幼き日の引っ越し
あれは確か四歳の頃だったと思う。引っ越しをするにあたって、父方の祖父母との同居が決まり、当時祖父母と叔父が暮していた家を建て直すことになっていた。
家を建てている最中、何度か中を見に行ける機会があったらしいが、私が行ったのはその日だけだったと思う。
その日は二階を見に行った。子供の目にはどうやって安定しているのかもわからない板製の階段を上り、リビングに入る。当時住んでいたアパートがそのまま収まりそうな広いリビングを見たときはかなり驚いたものだ。
作業中に入らせてもらっているだけあってかなり散らかっていたが、そんなことは気にも留めなかった。
周囲を見渡すと、西側にキッチン。東側に子供部屋へ続く通路が見える。当然子供がキッチンに興味を示すはずもなく、私は吸い寄せられるように子供部屋へ向かった。
リビングと子供部屋をつなぐ扉を開けて奥に目をやると左右に二つの扉が見える。今更だが私には妹が一人居る。二人ともに個室があるのは非常にうれしかった。
残念ながらそのときはまだ部屋が完成しておらず、それ以上見ることは叶わなかった。
事件は帰宅した後のことだ。
一通り見て回った私たちは各々感想を言い合った。言い合ったと言っても会議のようなまじめなものではなく、何がよかったかなど雑談を交える程度だったのだが、私の発言が両親とかみ合わなかった。
「リビングから自分の部屋に行くのにドア二つもあるの何でなんだろうね」
そういった私に対して母と父はこう言った。
「ドアなんてあった?」
「そんなのなかったぞ」
おかしい。
「おばあちゃんも見てないなぁ」
と、誰に聞いても「見ていない」の一言だった。
それから何年か経って、オカルト好きの友人にこの話をすると「扉は潜らなかったか」と聞かれた。
確か扉を開けた後は奥を見ただけで潜ってはいなかったはずだ。
理由を問うと、一つの都市伝説を教えてくれた。
それは冥府の門と呼ばれているらしい。なんとも厨二的な名前だ。
冥府の門とは、本来扉などあるはずがない場所に突然現れ、潜った人間を冥界に落としてしまうものらしい。
正直その友人以外からそんな話は聞いたことが無いし、信憑性などまるでないのだが、確かに考えてみれば子供部屋にも扉があるのに、短い通路にまで扉をつける理由は無いはずだ。
もしあの時、あの扉を潜っていたら……私はどうなっていたのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます