第2話魔女殺し
次の日からダナンが、弓矢を教えてくれることになった。森で籠の材料を集めていると狼に遭遇した。突然襲いかかってくるので、剣の要領で側面に回り込み、首筋を鉈で断ち切った、半分ぐらい鉈が食い込み、狼は絶命する。血だらけだったが、ダナンの所に引きずって帰ると、びっくりされて、褒められた。
「六歳児で、狼も狩るのか、毛皮にしてやる。腕も立つのか、増々いい子だな」
内臓、肉塊を取り捨てて、罠の餌になる。皮をなめして毛皮を板に張り付けて乾燥させる。その間弓矢を森の材料から器用に作り出し、弦を張り、矢羽を作って、原始的なコンポジットボウを完成させる。練習用らしい。木に釘で板を張り付け、石で三重丸に削る。試しに引いてみると、子供の力でも大丈夫だ。中央部に突き刺さる。
「ハザン、才能あるなあ、この調子で頑張れ」
日常に弓矢の練習が加わった。藁を編みつつ、本で公用語をそらんじて、ダナンにも教えつつ、弓矢で木陰に隠れて鹿の頭部を狙い撃ちにして、仕留めたりもした。大物を狩って来るとダナンはまた喜び、村に籠と一緒に売りに行った。また三年が経つと、村の道具屋で、籠を売ったお金で弓矢と鉈を買い、練習に明け暮れた。同い年の村長の娘アリアとは仲良くなり、村の子供達ともよく遊ぶようになった。文字や数字、絵など、簡単な計算など教えて、村の子供の年長者から重宝がられていた。よく女の子から抱き着かれていた。籠も六年触っていて、編み込んで丈夫にしていくと、売れて村人に感謝される。
村長も良くできた子だ、と感心して本を貸してくれるようになり、その代り娘に読み書きを教えてくれと頼まれるようになった。アリアは頭が良く教えるものを残らず吸収していった。他の子供達にも読み書きを教え、たまに大人の村人も混ざることもあった。ダナンもいつも口ずさみ根気よく教え続けて、読み書きができるようになっていた。
「ハザン、お前のお陰で本まで読めるようになった。村人も喜んでいる。いい猟師になれるが、もったいない。町の学校へ行け。アリアも上達して絵まで書けるようになったと、村長も自慢していたぞ」
「お父さん、森の魔女はどこにいるの?」
「ん、あいつには関わるな、魔女の子供かと思ったが違うらしい。お前は拾った子だが、俺の息子だ、ハザン魔女とは関わるなよ」
「はい、お父さん、魔女は怖いの?」
「魔術を使って来る。危ない存在だ。絶対近寄るなよ、殺されるぞ」
「魔術というのは、炎を生み出し妖しい術を使うの?」
「俺もよく知らないが、危険なものらしい。望んで近づくものなどいないぞ」
ダナンはそのまま狩りに出る。籠を編み込んで手早く作っていく。新品の弓矢を板に連射して、練習する。鉈で巻き割りをして、積み上げていく。煮炊き用の材料を作っていく。冬には狼の毛皮が役に立った。狼の毛皮を身に着け、弓矢で狩りをして元々の経験値で底上げされている腕で、獲物を仕留めていた。
魔女の情報はこの猟師小屋から、落ちて来た滝方面の上の森に住居を構えているらしい。近づくにはまだ不安が残る。更に弓矢や、村の引退した兵士のお爺さんが、弟子を取って剣を教えていたので、ダナンに許可を取り、教えを乞うようになった。アリア達も一緒で、剣術はしっかり何十年も鍛錬してきたので、簡単には誰にも負けない。元兵士のお爺さんも、びっくりして、ダナンに騎士の道を歩ませないかと相談していた。子供の年長者にも刃の潰れた剣で相手をして教え込んでいった。アリアも剣を持ち、一緒に上達していった。
辺境の平和な村で、読み書きと剣、弓矢も教え、籠を作り売りに出してまた三年が経った。十二歳になり、ダナンも猟師を続けていたが、町の学校にハザンを通わせるために、お金を貯めていた。もう一人前の猟師と剣の使い手になり、籠は九年続けて、背負い籠を作り、農作業の役に立っていた。元兵士のお爺さんも教えることはもうないと、卒業に現役時代使っていた剣をもらい受けた。そろそろ、魔女の家に行く頃合いである。
朝、背負い籠に剣と弓矢、鉈と食料と水筒を入れて、山を登り始めた。森は深く滝はごうごうと流れ、その上を見上げる。十二年前落ちてきた場所である。崖を迂回して森に入り、滝の上に登る。肥沃な大森林が広がっている。高い木の上に登ると、遠くで煙が上がっている。おそらく魔女の家だろう。森を飛ぶように進んでいくと、大木の中に木の家が建ててある。煙突から煙がでている。昼食時らしい。塩漬け肉とパンを食べて水を飲み、そこらの木の上に登る。観察しようと思ったのだ。窓に魔女の姿が映る。老婆の姿で、何か大鍋に煮込んでいる。
弓矢で狙うが、殺してしまっては仕方がない。腹の刻印を解いてもらうまで生かしておかなければならない。森の毒草で作った神経毒を塗った矢で、テラスでお茶を飲む魔女に放つ。肩に突き刺さり、しばらくすると動かなくなる。慎重に近づき室内を物色する。動物の頭蓋骨や薬草の干したもの、薬師の道具もある。テラスに出ると魔女が倒れているので、縄で縛ると、身体に何か隠していないか探る。薬の小瓶が幾つかと、長い杖が立てかけてある。
魔女は憎らしくこちらを見ている。神経毒は体を回り動けない。その間家屋を探し回り、何かないか引き出しをひっくり返す。
十二年前のことを見てみると、施した呪術のことが詳しく乗っている。解除方法は最も親しい者の血が必要らしい。縛った魔女を剣で脅すと、黙らず叫ぶようにうなり声をあげる。生かしておく必要はなくなった。殺してしまおうと思うが、日が陰ったと思うと、後ろを向くと、体長五メートルのグリズリーが立ちすくんで唸り声をあげている。家屋の中に逃げ込み、弓矢を構える。
グリズリーは家屋の扉を壊して、食いちぎろうと突進してくる。矢は左目に命中して、神経毒が回り始める、魔女に使役されているのか、異常に大きく毒にも鈍い。唸り声をあげて、苦しんでいるが、こちらの右腕に噛みつこうとしてくる。習い修練してきた剣で首筋を切るが、分厚い脂肪で通らない。暴れ回るのを鉈で額をかち割り、ようやく動きを止める。地響きを立て崩れ去る。魔女は苦しみに顔を歪めている。
羊皮紙にインクで質問を書き込み、魔女に見せて頷かせる。剣で片腕を切り裂き、恐怖で縛る。時間をかけて尋問していくと、テファリーザ王国代々の魔術に興味があり、実験材料に使っただけと返事が来た。赤ん坊には用がないから捨てたという話だった。怒りがわいたが、最も親しい者の血はどの程度だと聞くと、人一人分だと頷く。呪いの刻印だった。他に方法はないのか書くと、引きつり笑いながら無いと頷く。毒が回り過ぎたのだろうか、気絶してしまった。最も親しいものは、今の所、ダナンかアリアだ。この魔女の血は解呪に使えないかと考えると、また家探しをする。難解な魔術書を読み解いていると夜になる。
魔女を寝台に縛り付け、動けなくして、寝ることにする。杖は壊して捨ててしまった。朝になり、食事を取り、魔女を介抱する。最も親しい者ならたくさんいる。魔女を介抱しながら、その一人にすることにした。それから、お湯を沸かし、体を拭いて、
「お婆さん、僕はあんたに殺されかけた。恨みははっきり覚えている。でも、その命で許そう。あんたは僕に呪いをかけた。それは解かなければならない。最も親しい人となって苦しまず死んで行け、さあ、山鳥のスープだ、暖かいうちにお食べ」
「悪魔だね、あんた、この
「一年でも二年でも待つさ、元々はあんたがやり始めた、最後まで付き合ってもらうぞ」一年が過ぎ二年が過ぎ、ダナンから習い覚えた技術で、生活をしながら藁を編み、魔術の本や実験道具で、魔女に薬を試していた。順調に回復していき、やせた老婆が肥えて来た所で、「もうすぐ、お前は最も親しい者になる。この二年献身的に世話してきたからね」
「殺さないでおくれ、反省している。まだ世界にはこの刻印を解く方法があるかもしれない」
「いや、もう決めたことだ。二年も費やしてしまった。その血で呪いを解いてもらうぞ」
いきなり剣で首を切り裂く、血が壁まで飛び、血を全身に浴びる。腹の刻印が消えていき、代々続いた当主の記憶が戻る。同時に黒い眼も戻るが、魔術の本で勉強した、薬草学で作った魔女薬を飲んで消えていく。魔女は散々悪態をついていたが、最後まで抵抗していた。
我慢強くつき合い、献身的に世話をして親しくなってきた。泣き出す夜は寄り添ってやり、魔術の話は外道の技を学びながら心底つき合って来た。この二年呪いが解けると思えば軽いものだった。魔女の死体ごと、魔女の大木の家に火をつけて燃やしながら、背負い籠に道具を入れて、ダヤンの所に帰る日が来た。記憶は戻り、代々のテファリーザ王国の当主の記憶と経験値を得ていつの間にか人外になっていた。歳は十四歳になっていた。
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