第2話 ドア

 夢中で追いかけていたら、何も無かっただだっ広い草原にドアがあった。いつのまにか目の前にあった。何という木かは知らないが、シールではなくてきっと重厚な木の板でできていて、濃い茶色にアンティークの様なくすんだ金色のドアノブと黒い蝶番が付いている。見渡しても何もないので、開ける。何も無い。


 そこは例えようがなく何も無く、上品な枠の中は真っ黒で塗りつぶされていた。恐る恐る手を伸ばせば枠の向こう側に入り、そこには空間があるらしい。全く何も見えない先に右足を伸ばし、枠を力いっぱい掴み、もう片足は土草を踏みしめ、慎重にドアの向こうの地面を探る。枠の段差のすぐ後に床がある。左足の感覚とは違う。木の様な感触だがたわまないし、固く脆い感じもする。一番の違和感は強めに踏みつけても音も立たず、壊れも変形もせずずっと下の方まで密度を感じるところだ。

きっとこの世界は作りかけで、この先のイベントはこれから追加されるのだろう。一歩引いてドアの逆側を覗くと、自分がさっきまでいた草原がそこにあるだけだ。


 正面に向き合い、延々続く草原よりは、作りかけの暗闇の方が面白いものがあるかもしれないとまた枠に手をかける。今度は片足の他に顔を出す。正面の先はただひたすら黒。右、左、同様。ならドアの後方は?と枠の淵から背後を覗く。何もない。

残念ながら本当にただの暗闇、手つかずの空間らしい。


 しかし十分に良い散歩が出来た。良い感じの眠気がやってきたので、最後にひと風浴びながら星でも見ようか、とドアから体をもどす。


 おや?違和感を感じで振り返れば、そこにあるのは先ほどまで立っていた平穏な自然ではなく、宇宙の最果てよりも真っ暗闇であった。




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『ㅤㅤㅤㅤㅤ』 @mikuzume

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