エイコ
エイコは、同じクラスのナルキに恋をしていた。
ナルキはクラスで一番、いや、エイコの通う中学校でもダントツで一番のイケメンだ。バレンタインデーでは、一人では到底食べきれないほどのチョコレートを女の子から貰っていた。
それにひきかえ、エイコは自分でもわかっているが残念な顔のつくりだ。女の子は、自分は中の上だと自己評価するケースが多いと言うが、エイコの自己評価は下の中だ。ストレートに表現すればブスという言葉になる。
でも、そんなエイコにも自慢できることがあった。歌がとても上手なのだ。小学生の時に町内会ののど自慢大会で優勝したこともある。小さいころのエイコの夢はアイドルになることだったが、中学生になった今は、アイドルにはかわいい子しかなれないという現実を理解していた。
だが、動画投稿サービスが、エイコに希望を与えた。マスクをかぶったり、後姿で顔を映さずに歌う動画が流行っていたのだ。エイコも試しに夏祭りで買ったお面をかぶって歌う動画を投稿すると、あっという間にアクセス数が伸びた。コメント欄にも、エイコの歌のうまさを絶賛するコメントが溢れるようになった。エイコはカバーした曲だけでなく、自分で作詞作曲した歌も作って、動画をアップするようになった。
ある日、ヘラーという芸能事務所から、ぜひスカウトしたいというメッセージが届いた。エイコはヘラーからの依頼通り、ちゃんと自分の顔を撮影して歌った動画をヘラーに送ったが、ヘラーからは返事は来なかった。何度も問い合わせると、ヘラーから『このたびはご縁がありませんでした』という回答がきた。
やがて、ヘラーが新人アーティストが売り出すと、その歌はエイコの作った歌と酷似していた。エイコがヘラーに抗議すると、ヘラーの弁護士から『完全なオリジナル曲であり、逆にエイコの著作権侵害のおそれがあり、動画をすべて削除しないと法的手段に訴える』という脅しを受けた。
最初は怒り、やがて、絶望したエイコは、アップした動画を全て削除し、歌うのを止めた。
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