目に映るもの全てが本当なのか

@7a1syo

第1話


入学式が終わり、新入生を扇動するために配置されたアンドロイドが規則正しく乱れた列を正させる。決められた教室の決められた自席に決められた時間に座り、主にクラスの雑務をこなす先程とはまた違ったアンドロイドがクラスメイトにプリントを配布し始めた。そんな時、麗華は、隣に座る彼に目を引かれた。陶器のような白い肌、切れ長な目、さらさらとなびく焦げ茶色の髪、少女のように長いまつ毛、林檎のような色をした唇。

昔母に読み聞かせられ、今でも好んで読んでいる童話に登場するプリンセス。そう、まるで

「白雪姫みたい...」

思わず口から出てしまった言葉を耳にした彼は、麗華を鋭い眼光で睨みつける。

「お前、今なんて言った?白雪姫だと?」

上品で優しくてどんな生き物とも仲良くなれる白雪姫からどうしてそんな荒々しい言葉が出てくるんだと思ったが、彼の顔だけでなく全身に焦点を当てると、彼は有名私立学校の制服を着崩し、上履きのかかとを踏んでいた。それでも麗華は構わない。身体にまきつけた布なんかよりも、彼の身体にくっついている顔の方が大事なのだから。

「あなたの顔...と、とても綺麗だと思います!」

昔から可愛くて綺麗なもの、そう、例えるとするとリカちゃん人形、うさぎのぬいぐるみ、プリンセスが身に纏うドレスとかとにかく何でも可愛くて綺麗なものが好きな麗華は、彼にこうして声をかけてしまった。いつもは異性とのコミュニケーションなんて恥ずかしくて一切できない麗華なのだが、こんなにも美しいと思わず声をかけずにはいられなかったのだ。

彼は頬杖をついて私の様子を伺うよう、先程とは改めて麗華に視線を向ける。よく見ると、瞳にひまわりが咲いていた。ガラス玉にひまわりを一輪、綺麗に閉じ込めているようだ。瞳もまた美しいのだから、そんなものに見つめられていると意識した麗華は思わず頬を赤らめる。

「...俺、綺麗じゃないものは嫌いなんだけど。」

沈黙を破るように彼はこう言った。

麗華は思わず「私もそうなのっ。」と声をかけたが、帰ってきた言葉は決して嬉しいものではなかった。

「ならなんでお前らそんなに醜いんだ?」

「え...」

「頼むから、話しかけないで。」

艶を放つ少し厚めな唇からこぼれた言葉は、麗華にとってはとてもトゲのように感じられるものだったが、否定できるものでもなかったのだ。


麗華はタクシーに乗り帰路に着く。中学の頃からこうであったため慣れてはいるものの、通う場所は以前とは異なるので、本当は新しく目に映る景色に興奮し、窓の外の景色を眺めているはずだった。しかし麗華は、下を向いて手元を見るばかり。窓に反射した自分の顔は見たくない、と。


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