第3話町の学校
猟師小屋に戻ると、ダヤンが飛び出ていきなり抱きしめる。
「どこに行っていた、二年間も、毎日山を探し回ったぞ、ハザン!!!」
どうやら相当心配させていたらしい。涙を流して力強く抱きしめ続ける。
「お父さん、ごめんなさい。魔女に捕まってしまって、帰れなかったから」
「そうか、身体は無事か、魔女はどうした、何をされた?」
「薬の実験にされていた、隙を見て、逃げ出してきた。体は大丈夫」
嘘をついて気分が悪いが、そう言い訳をするしかなかった。
こんな人のいいダナンを騙すなんて、人でなしのようで記憶と経験値を取り戻すためとはいえ魔女を殺してきたのだから。でもそうしないとダヤンかアリアのどちらかを殺すしか、腹の刻印を消す方法がなかった。
「つらかったな、ゆっくりしろ、何か取って来てやる」
ダヤンは狩りに行ってしまう。小屋に入り、背負い籠の中にある、剣と鉈と、弓矢と薬の小瓶を出して、この黒い眼は薬草学の魔女薬で隠せる。これを見られたら不味いことになる。辺境だからこそ奇異の目で見られて、テファリーザ王国の王子だと見当がついてしまうだろう。当主達の記憶で、魔術の本で勉強した限り、魔術は科学に近いものがあり、何代か当主に古代魔術の研究者がいた事実がある。あの魔女の外道の本がなくとも、十分に上回っていた。
藁帽子や藁で作る手提げ鞄、藁で作る人形など、繊細なつくりで作っていく。藁籠も技量が上がって、民芸品の様な物を作る。ダヤンが帰って来て驚くが、苦労したのだろうと肩を叩き慰められた。夜は兎を狩って来たので調理して鍋にした。
「料理も上手くなったな、明日村長の所に行こう。アリアも心配していたぞ」
「魔女と一緒に働かされていたからね、色々教えてもらったよ」
「ふうん、変わり者の魔女もいるものだ。お前が無事帰って来てくれたことが嬉しい。今日は早く寝ろ、また藁で作った物を売りに行こう」
嬉しそうに鍋を食べ終わって、毛皮の上に横になるダヤン。
横に寝て、獣脂のろうそくを吹き消す。
今までの二年間が重く感じられた。アリアはどんな顔をするだろう。泣きそうな彼女の顔が思い浮かんで眠りについた。朝になり、陶器にためた水で顔を洗い、干し肉を削ってスープを作り、残りのパンで食事を取る。ダヤンは料理が上手くなったことを特に嬉しがり、今までの二年間でお金を貯めていたことを話す。とても嬉しくもあり
村に着くと、敷物を敷いて、新しく作った物を並べる。村人は驚いてこちらに寄ってくる。
「ハザン、行方不明じゃなかったのか、ダヤンがとても心配していたぞ」
「俺達も探したが見つからなかった。どこで生きていた」
「魔女の家で二年間捕まって働かされて逃げてきました。どうにか、生き延びて帰ってきました、心配かけてすみません。新しく藁籠作ったので、見て行って下さい」
「魔女に捕まっていたのか、後で村長の家に顔を出して置けよ、アリアが心配していたぞ」
村人と子供が寄って来て、物珍し気に作った物を見て行く。
「腕を上げたな、とにかく無事でよかった。この藁帽子くれ」
「この細工の良い鞄もちょうだい」
「この人形生きているみたい。これもちょうだい」
とにかく全部売れてしまう。敷物を片づけていると、ダヤンが村長の家に行こうと誘って来る。村長の家に行き会うととても心配された。アリアも泣きそうな顔をして抱き着いてくる。「心配したのよ、ハザン。とてもとても、いつも泣いていたわ」
十四歳になり女らしくなっている彼女を見て時の流れを感じていた。
「また勉強教えてね、今日は泊っていくといいわ」
「アリアありがとう、これ藁で作った人形、こんな物しかないけど」
「ありがとう、いい出来ね。可愛い作りしている。町でも売れそう」
「ハザン、お前のお陰でアリアは町の学校に通っている。成績も優秀だ。お前も明日から通いなさい。お金はダヤンから受け取っている。お前がいつでも帰って来てもいいように、準備をしていた」
「お父さん、ありがとう。こんなに心配かけたのに」
「お前が戻ってくれただけでもいいことだ。明日から学校に通いなさい。俺の息子」
涙が出てきて止まらなかった。必ずこの恩は報いようと心に決めた。
ハンカチを出してくるアリアに礼を言って涙をぬぐう。
「この二年間苦労したのだろう、しばらく休みなさい。アリアお茶を入れておあげ」
「はい、ハザン明日からずっと一緒ね」
アリアは二年前より成長して、心も剣の腕も上がっているみたいだった。容姿も可愛らしいから、意志のしっかりとした瞳をするようになった。アリアの部屋でお茶を飲み、クッキーを食べ、二年間のことはあまり喋らなかった。古いぬいぐるみが飾ってあったので、道具を借りて修繕して新品同然にするととても嬉しがられた。後は学校のこと、同級生のこと、剣で男子を打ち勝っていることなど色々喋って時間が過ぎて行った。
村長の家で食事と風呂に入り、さっぱりして、ダヤンは猟師小屋に帰っていった。空きの寝室を借りて寝てしまうと、朝早く起きて、朝食の準備を手伝う。手際よく切り込みスープを作り盛り付けると、夫人に驚かれて、「私より上手いわね、アリアにも教えてね」とハーブティーを機嫌よく入れている。アリアが起きて来て、朝食を見ると動揺していた。
「ハザンに習いなさい、剣ばかり振ってないで、勉強も頑張ってね」
「ハザンの方が何でも上手いのはわかっているわ。ぬいぐるみも新品同然に直してくれるし、また何でも教えてね」
頷き朝食を食べて学校の町まで徒歩で通う。二時間くらい歩いて町の区画まで来ると、生徒が登校している。「お金持ちは馬車で来るけど、私達も負けないくらい勉強しましょう」
学内に入り、ハザンを教員に紹介して、アリアは自分のクラスに歩いて行った。
担任の先生は、「この学校は真面目な生徒ばかりですよ。あなたは二年間行方不明だったとかついて行けるかしら」神経質そうな眼鏡をかけた女教師が公用語で喋る。
綺麗な公用語で「頑張ります、先生。ついでに働けると助かるのですが」と返す。
「あら、喋れるのね、珍しい。大国の公用語をこんなきれいな発音で、アリアが推薦していただけのことはあるわ」と感心される。
「一年分の授業料は受け取ってあります。働き口が欲しいなら、まず授業を受けなさい」
「わかりました。何か手に職がつかないか探してみます」
「いいでしょう、アリアのクラスに紹介します。頑張りなさい」
教室まで歩いて行き中に入ると、黒板に名前を書いて紹介される。
「ハザンです。剣と弓矢が得意です。よろしくお願いします」
顔は綺麗な方なので女子生徒には好評のようだ。男には何か因縁をつけられそうになっている。ちょうど初めは剣の授業だった。騎士の先生が剣の握り方から教えてくれる。
ちょうど気に入らなかったらしい男子生徒が因縁をつけて来て相対する。気づいた時は相手の剣より先に、首筋に剣を突き付けている。刃の潰れた剣とは言え、その重量は重い。速すぎて見えないくらいである。軽々と振って、相手を追い詰める。手加減しているとはいえ、これからのことを考えると、これくらいで十分だった。
騎士の先生も褒めてくれて、騎士の見所があると弓矢の腕前も見せてくれと頼まれる。射撃場で、遠くの的を正確に射貫くと、成績は優秀だなと猟師の息子だけはあると、「これくらい練習しろよ」と授業は終わりになる。男子生徒は剣を握り悔しそうにしている。一人騎士身分の息子のカイルが友達になろうと手を出してくる。遠慮なく握り返し、何とか友達を作る所から始められる。席は隣で、授業でわからないところはなく、公用語での授業にもついて行けた。
放課後、働くところを探していると相談する、藁で藁籠を作っていたことを話すと、雑貨店を紹介され、働くことになった。雇ってくれた女主人に藁を渡されると、器用に鞄を作るので、きちんとした材料を渡され、
アリスが褒めていたので人形を作ると「まるで生きているみたいだね」と正式に雇われることになった。特に鞄や帽子、人形など作り続けて人気が出ると常連客を増やして、喜んで賃金を上げてもらった。村から通っている間、作りためて店に卸していた。自分で授業料も支払えるようになってほっとしていた。ダヤンはそのことを自分の様に喜んでいた。
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