其之四 視線
いつも誰かに見られているような気がする。そのせいで、僕は昼も夜も、もっと言えば仕事でもプライベートでも気になって仕方がない。
――全く、一体何なんだよ?
とは言え別に誰かに見られている訳でもないようだが、しかし、一つだけ心当たりがあるとすれば、
――あそこのベンチに座っている女の子、さっきからこっちをずっと見つめてるんだよな?
どこかの学園のものと思しき制服を身に纏った一人の少女だった。そのこは白い日傘を膝に載せ、通学鞄と思しきものを脇に置いていた。
――この部分だけ切り取ると、何か僕のほうがヤベェ奴に思えてくるから、早くこのばから離れたほうがいいかもな。
速足でその場をあとにし、僕はいつもの場所へと足を運んだ。
「これとこれ、それからこれとこれ、お願いします」
いつものメニューを注文し、僕は一先ずお冷で口を潤した。
――ほんと、一体何がどうしてこんなことに。
いつからかは知らないけれど、僕がこの感覚に襲われるようになってから、先程の
感想に加えて、寝ても覚めても気になる。そうとしか言いようがなく、とても不快で
ならない。
――まぁ、もしもその常習犯がさっきみたいな女の子だったら話はまた別だけど。
しかし世の中そんな生ぬるい事があるはずもなく、そもそも……、
「……」
――え。
向こうの席でお茶を嗜んでいる一人の女の子がいた。その子はどこかの学園の制服を身に纏っており、瞼を閉じ、ゆっくりとその味を楽しんでいる様子だった。僕はそんな彼女に対して、しかし何か恐怖心のようなものをいだいていた。けれどもう既に
注文はしてしまっており、尚且つ空腹でもあったため、仕方なく今は何も見ていない
事にした。
――二度あることは三度ある。ですか。
今度は帰宅後、チャイムが鳴ったので出てみると、そこにはあの女の子が訪問していた。いくら相手が女の子とは言え、流石に何度も付き纏われるては僕でも腹が立つ。だから少しだけお説教をしてみた。のだが、
「……」
馬の耳に念仏。少女は僕からの説教などへでもない様子で、その双眸は宙を彷徨っていた。否、僕に集中していた。
「……ところでキミ、さっきから僕の事見てるけど、何か用?」
もうどうでもよくなった僕は、諦めてそう訊ねてみた。
「はい。あなたの後ろにいらっしゃる方に、二つ、三つほど」
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