・・・・・」
「変態・・・・・」
「碧純、それは違うって」
「もう、お兄ちゃんの言ってることわかんないよ~リアルな女子高生なら目の前にいるじゃん、私で良いじゃん、私が言ってあげるから~」
碧純は大泣きをしてしまうと、基氏は手の着けられなさに困り、佳奈子に電話をしてなだめて貰うように頼むしかなかった。
冷めた夕飯を冷めた空気の中食べる2人だった。
やはり食卓には生サラダではなく、碧純手作りの春の山菜料理が並んでいた。
美味いけど違うんだよ碧純・・・・・・好きだけど違うんだよ碧純・・・・・・。
~バーチャル女子高生ユエル~
え?あの顔は確かにクラスメイトの真壁碧純さんだったはず。え?どうしていたの?
向こうからは私はバーチャルでしか見られていないから、身バレはしていないはずだけど・・・・・・。え?茨城基氏先生の部屋になんで、真壁碧純さんが?
先生は1人暮らしだと聞いていたのに・・・・・・。
バーチャル女子高生に物足りなさを感じた先生が、女子高生をナンパして家に連れ込んだ?え???連れ込まれた真壁碧純さん?そんなビッチだったの?天真爛漫、そんな感じに見えていたのに。
猿渡の叔父さんに連絡したほうが良いのかしら?
でも、そんなことしたら打ち切り・・・・・・先生は逮捕されて、次の巻が読めなくなってしまうわ。最悪、ライトノベル業界から追放。社会的に死・・・・・・。
それは避けたいは、私・・・・・・どうすれば良いのかしら。
いつか、アニメ化されたとき、茨城基氏先生の作品のメインヒロインになりたいのに。
練習一生懸命してるのに。
『人気ライトノベル作家茨城基氏逮捕?未成年者と淫らな行為をした疑いで・・・・・・』そんなニュース見たくない。
1人、部屋で悩んでいるリアルな女子高生がいることを真壁兄妹が知るはずもなかった。
翌日、モヤモヤが収まらない碧純だったがそれでも学校だった。
モヤモヤしている碧純の心が写し出されているのか、雲がどんよりとしている朝、いつでも泣き出しそうな空。涙をため込んでいそうな空。碧純は見上げることなく、いつものように徒歩で学校に向かった。
教室でなぜか今までと違う視線を感じる碧純。その視線の先にはクラスメイトで学級委員長の結城有紀がいた。ほとんど話したこともなく、興味を持たれるような接点もなく、恨みをかわれるような事だって当然していない。
その視線に気がついた碧純は、結城有紀に視線を返し軽く目礼すると、結城有紀も目礼だけして前にむき直していた。
何だったのか?偶然そう感じただけだったのか?特に深くまでは考えなかった碧純。
クラスにも慣れて、それなりのグループ形成をしていた碧純は他の生徒と話していた。
勿論、結城有紀も誰かとごくごく普通に話していた。
学級委員長結城有紀、『筑波のエルフ』と影でささやかれる美形。北欧系クオーターで、少しばかり日本人離れしている。つくば市はもともと外国人が多く住み、外国人その者も同じ学年に5人ほどおり、ハーフやクオーターもごくごく普通にいるので、さしたる珍しいものではない。差別など当然なく、むしろ、その行為はダサいことと認識されている。田舎だと馬鹿にされがちな茨城県だがつくば市は意外にも国際的な街。
それでも『筑波のエルフ』と影で言われる。当然それは褒め言葉だ。
碧純も田舎では農業を学びに来ている留学生や、日本の田園風景や袋田の景色に魅了され移り住んだ外国人を見ているから、さほど驚きはない。
結城有紀は弓道部に所属しており、長身で、透き通った白い肌と、ロングの明るい色の地毛である金色と黒が混ざった髪は、『エルフ』を結びつけてしまいたくなるものだった。
成績も上位で物静か、175センチと長身で胸も大きく、それなのにスラリとしている。
同級生の憧れの存在。女子校たる宿命なのか女子生徒から告白を受けることもあると噂されている。
『・・・・・・やっぱり間違いない。あの画面に映ったのは真壁碧純さん。どうして先生の部屋に?やはりイケない裏バイト?でも裕福な農家育ちだと聞いたけど・・・・・・。
田舎から出て来て寂しさのあまり?・・・・・・イケないわ、それはだめよ。
そうクラス委員として止めなくては。先生のアドバイザーとしも止めなくては。』
誤解が招い結城有紀の妄想は、基氏と碧純の淫らな行為。
授業中、白肌が真っ赤に染まり、先生に保健室に行くことを勧められるほどだった。
授業が終わり、下校となる。
部活を終えた結城有紀が校舎出口へと向かうと、図書委員の仕事を終えた碧純が、外を見て立ち止まっていた。涙をため込んでいた空は大泣きをしていた。
大粒の雨が雷と共に降っていた。春と夏の境、茨城では時々起こる。太平洋で暖められた空気が群馬、埼玉、栃木内陸部で雨雲になり、一時的な豪雨として雲が流れてくる。
今日はそれに当たってしまったようだ。碧純は傘を持ってくるのを忘れた、傘を持っていたとしてもあまりの強い雷雨で出るのをためらう。
「あちゃ~こりゃ~迎えに来て貰うかなぁ~でもやだな~あの車・・・・・・大家さんに借りてきてくれないかなぁ~軽トラのほうが絶対マシだって・・・・・・」
その言葉に反応してしまった結城有紀。
「真壁さんは、通学のためにこちらでご両親と離れて暮らしていると聞きましたが」
「あっ、え?委員長」
「誰に迎えに来て貰うのですか?」
「あっ、お兄ちゃんと暮らしているんですよ」
「嘘、冴えない作務衣の作家に迎えに来て貰うんでしょ?」
「冴えない作務衣作家・・・・・・どうして知ってるの?」
「やっぱり。いけないはそんな関係。寂しいからって男の人を捕まえて家に上がり込むなんて、ふしだらよ。今すぐやめなさい」
「私、そんなことしてない」
「嘘おっしゃい。私見たんだから」
「え?」
碧純はやましいことは当然していないため堂々と基氏と出かけたりしている。
先日も、ショッピングモールで買い出ししたばかりだ。
そのことを言われているのか?腕にしがみついたり、手をつないで歩いたり、唇の脇に付いたソフトクリームを指で取って舐めて貰ったりしていた何かを見られたと言うこと?
でもごくごく普通の服を着ていたし、見た目だけで作家だってわかるの?
ぐるぐると頭の中で整理するが、この容姿端麗『筑波のエルフ』と言われるくらい目立つ委員長が自分の目線に映ることは一度もなかったはず。気がつかないと言うのが無理だ。
そして、男の部屋に上がり込むなんて・・・・・・完全に誤解だ。
「どこで見たの?」
「え?」
結城有紀はどう言い返せば良いのか悩んでしまった。
画面で見たとは言い出せなく。
無言の時が雷の轟音が鳴ると、雨は益々強くなっていた。
「「どうしよう?」」
2人は今までの会話より、その豪雨に気が向けられた。ゲリラ豪雨と言うより雷様のゲリではないかと言うほど凄まじく降っており、校内放送では『雷が危険です。校内にとどまるように』と放送されていた。その音をかき消すくらいに降っている。
豪雨の白い自然のカーテンの先で雷とは違う光が2人に向けられた。
車のパッシングと呼ばれるヘッドライトの点滅の合図だった。
一台やたら派手なスポーツカーが横付けされた。リトラクタブルライトがパカッと開いている特徴的なスポーツカー・・・・・・それよりもボディーのラッピングの方が特徴過ぎる。少し開いた窓から
「おっ、丁度良いタイミングだったか?碧純迎えに来てやったぞ。お兄ちゃんポイント高いだろ」
「あちゃ~お兄ちゃんポイント低い、この車で学校来ないでよ」
「仕方ないだろ、これしか持ってないんだから。ほら、雷も凄いんだからさっさと乗れ、そちらはお友達か、電車?バス?徒歩?どっちにしても雷危ないから狭いけど乗りな、送って行ってあげるよ。狭い車で申し訳ないけど」
結城有紀は絶句した。基氏の愛痛車RX-7。
『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』と、ライトノベルタイトルが大きく書かれ、4人の妹がパステルカラーのシマシマ模様のパンツを手に差し出しているイラストが描かれていた。それを見た瞬間、そして運転席の男性。作務衣姿の冴えない男・・・・・・。
なんで?なんで?
その混乱は、白い肌が真っ青になるほどだった。
「ごめん、委員長、あれお兄ちゃん。お兄ちゃんの車、変だよね。嫌だよね。ごめん出来れば内緒にして」
碧純がそう言うと結城有紀は首を横に振っていた。なぜなら自分も読んでいる作品で、そして関わっている作品。現役女子高生アドバイザーとしてバーチャル女子高生ユエルとして後書きに感謝の言葉だって書かれている作品だった。
「無理しなくても良いよ。でも、この雷だったらしばらく待つか、お家の人に迎えに来て貰うかしないと危ないよ。スマートフォンある?貸してあげようか?」
「わっわっ、私、今、1人なの」
「なら、我慢して乗ってく?遠慮しなくて大丈夫だよ。実家でなんて、こうやって同級生のお迎えに便乗して乗るのなんて普通だし。あっ、あれ、ちゃんとお兄ちゃんだからね。勘違いしている変な男の人なんかじゃないよ、歴とした『家族の兄』であって、そこら辺の『おにいちゃん』って意味じゃなくて」
言葉を遮るように聞き返す結城有紀、
「兄?お兄ちゃん?」
「うん、兄だよ」
「おい、早くしろ、雨、強くなってきてるぞ」
2人は基氏に急かされると、碧純は狭い後部座席に座り、結城有紀は助手席に座った。
「お兄ちゃん、早く行って。他の人に見られたくない」
「っとに、せっかく迎えに来てあげたのに。で、碧純のお友達さんはどこに帰るのかな?遠慮しないで。田舎じゃぁんなこと当たり前なんだからっとに今の時代の助け合いがない時代の風潮のがおかしいよな」
「お兄ちゃん、それは私も同意するけどさ~見ず知らずの人で、さらにこんな痛車だったら警戒するって」
「そうか?でも、同級生の兄なら良いだろ?」
そう言いながら基氏は走り出すと、
「つ、つ、つ、つくば駅までお願いします」
か細く小さな声で言った。
基氏はどこかで聞いたことのある声だなと思いつつも「オッケー」そう承諾した。社内には雷の雑音が時たま入るラジオが流れていると、茨城県常陸太田市出身の超有名シンガーソングライターであり、数々の歌を人気アーティストに提供している茨城弁丸出しのパーソナリティーが、『ここで臨時で気象情報とぉ、交通情報いれっかんね、みんな聞いてくんちょ』
と尻上がり茨城弁で言う。
するとラジオからは、女性アナウンサーの声で大雨警報などの気象情報と、つくばエクスプレス運行休止を知らせる交通情報が流れていた。
「つくば駅からどこまで?」
基氏が聞くと、混乱の渦中の結城有紀は、戸惑いながら、
「あっ、えと、研究学園都市駅ですけど、つくば駅で大丈夫です。キュートで時間潰しますから」
と、地声ではっきりと言ってしまった。
「んんんんん?誰かに似ている声だね、君、綺麗な声だ。あっセクハラになるのか?ごめんごめん。それより研究学園都市駅なら、すぐだから乗せてってあげるよ。いつ運行再開するかわからないもん、この雷だと」
ワイパーが間に合わず、隣を走る車から飛んでくる水しぶきで前が見えなくなるほどの豪雨。雷もまさに頭上で光と音の差がほとんどない。
「えっ、そんな悪いですって」
「委員長、遠慮することないって、気持ち悪い車で悪いけど」
車の車種の事を言っているわけではない。痛車しかも『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』等というとんでもないタイトル。女子高生なら大半99.9パーセント嫌がるだろう。
「真壁さん」
「はっはい?」
「あなたは何か勘違いをなされています。この『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』は、比喩であって中身は純愛物。血のつながらないブラコンの四人の妹が血のつながらない兄を取り合うという純愛ラブストーリー。全年齢対象のライトノベル、イラストとタイトルはエッチですが、中身は小学生が読んだって良いくらい繊細な描写で綺麗な物語なんです」
結城有紀はやってしまった。大好きな作品をバカにされてると思ってしまったからだ。
まるでまくし立てるかのように時々なる雷鳴より大きな声で、早口で言ってしまった。
「・・・・・・知ってるよ。お兄ちゃんの本だもん。読んだよ」
「碧純、読んだの?」
「も~中身とタイトルとイラストがちぐはぐだよ、お兄ちゃん、お兄ちゃんがバカ変態作家なら編集さんもおんなじレベルなの?」
「・・・・・・イラスト俺の好みで無理を言って頼んだんだから仕方ないだろ。しかも、タイトル仮のやつが、そのまま編集会議でOKでてしまったし」
イラスト、ほぼ編集部と営業部とイラストレーターさんが決める物だが、基氏は無理を通して頼んだイラストだった。
一作目、『妹のためならなんでもしたいお兄ちゃん』が大ヒットしている作家のささやかなわがままだった。
「てっ、委員長知ってるの?読んでるの?」
「勿論です。『妹のためならなんでもしたいお兄ちゃん』だって読んでます。もう、何から何まで面倒見ようとしてくれるお兄ちゃんなんて理想過ぎるお兄ちゃんじゃないですか。私だってこんなお兄ちゃんに体洗って貰いたい」
「へ~真面目一徹、北欧神話でも読んでいそうと噂されてる委員長って、こう言うの読むんだ」
「君、委員長なんだ。うちの碧純ちょっと田舎っぺな所もありますけど、仲良くしてあげてください」
兄として当然のように妹の学園ライフを心配すると、
「当然です。茨城基氏先生の妹様なら仲良くいたしたいござる。ってそうならそうと言ってくだされば、てっきり私はバーチャルユエルに飽き足らず、女子高生を家に連れ込んだのかと思ってしまったでござるよ。しかもクラスメイトの真壁さんが画面に映るなんてびっくりでござる」
「「はい?」」
武士語『ござる』に変わってしまった委員長に愕く基氏と碧純。
「あっ」
「バーチャル女子高生の件は猿渡さんと本人しか知らないはずなのに、しかもござる語はたまに出る語尾、知っているのは俺くらいなはず、もしや?」
「・・・・・・バーチャル女子高生、ユエルでござる。先生、世間はせまいでござるな」
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」
基氏と碧純はハモりながら大声で驚いていた。
「ちょっとまって、お兄ちゃんとお話ししていたバーチャル女子高生って委員長なの?」
「で、ござる」
「え?俺は妹のクラスメイトと話していたの?」
「で、ござる」
「ちょっと、世間狭すぎる」
「で、ござるな」
「ユエルちゃん、俺変なこと言ってないよね?大丈夫だよね?」
「もちろんでござる。先生が聞いてきていたのは今流行りの物とかでござるから。それと、ライトノベル登場女子高生の言い回しの確認でござった」
「委員長、なんで『ござる』武士語なの?」
「緊張でござる」
狭い室内、ガンガン聞いているはずのエアコンも何のその、二人は嫌な汗を流していた。
「うわ~アドバイザーがいなくなるの厳しいーーーーーー」
基氏は女子高生の生態調査をほぼこの結城有紀、バーチャル女子高生ユエル頼みだった。妹のクラスメイトだと、それは続く関係なのか怪しくなってくる。
「先生、やめられたら私もこまるでござる」
「え?」
碧純はこれでお兄ちゃんの怪しい趣味が一つ消えるかと後ろの席で安心していたら、その言葉に後ろから助手席を掴んで身を乗り出して驚いた。
「事務所の他の個人レッスンの費用は自分のアルバイトから出しているでござる」
「あ~プロの声優さん目指しているんだったよね」
「で、ござる」
「ん~、いや、俺としてもリアルな女子高生アドバイザーいなくなるのは辛いから続けて欲しいけど大丈夫なの?」
「はい、拙者、むしろ先生の作品のお役に立てて本望でござる。契約の通り事務所以外は他では話してないでござる。学校でも勿論でござる」
「もう、お兄ちゃん、リアルな女子高生アドバイザーなら家にいるじゃん」
「だから、碧純だとヒロインが田舎ッペになるんだって、ヒロイン、タラボの芽の天ぷらとか、ふきのとうの天ぷらとか始めちゃうじゃん、ユエルだとお洒落なサラダ専門店が流行っているとか教えてくれるの。タピオカはもう古いとか」
「先生、そう言うふきのとうの天ぷらなら青森が舞台の現役女子高生魔女物語漫画ががあるでござるよ。あれ人気でござる」
とてもとても名作な漫画で存在する。二期を熱望するファンが多い漫画。
基氏は嘘をついていた。
碧純がモデルになってしまうと書けなくなってしまう。碧純は尊ぶ存在。モデルにする存在ではなかった。それは当然言えない。
「これからもお願いしますでござる」
そう言った時に窓の外では筑波山に虹が架かり、太陽の日差しが降り注いで、雨雲は遠くに過ぎ去ろうとしていた。
「かまわないなら続けてほしいです」
その返事を返したとき、車は研究学園都市駅に到着した。
「先生、ありがとうございましたでござる。真壁さん、学校では内密にしてくださいでごじゃる」
そう挨拶して結城有紀は足早に助手席から降りていった。
助手席に座り直した碧純、家に向かって走り出す基氏。
「お兄ちゃん、委員長に変なこと絶対話さないでよね。それと会うのも禁止だからね」
「だから、法を犯さないために、ああいった手段をしていたんだから」
「リアルな女子高生アドバイザーなら家にいるのに」
口をとがらせて碧純は怒っていた。
~結城有紀~
勘違いで良かった。本当に良かったわ。先生が逮捕されない。
未成年者とみだらな行為・・・・・・。なかった。
真壁碧純さんのお兄さんだったなんて驚きだわ。
でも似ていないけど?歳が離れているせいかしら?
まぁ、実の兄妹似ていないことなんて珍しくもないか。
良いなぁ~真壁さんお兄ちゃんが先生で。きっと妹思いのお兄ちゃんなんだろうなぁ。
でもあの車は笑っちゃう。『お兄ちゃんのためならパンツもあげるよ』に実の妹乗せているんだから。・・・・・・真壁さん先生にパンツあげたことあるのかしら?
~真壁佳奈子~
碧純学校生活が気がかりな物の山菜の収穫時期に、田植えと忙しく、手が離せない日々。碧純から日課となっているメッセージが届いた。
『お兄ちゃんの車が変』
『ヤンキー車?』
『痛車』
(+。+)アチャー。と言うスタンプ
『お兄ちゃんがクラスメイトと仲良し』
『ちょっと碧純、それは阻止しなさい』
佳奈子は二つ焦っていた。
基氏が女子高生と淫らな関係で逮捕されてしまわないか。そして、娘の婿、跡取りを取られてしまわないかに。
・・・・・・そうだちょっとハッパかけてみようかしら。
『基氏の小説読んだ?』
『え?ママ知ってたの?』
『そりゃ~そうよ』
『なんで教えてくれなかったの?』
『リアル妹がいる人が妹との青春ラブコメ書いているの教えられる?』
『うっ・・・・・・確かに』
『碧純、基氏の頭の中は二次元妹でいっぱいよ』
『うん、お兄ちゃんの部屋キモい』
『現実世界に興味持たせないと、少子高齢化になるわよ』
『なんで?』
『碧純と基氏の子、孫抱きたいな~』
『(;゜〇゜))』
少々やり過ぎた感が出ているメッセージのやり取り、しかし、跡取りをどこの馬の骨だかわからない子に取られてなる物かと佳奈子は考えた。
・・・・・・二次元美少女ねぇ~・・・・・・密林さんよろしく。
佳奈子は通販サイトを物色してた。
「この衣装とか良いかも。あっ、これも。あっ、これも・・・・・・一応碧純もスクールライフ楽しみたいだろうから、コンドームも入れてっと・・・・・・」
「???コンドーム???」
「娘と息子もそう言うお年頃よ。親が用意してあげなくてどうするの?碧純も妊娠で学校行けなくなるのは嫌かもしれないでしょ?だから、コンドームも送ってあげるのよ」
「孫・・・・・・早く見たいなぁ~」
佳奈子と忠信は、碧純と基氏の間に出来る孫を熱望していた。
だが、スクールライフも大切。人生に置いて、一生の友達を作る機会は高校・大学など。
それを経験してきた二人にとっては悩ましいところだった。
そして、碧純には使命を委ねた。
基氏を結婚しないオタクから、結婚するオタクへと更生させよと。
だが、それは大きな勘違いだった。
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