不覚の傷跡

 その日、私はいつものように昼食の買い出しに出ていた。

 唯一違ったのは、近所のスーパーが定休日だったことを理由に、交通手段が徒歩から自転車に変わったことだった。

 目的地は他のスーパーと違い、本屋や服屋に雑貨屋などのテナントが入る、所謂ショッピングモールと呼ばれる場所だ。

 さて、早速本題だが、私の家から目的地のショッピングモールまでの道のりには一つの神社がある。

 当然神社の敷地内にコンクリートやアスファルトで舗装された道は無い。精々一部が石畳で出来ている程度のもの。

 そこを自転車で通り抜けるというのだから、足元には充分に注意する必要があるのだろう。

 しかし、私はその注意を怠ってしまった。

 私の愛用している自転車はマウンテンバイクと呼ばれる。山道を走ることも出来るクッション性に富んだものだ。足場の悪い道こそ得意分野であり、余程のことが無い限り転倒なぞしないであろう。

 と。私は思いこんでしまっていた。

 事が起きたのは神社の敷地内にある簡素な駐車場を通る時だった。

 すぐ先の坂道に備え、スピードを落とそうとブレーキに手をかけた瞬間。タイヤが大きく左に流れていった。

 それはスリップと呼ばれる現象。前輪が急激に横移動をした影響で私の身体は自転車ごと右に倒れ、勢いのまま地面に手足を擦り付けた。

 久しく感じていなかった外傷による痛みに耐えながら立ち上がる。

 傷を負ったのは手のひら・肘・膝下の三か所か。

 幸いというべきか、手をついて軽い受け身を取ることが出来たため、再度自転車を走らせるには苦労しなかった。

 ともあれ無事(これを無事と呼んでいいかは聊か疑問だが)に目的地に到着したわけだが。

 流石に怪我を放置するわけにもいかず、店内にある薬局でバンド〇ードを購入。

 本来であれば適当な野菜と肉の類を買って帰るはずだったが、傷の処置もある。今日はどこかで食べて帰ろう。と決めた。

 忘れてはいけないのが傷口の清潔化だ。当然飲食店に入る前に手洗い場でしっかり細かい砂などは洗い流している。

 あとは購入したバン〇エードを貼り付けるだけなのだが、これがまた難しい。

 怪我をしたのは利き手である右。とすれば左手で張り付けることになるのは自然な流れだ。

 そして私はお世辞にも手先が器用とは言い難い。

 結論。生まれたのは飲食店内で手をプルプル震わせながらグロテスクな傷口を見つめるやべぇ奴である。

 その後は出来るだけ隅の席で処置を終わらせたが、食事中に見えてしまった人が居たら申し訳ないなと。僅かな罪悪感と戦いながら食事を済ませて帰路に就いた。

 帰る途中。もしかしたら今日の怪我は神社の敷地を自転車で走るんじゃないぞという神様のお告げなのではないだろうかと考えた私は、なんとなく歩いてみることにした。

 しばらくは自転車に乗るのも億劫になりそうだ。

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雪村遥人のエッセイ集 水咲雪子 @Yukimura_Haruto

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