ある学生の嗜好
これは私が中学生だった頃の話だ。
当時、私はかなりの早起きであった。かなり、と称するには日が昇りすぎている気もしないではないが、少なくとも私より先に登校している生徒は無かった。
時刻は7時45分。それが私が学校に足を踏み入れる時間だ。
教室の前に職員室へ向かう。一番に登校した生徒は教室のカギを取りに行く必要があるのが理由だ。
カギを片手に渡り廊下を抜け、北校舎に入った。他に誰もいない校舎では小さな足音一つでもコツコツとよく響く。この音が心地よい。
そうそう。音と言うならカギを刺す瞬間を忘れてはならない。カギが開くガチャリという金属音が廊下全体に響き渡るのは気分が高揚する。静かだからこそ聞こえる音はどうしてこうも心を和ませるのか。
教室に入ると、窓際にある自分の席に座って鞄を漁る。
中から一冊の本を取り出すと、目印のしおりを取って読み進める。当然窓は開けている。
まだ太陽の恩恵を十分に受けていない外気は夜風と交じり合い、心地よい風を生み出していた。
これだ。この涼しい風を受けながら、誰もいない静かな教室でする読書がこの上なく好ましい。
この時間を過ごすためだけに私は学校に来ていると言っても過言ではないだろう。
なんせ私には特別仲のいい友人も居なければ、好きな教科などただの一つもないのだから。
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