其之三 道案内
――参ったな。こりゃかなりのタイムロスだ。
散々遊び惚けていた僕も悪いけれど、流石に日付が変わってしまっては明日、まぁ正確には今日だけれど、仕事に支障が出てしまう。おまけにそこまで遠出した訳ではないけれど、そこそこ丁度いい具合に道に迷ってしまったみたいだ。
現時刻は深夜の三時を少し廻り、今の時期が夏に近いという事もあり、尚且つ雲もほとんどないため、空はとうに薄明るくなり始めていた。
――これがもし高校時代だったら母親からは勿論、父親がいれば半殺しどころか最早ぶち殺されるレベルだっただろうよ?
内心ではそんなふうにクソみたいなことを抜かしつつも、しかしそろそろ真面目に時刻も時刻になってきたため、本格的に慌てはじめていた時だった。
「あのぅ」
唐突に背後から誰かに声をかけられた僕は、上ずった声で、「っひゃい!」と馬鹿
みたいに返答しつつ、勢いよく振り返った。すると、そこにいたのは、
「ごめんなさい、ちょっと道に迷ってしまったものだから」
一人の可愛い女の子だった。そのこは一言で言えば全身が黒一色で統一されており、その艶のある長い髪も、少し解りずらい部分はあるが、目を凝らせばギリギリ
視認出来る大きな切れ長の目、そして何より特徴的だったのが、その子が両腕に抱いた花束だった。その花は、名前こそ解らないが見た感じ色は白く、とても綺麗な印象だった。
「その、こんな時間にどこかに訪問、とか?」
「そう、ですね。はい、ちょっとお見舞いに」
その子はにこりと満面の笑みを向けてくれた。
――どうしよう?
相手はかなりの美少女だから、話す分には気分転換になりそうだけれど、それでも
時間が時間だし……、
「あのさぁ、実は僕も少し道に迷ってるんだ。だから、よかったこうしようよ?」
僕が出した案は、この子の目的地を教えて貰い、その付近まで到着したら、あとは
一人で行って貰う。というもので、その子はそれを快く受け入れてくれた……こんな
意味深な一言を口にして。
「ありがとうございます……道ずれになってくれて……」
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