戦闘開始
リスナーとの会話を終わらせた二人は、戦闘に意識を集中させる。
イセルは大剣を持っていない方の手を、閉じたり握ったりしている。
「以前見たVTuberの3Dと違って、指先までしっかりと動くな」
「最新のフルトラッキング技術だからな。イセルが、かなり大きな動きをしても問題ないはずだ」
「そうか……では、試させてもらう!」
イセルは魔力を足先に集め、それを蹴り放つようにして瞬時に高速移動をした。
アスファルトがひび割れる。
向かうは呪木龍が潜っている場所――モンスターである触手たちが蠢いている地点だ。
「お、おい! 俺を置いていくな!」
そう口では言ったものの、現状の牙太ではイセルの足元にも及ばない。
それをイセルもわかっているので、先にモンスターを倒してしまおうということなのだろう。
牙太は溜め息を吐きながら、イセルを追った。
「ザコどもめ! ジャマだ!」
どうやら、さっそくイセルは触手相手に無双をしているようだ。
大剣を横に大薙ぎすれば、炎を纏った軌跡がモンスターを消し炭にしていく。
鞭のようにしなる触手の攻撃を食らっても、魔力で弾いてあまりダメージを食らっていないようだ。
●イセルちゃんTUEEEE!!
●ゲームバランス大丈夫?
●イセルちゃん後ろ後ろ
●ヤバい後ろ
「後ろ?」
イセルはコメントで気が付き、背後を振り返ろうとした瞬間――複数の触手に絡め取られてしまった。
どうやら触手側も考えて、前面で派手に気を引いて、背面を狙っていたようだ。
「しまった……!!」
●今週のしまった頂きました
●姫騎士……触手……何も起きないはずがなく……
●触手がんばr……イセルちゃん頑張れ!!
「俺も忘れるなよ!」
追いついた牙太は右手の義手から剣を生み出し、イセルを拘束している触手を斬り裂いた。
触手はしぶとく生き残っているが、イセルから引き離すことに成功した。
●あーあ
●あーあ
●あーあ
●牙太空気読め
●社長さぁ……
●ほんまつっかえ
「……俺からはコメントが見えていないが、何かとてつもない敵意を感じる……」
「そうなのか? 人間共はなぜか残念がっているが……自分は助けられて嬉しいぞ」
●デレたああああああああ
●牙太死ねええええええええええええ
●モンスターさん、やっちゃってください(牙太だけ)
●デレイセル様もステキすぎる……
「牙太。とりあえず、触手を手早く倒そう。奴は――呪木龍は反応して出てくるはずだ」
「了解、イセル」
イセルが大振りの攻撃を放ち、それを牙太がカバーする。
いわゆるツーマンセルの形となっている。
それに対して触手は為す術もなく倒されていく。
汚染に関しても、なるべくイセルがトドメを刺しているので問題はない。
(サラマンダーの力は無理だが、素のイセルとスキル【同調】で繋がっているからある程度は動けるな……。これがサラマンダーの力も使えるようになれば……ん? サラマンダー……?)
牙太は違和感に気付いた。
戦っているイセルの姿が何か違うのだが、どこが違うというのがうまく指摘できない。
少し考えたあとに理解した。
ワイヤレスイヤホン型のマイクを操作して、配信に音が乗らないようにミュートで小さく声をかける。
「イセル、今、お前だけに話している。サラマンダーが出ているぞ……」
「ん? サラマンダーならいつもカソウシンとして身に纏って……」
「そうじゃない。動く立ち絵のときにペット枠としてデザインした、可愛いデフォルメのサラマンダーだ……!」
イセルの横に赤を基調としたトカゲのような小動物が浮いていた。
クリクリっとした目で、どこかボンヤリとした癒やしの雰囲気。
通称、
「何を言っている牙太? 配信だから普通にいてもおかしくは……いや、これは実際にいるのか!?」
「そうだ。俺からも見えているわけで、現実世界に出現している」
「どういうことなんだ……?」
「よくわからないが……。今のところイセルに問題がなければ、目の前の戦いに集中するしかない。なぜなら――」
触手を倒しきったタイミングで、地響きが起きた。
地面が隆起し、ギロリとした縦長瞳孔の巨眼が睨み付けてくる。
「本命が出てきたからな」
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