ボス戦、マガツカミ#呪木龍

「ここで会ったが百年目……呪木龍よ、覚悟しろ!」


●ボスキター!

●盛り上がってまいりました

●エルフも『ここで会ったが百年目』って言うんだw

●敵のドラゴンががすげぇリアル。実写みたい

●甘いな、リアルっぽく見えるがパーツの揺れ方などを見るに明らかにゲーム内負荷を想定した3Dモデルだ

●有識者が混じっている


 ゲーム用の3Dモデルを流用して配信しているので、リスナーからはそう見えているのだ。


「リアルっぽいが、これはゲームだ。人間共、そこを勘違いするなよ! 絶対ゲームだぞ!」


 イセルがわざとらしすぎる注意をしている。

 牙太は思わず苦笑してしまうが、たぶんローポリすぎて表情には反映されないだろう。


「さぁ、イセル! ボス戦だ! 溜めていた魔力を解放しろ!」

「わかった! 牙太、下がっていろ!」


●いきなり魔力解放とか出てきたけど、前作エルフリングでもあったシステムか?

●若干違うっぽい

●まだαテスト版らしいからな

●牙太ザッコw

●男なのに見てるだけ???

●カックカク社長情けなくて草

●イセル様最強! おにいちゃn……牙太もがんば~


「何か俺煽られている気がする……けど、さすがにザコモンスター以外とは戦えないからな……」


 外見が小中学生くらいのイセルに任せて、後ろで戦いを見るというのはかなり申し訳ない気持ちになるが、強さの差で仕方がない。

 たとえるのなら、クレーン車が鉄球でビルを破壊しているところに、ただのカラスが近寄っても何も意味がないのと一緒だ。


「牙太、大人気だな……ふふ」

「あ、やっぱりコメント欄で俺笑われてるのか!?」

「良い意味で緊張がほぐれた、行ってくる!」

「ああ、今度は後悔しないように全力でやってこい、エルフの姫様!」

「言われなくてもわかっている、人間!」


 イセルの身体から、膨大な魔力が迸っているのがわかる。

 秘書子からのこまめな連絡でわかったのだが、現在のチャンネル登録者数は50万→60万と増加しているらしい。

 同接もどんどん増え、配信が暖まってきているのだろう。

 それにともない、魔力が増加してきているようなのだ。


「呪木龍、覚悟ッ!!」


 成長してビルと同じくらいの大きさになった呪木龍を、イセルが大剣で横薙ぎに一撃。

 大金槌で壁を叩くような轟音。

 質量の差を無視して、呪木龍を派手に吹っ飛ぶ。

 その先にあった噴水が潰れて、豪快に水をまき散らしている。


「か、怪獣映画かよ……」


 前回とはパワーが段違いだ。

 牙太がVTuber事務所の社長を始めた当初は『配信で魔力を集めるとか信じられねぇ』と思っていたのだが、これを見てしまうとその凄まじさに圧倒されてしまう。

 詳しい理論は研究者にしかわからないが、微量の魔力ながら数十万人から収集すれば馬鹿にならない量になるということだろう。

 それこそ、天球世界にあった極大〝魔術〟など比ではない。

 下手をすれば、すでに失われたという、神々が行使する伝説の〝魔法〟の領域だろう。

 ――だが、相手も神であり、龍でもある。


「う、嘘だろ……」


 まがつ存在ではあるが、その神の名の通り、強大さを持ち合わせていた。


「あの一撃を食らって立ち上がるだと!? イセル、避け――」


 牙太の叫びも虚しく、呪木龍の巨大な尻尾が鞭のようにスイングされ、イセルの小さな身体を吹き飛ばした。


「イセル!?」


 地上に数度バウンドして、錐揉み回転――ようやく彼女の身体は跳ねるのを止めた。

 そして、信じられないことにむくりと立ち上がる。


「心配するな、牙太。痛くない」


●敵も強いけど、イセルちゃんもTUEEEEEEEEE!!!!

●さすイセ!!

●反撃だ! やっちゃえー!


「コメント欄のみんなもありがとう! その通り、反撃だ!」


 イセルは再び呪木龍に向かって走り出し、互いの攻撃をぶつけ始めた。

 さぞ、配信は熱気に包まれているのだろうと牙太は感じた。

 だが、同時に恐ろしくなった。

 たしかに立ち上がってきたイセルの表情は痛くはなさそうだった。


(それなのに……なんで鼻血を拭ってんだよ……)


 外傷はない。

 嫌な予感しかしない。

 脳裏に蘇ってくる、寿命を燃やして戦っているカソウシン#サラマンダーの存在。

 その力が強まれば強まるほど、寿命を燃やすのだろう。


(こんなの……呪木龍に殺されなくても、内側からサラマンダーに殺されちまうじゃねーかよ……)


 牙太は叫びたい衝動に駆られたが、これが配信に乗ったり、イセルの耳に入ったりすると戦いのジャマになってしまう。

 何もできない弱者なりに耐えるしかない。

 今の牙太は無力だ。

 夢を託した少女が死にゆくのを見守ることしかできない。

 無力でちっぽけな人間だ。


(チクショウ……!)


●忌々しき人の子よ。汝、憐れな姫と心中する覚悟はあるか?


「え?」


 牙太は我が目を疑った。

 サラマンダーの萬田くんが、牙太の前にやってきて、コメント欄を生み出して話しかけてきていたのだ。

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