第4話ダヤンの死

 猟師小屋から、学校に通い、授業を受けて雑貨店で働く日常が続いていた。ダヤンはその間にも狩りに行きそれを調理して学校のことを話しこんでいた。顔が綺麗なせいか貴族身分の女子生徒に受けが良かった。カイルは自分のことのように悔しがり、場を明るくして、良く笑わせてくれた。アリアは不満がり、学校にはつかず離れずの距離を保っていた。

「僕はハザンが気に入っている。剣の腕前も弓矢も、学業や雑貨も一流だ」

「また、カイルが自慢しているよ。正直すごいと思うけどな」

「ははは、いい親友だな、カイル」 

 カイルは見た目優男だが、剣の腕は親譲りの腕前だった。明るく強く、努力家で前向きだった。そんなカイルの友達を紹介されて、剣の腕を良く競っていた。アリアも良く混ざり、男子に負けなしだった。剣闘部の様な物を作り、教え混ざったおかげで、自然と学校になじんでいった。


 帰り道、「ハザン、カイルいい人ね、ハザンを助けてくれるもの、剣の腕はまだまだ私が上だけど」と安心するように話していた。僕はお礼がしたくて、雑貨店で鞄を作り、アリアの分まで作りこみカイルに贈り物をして見た。とても喜んでくれて学校にいつも持って来てくれた。学校の皆に自慢していてお返しに騎士の短剣を送ってくれた。丈夫で村の道具屋では買えないものだった。騎士の両親が鞄を一目見て気に入ってくれたからと照れていた。

 また両親の分まで作り送ると、流石に君の作り出す物は違うとお金を支払ってくれた。雑貨屋を紹介してくれた礼だと思うが、彼の気持ちが嬉しかったので受け取ることにした。


 貴族身分の女子生徒からも注文があり、雑貨屋の仕事は順調だった。学業も代々の当主の記憶と経験値で上乗された頭脳なら、難解な問題も厳しい負傷者の出る剣の授業も、楽についていけた。故郷を取り戻すことは諦めていなくて、今の内に勉強や剣に打ち込んでいた。打撲や骨折した生徒にも魔法薬を作り、滋養のある物だと話し、飲ませて全快させていた。おかげで薬草学を元に作った薬と嘘をついた物は飛ぶように売れて行った。毎年落伍者が出るのに、今年は不思議ですね、ハザンの薬は良く効きますと教師の間で噂になっていた。


 同じ生徒を見捨てることが出来なかったせいだが、それが、雑貨店に並ぶと商人が遠くから買い付けに来るほどだった。女主人も喜び、高値で買い取ってくれるようになった。お金も順調に溜まり、学業に専念しても良いくらいになっていた。ダヤンにも無理させずに済むと思っていたとそんな時である。


 そんなダヤンが死んだのは突然の出来事だった。猟師小屋から狩りに行き、その夜も帰らなかった。初めてのことである。アリアと別れ学校から戻った時には、食事も作り待ち続けた。朝になり、獣道を歩いていると、崖下に転落したダヤンを見つけた。昨日の雨で生い茂る草で滑り転落死したらしい。あんなに腕のいい猟師だったのに、あんなに良い人だったのに、簡単に育ての親を失ってしまった。目の前が真っ暗になってしまったような気持ちだった。魔女殺しのつけが回って来たせいだろうか?とにかく、村長に知らせ遺体を運んで、村の共同墓地に埋葬した。


 葬儀には村の皆が来てくれ、アリアは泣き出しながらも花束を持ってきてくれた。しばらく呆然としながら、村人の言葉を聞き流す。

「ハザン、ダヤンはいい奴だった。捨て子のお前を拾い育ててくれた。二年間もお前を探しながらお金を貯めていた。お前を学校に通わせるために頑張っていたぞ」

「お前のことは自分の自慢の息子だと言っていたのに、残念だったな」

「これからどうする、猟師小屋から出て村長さんの家に世話にならないか?」

「お前の未来の展望は明るい。ダヤンも天国で見守っているよ」

 村長家族はお前を引き取りたいと話してくる。アリアもそのつもりのようだ。

 十四年間世話になった猟師小屋を片付けて、村長さんの家に居候になることにした。正直辛いことばかりじゃなかった、嬉しいことも、楽しいことも、ダヤンと一緒なら良かったのにと思っていた。


 アリアの隣の空き部屋を掃除して、雑貨店の道具を下ろし、縫製の道具で毛皮と本革で皮鎧を作り始めた。学校はしばらく休みで、皮鎧の製作に時間を当てた。ダヤンの思い出に獲物の毛皮と皮で本格的な皮鎧を繕った。完成すると、着込んで剣を振り、弓矢で的を射抜いたりした。三日間続け、ダヤンの墓参りをして、学校に復学した。アリアも心配していて、どこかで視線を感じていた。親友になったカイルも、皮鎧の出来を褒め励ましてくれて、ダヤンのいない日常に違和感なく溶け込んでいった。振り返れば手を振るダヤンがいるような気がした。


 アリアは良く部屋に遊びに来てくれて、遅くまでダヤンの思い出を話しこみ聞いてくれた。学校が終わり、皮鎧を着て雑貨屋で接客していると、女主人に事情を聞かれ、納得してもらい、仕事を続けることになった。

「ハザン、あんた若いのにそれだけの技術を持っているね、親代わりの形見ならいいけど、うちでも売り出したいくらいの出来だよ」

 女主人は店の看板商品に加えたいそうだ。


「ありがとうございます、これはダヤンとの思い出なので、売り物にできません」

「ならいいけど、ハザンの薬も売れているしうちでも助かっているよ」

 女主人は話を切り替えて、薬草学の薬の話をする。

 その内、アリアが迎えに来てくれて一緒に帰ることになる。


「ねえ、ハザン。雑貨店の女主人いい人だけど、町で店を持ったらどうかしら?お金も多く稼げるし、家から通わなくていいわ」

「アリア、気持ちは嬉しいけど、いきなりすぎるよ」

「そうね、私も独り立ちしたいし、いい機会かもしれないわ」

 やる気に満ち溢れている、アリアに言い出しにくい。

「男と一つ屋根の下はまだ早くないかな」

「ハザン、そんな人じゃないもの、まあそれも悪くないけど」

 すました顔で少し先を歩く。

「アリアは将来何になりたいのかな?」

「ハザンのお嫁さんくらいでいいわよ」

 僕は呆れたようにため息をつく。

「僕は騎士団長を目指している。それも呪われ子が生まれた、元テファリーザ王国に派遣されるような強く勇敢な騎士団長に」


「ハザン、あの土地は呪われているのよ。やめたほうがいいわ」

「そうだね、あの問いは不幸な住民で一杯だ。でも僕はそこに騎士団長としてまとめ役になりたい。呪われているならなおさらだ」

「じゃあ、私もついていくわ。だから、まず町に店兼家を探しましょう。商売でも食べて行けるし、私お父さん説得するわ。だから、元テファリーザ王国に行くのは学校を卒業してからね」

 帰り道手を握ってくるアリア。

「前向き過ぎるよ、アリア。僕の奥さんになるつもりかい?」

「そうよ、昔からの私の夢だから、譲れないわ」

 そうだったのかと今更理解する僕がいた。


「気づいてないのはハザンだけよ。皆わかっているからお父さんも家に引き取ったのよ」

 にこりと笑うアリアに降参する。

 僕は真剣に表情を変えて話す。

「僕の道は決して平坦じゃないよ」

「わかっている。だから、一緒にいるわ」

「プロポーズみたいだね」

「ハザンが今度は告白してね」

 いきなり抱きしめてくる、アリア。

 躊躇しながらも、柔らかい体に顔を埋める。


「僕達つき合おうか?」

「ハザンが良ければね」

「後悔させたくない」

 暗がりに抱きしめ合う体が愛しくてたまらない。

 アリアが愛しくて呪われ子の運命に決して負けたくなかった。


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