【重大発表告知】
牙太はいつものように、イセルの配信を防音室の近くからチェックしていた。
「こんくっころ~! 異世界からやってきた姫騎士エルフVTuberの森焼イセルだ! 今日もエルフの森のために配信するぞ~!」
●今日は元気なイセルちゃんだ
●うおおおおおお! こんくっころ~!!!!
●こんく
●こんくっころ~!
●こんにちは
●復ッ活ッ 森焼イセル復活ッッ 森焼イセル復活ッッ 森焼イセル復活ッッ 森焼イセル復活ッッ 森焼イセル復活ッッ 森焼イセル復活ッッ
●コメント欄盛り上がりすぎで草
「みんなも元気なようで何よりだ。さて……今日はタイトルの通り、重大発表告知があるぞ! 人間共よ、心して聞け!」
●人間共呼びきたー!
●人間共と言われるのクセになる
●イヤッホー! イセル様~! ステキィィィィー!
●ヤバい集団の中に紛れ込んでしまった……こんなところにいられるか! 俺は一人で部屋に籠もるぞ!
●死亡フラグ立ててる奴がいる
●重大発表告知って何だろう?
「今から三日後、特別配信を行う! 時間は……特別な機材が関わるので、少しズレるかもしれないが……」
●特別な機材?
●もしかして……! アレか!
●ついにキター!
「Twiitterで予想している者もいたが、森焼イセル3D披露だ!」
●3D化早すぎて草
●重大発表告知って言ったらオリ曲、3D、案件、ライブとかだもんなぁ
●元々3Dも作ってあったのかね?
「そして、それとは別の重大発表もあるのだが……コメントで当てている者がいるな」
●マ?
●おいおいおい、もしかして
●3D以外もあるの?w
「大手ゲーム会社のホロムソフトウェアさんとのコラボだ! しかも、最新のAR技術を使って、ゲーム中の体感型バトル配信だけではなく、ライブのようなものをするかもしれない! そこでオリ曲……は〝間に合ったら〟だが、披露……するのか? 本当に? なぁ、牙太……」
●不安になって社長を呼ぶの可愛い
●世界に羽ばたくホロムソフトウァアとコラボすげえええええ!!
●ホロムのファンだから嬉しいです
●あの超リアルで、実際に異世界に行ってきたかのようなゲームを作るメーカーか
●ライブ! オリ曲! 楽しみだよイセルちゃん!
●オリ曲、また音痴……じゃなくて、和む歌が聴けるのかw
●おい、イセル様の可愛い歌は味があるだけだ!! ○すぞ!!
●ARってことは、実際にどこか外で配信するの?
「ARはどこかで配信する予定だが、異世界の事情により場所はまだ伏せられている。そこは了承してくれ」
●出た、異世界ロールプレイ
●異世界発言を聴かないと今日一日やる気が出ないわ~
●でも、飽きてきた。どうせ次も期待外れなんでしょ?
この放送後、チャンネル登録者数が50万人を超えた。
新人VTuberが一週間程度で出せる数字ではないが、それでも登録者数のペースは落ちてきた雰囲気だ。
***
イセルの配信が終わり、牙太は一息吐いていた。
「すごい勢いで色々と決まったな……」
横で仕事をする秘書子が、いつもの平坦な口調で答えた。
「世界の命運がかかっていますから」
牙太は目覚めてから今までのことを思い出していた。
まずは右腕のことだ。
呪木龍の尻尾の一撃でミンチとなってしまって、右腕は完全に失われた状態となっていた。
しかも、呪いとやらで生命自体も危険だった。
そのためにイセル故郷の国宝である〝超高純度オリハルコン〟というものを使った義手を触媒として呪いを抑えている……という話だった。
(これ、どう見ても普通の右腕だよな……)
義手のはずだが、以前と何ら代わりのない右腕がくっついていた。
いや、くっついているという違和感すらない。
傷痕もないので、どこからが元の右腕かもわからないのだ。
つねると痛いので痛覚もあるし、あやとりも器用に……それは元から出来ないので出来ない。
というわけで、何かのドッキリで『右腕はミンチになっていなかったのでは?』と思ってしまうほどだ。
しかし、義手だと意識して念じると不思議なことが起こる。
白銀色の金属へと姿を変えるのだ。
剣が欲しいと念じると、牙太が愛用していた古い剣が右腕から溶け出るように出現する。
右腕自身の体積と重量は変化していないので、質量保存の法則も何もあったものではない。
一通り試してみたのだが、普段扱っている物程度しか出すことができない。
たとえば巨大なビルを出そうとしても、ディティールの少ない立方体が出てきて、ある程度の大きさで止まる。
カラオケで便利そうなマイクを作ろうとしても、正直構造もわからないし、マイクの形をしたただの鈍器が出てきて終了だ。
こういう特殊なことをすると魔力消費があって疲れるので、普段はただの右腕として使うことにした。
(まぁ、俺のことはどうでもいい。それよりも放置されている呪木龍のことだ)
この前の戦いで、呪木龍は地中へ潜ってしまった。
天球世界のデータによると、その状況で数日間は地中に潜伏するらしい。
常識的に考えればこの状態は攻撃のチャンス……と思うかもしれないが、地中という地形は敵の十八番なのだ。
逆に引きずり込まれて返り討ちにされるリスクも高い。
それに――
(現状、イセルの渾身の一撃で傷一つ付けられなかった……)
このまま戦いを挑んでも敗北する可能性しかない。
そこで、この三日に全てを懸けることにしたのだ。
3D、案件、ライブ、オリジナル曲、VTuberの活動で集められるだけの魔力を集め、呪木龍を討伐する作戦だ。
失敗してカクリヨから現実へ解き放たれてしまえば、呪木龍の呪いが花粉のように四散して、地球すべてが呪われてしまうことすらあるという。
ゆえに、下手に避難などをして不安を煽って配信に影響のあることをしてしまう方が地球の破滅に繋がるので、いつも通りにやっている。
ただし、裏側としては政府の息がかかったスタッフたちが死ぬほど働いている。
案件のホロムソフトウェアというのも、政府協力のゲーム会社だ。
リアルなファンタジー表現で有名だが、実際に異世界へ取材をしに行っている。
当日披露されるARゲームというのも嘘っぱちで、最先端の開発中軍用ARをゲームと言い張っているだけだ。
「今日も配信終わったぞ、牙太」
イセルが配信の後片付けを終えて防音室から出て来ると、元気そうな牙太を見つけてパタパタと早足で寄ってきた。
牙太はいつも通りに言葉をかける。
「おう、お疲れ様だ」
「……足りない」
「え? 俺、何か言い忘れたか……?」
「名前も一緒に呼べ」
「えーっと……。お疲れ様、イセル……でいいのか?」
「うん、それでいい」
よくわからないが、なぜかイセルは満足そうだ。
「牙太、腕は痛くなったりしていないか? どこか違和感はないか?」
「それは秘書子くんにも言われたな」
「秘書子にも……」
イセルは近くの席で仕事をしている秘書子をジッと見詰めてから、少しだけふくれっ面をしていた。
「なんか変だぞ、イセル?」
「いつも変な人間に言われたくはない」
「お、俺って変なのか?」
「そうだ。変だ。こんな自分を命がけで助けて、片腕を失って得体の知れない義手を付けられたのに、怒らずに普段通りだ」
「こんな自分って……イセルは大切な……VTuberだろう」
「そこは『俺の大切なVTuber』と言い切れ」
「いや、リスナーの方々に失礼だし……」
「やっぱり、牙太は変じゃないか。でも…………ありがとう」
イセルの『ありがとう』が限りなく小声だったのだがギリギリ聞き取れた。
それが面白くてつい擦ってしまう。
「えっ、なんだって? もう一回よろしく!」
「う、うるさい! 二度と言うか! 人間風情が!!」
「ははは、すまんすまん。ところでイセル、
「……は? き、きききき牙太の実家へ?」
イセルは間の抜けた声をあげたあと、赤面して固まってしまった。
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