自殺という大罪

 今朝、電車がとまった。

 私が乗るはずだった車両が通る何処かの駅で事故があったらしい。

 予定より30分程遅れての通学になったが、普段誰よりも早く登校していた私にとってはそう大きな影響はなかった。ただ毎日の楽しみであった静かな教室での読書が出来なくなったことは心残りだった。

 私が教室に入った時、クラスの話題は遅延の原因で持ち切りだった。

 ある男が「絶対に自殺だ」と言い張ると、別の男が「そんなの現実的じゃない。どうせ落とし物か何かだろう」と。うちのクラスだけじゃない。他のクラスもこういった話題は尽きないらしい。

「なぁ。お前はどう思う?」

 席に着くと同時に、隣の席の――圭太(仮名)としておこう――が話しかけてきた。

「どうって……何が?」

「そりゃあ今朝の自殺だよ。どうやら間違いないみたいだぜ?」

「さぁ。大して興味もないし……強いて言うなら、自殺の理由くらいは知りたいかな」

 私がそういうと、圭太は待ってましたと言わんばかりにスマホを取り出した。

「お前って冷たいように見えて実は優しいよな。普通は『電車に飛び込むなんて迷惑な奴だ』っておもうものだぜ?」

「……」

 確かにその通りだ。飛び込み自殺は交通機関を麻痺させ、多くの人々を巻き込む最悪の行動だ。現に大事な会議に遅刻したりと迷惑を被った人はいただろう。だが、私はどうもその人を責める気にはなれなかった。

 私は自分のことを優しい人間だとおもったことは一度もない。寧ろ冷たい部類に入ると考えている。

「お!あったあった。これ見ろよ」

 圭太のスマホにはついさっきできたばかりであろう記事が書かれていた。

 飛び込んだのは20代の女性。原因はセクハラとパワハラ……か。

 よくこんな短時間で記事ができるものだ。

「これはひでぇな。流石に同情するわ」

「悪いのは自殺じゃない」

「解ってるって。お前はそういうやつだよ」


「自殺するってどんな気分なんだろうな」

 少し経って一時間目が終わった頃に。圭太はひとりごとをつぶやくように、私の目をまっすぐ見てそう言った。


「さぁ。生存本能が働かなくなるほどの苦痛だ。私たちが想像できる最悪なんて比較にもならないほど辛いと思うぞ」

 また少し経って二時間目が終わった頃に。私は彼の目を見てつぶやいた。

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