第1話(2) 平成くんならダイジョーブ?
「……駆け付けてはみたものの……正直強盗制圧なんて専門外なんだけどな……」
「そうも言っていられないでしょう」
「まあねえ……」
令和の言葉に平成は肩を竦めて、警官に近寄る。
「危ないです! 離れていて下さい!」
「状況は?」
「は?」
「時管局の者だ」
平成は取り出した手帳を見せる。警官は慌てて敬礼する。
「お、お疲れ様です!」
「ああ、そういうのはいいから。で? どういう状況なの?」
「4~5人の強盗グループが銀行に入った模様です。銀行員と利用客は合わせて14~15人ほどだそうです!」
「オッケー、把握したわ」
平成が安全確保の為に警察が張ったロープをくぐる。警官が再び慌てる。
「き、危険です!」
「大丈夫、俺は時代だから」
振り返った平成が片手を挙げて警官を制す。
「……援護します」
「ああ、令和ちゃんは見ているだけでいいから」
「ですが……」
「ここは先輩に任せといて、平成ならダイジョーブ、平成に任せりゃシンパイナイ♪」
「カタコト混じりで歌っている場合じゃありませんよ」
令和の指摘に平成はガクッとなる。
「替え歌が通じないか……まあとにかく問題ないってことだよ」
「それフラグじゃないですか?」
「不吉なこと言わないでよ!」
平成は背を向けて手を振りながら、銀行の方に小走りで駆け寄っていく。
「!」
銀行の入口に雑然と置かれたバリケードや犯人の見張りを平成はあっさりとすり抜けてみせ、銀行内に侵入する。
「だ、誰だ⁉」
「平成だ。普通の時代さ」
「じ、時代がなんでこんな所に⁉」
目出し帽を被った犯人グループが一斉に銃口を向ける。平成は両手を上げながら、周囲を見回し、犯人グループの人数などを確認する。
(人数は5人か……使っているのはマジモンの銃ではないようだが、当たると結構痛いやつだな……発砲させないで終わらせたいところだが……)
「……!」
令和も外の壁沿いまで接近し、中の様子を伺うと驚いた。体を少し前かがみにして、顔の前で人差し指を立て両手を合わせるポーズを取っていたからである。強盗グループもかなり面食らったようであり、声を上げる。
「てめえ、手を上げろって言っただろうが⁉ 何をしていやがる!」
「気にすんなよ、只のルーティンだ……」
「ルーティンだと……?」
「ああ、集中力を高め、キックの精度を高める為のな!」
「⁉」
平成の足下に突如楕円形のボールが現れる。強盗たちが驚いた瞬間、平成がそのボールを勢いよく蹴ると、ボールは銀行内の天井や壁、床に当たってバウンドし、強盗の内、三人の後頭部に当たり、三人は崩れ落ちる。平成は舌打ちする。
「ちっ、全員とまではいかなかったか……」
「くそっ!」
一人が改めて銃口を平成に向ける。しかし、そこには平成の姿は既に無かった。
「遅いな……」
平成はいつの間にか、銃を持った男の懐に入り込んでいた。
「なっ⁉ がはっ⁉」
銃を撃とうとした男に当て身を喰らわせ、平成は両手を顔の前に出して呟く。
「いつ撃つべきだったか? 『今じゃなくてさっきでしょ』」
「調子に乗るなよ!」
「む!」
強盗の中で最も大柄な一人が、ショットガンを担ぎ出して平成に向ける。
「動くなよ、時代!」
「……どうせモデルガンだろう?」
「だとしても当たると怪我するぞ? 試してみるか?」
「それは御免……だね!」
「ぬっ⁉」
再び平成があっという間に強盗との距離を詰める。強盗は発砲しようとする。
「……よっと!」
「なっ⁉ 銃口を指で曲げた⁉」
「ワイルドだろう? そらっ!」
「がはっ……」
平成のパンチが腹部に入り、強盗が崩れ落ちる。
「……片付いたか?」
「待たせたな……! おいおい! これはどういうことだ⁉」
金が詰まっていると思われるバッグを複数抱えた男が3人、奥から顔を出して驚く。
「⁉ まだいやがったか!」
「なんだ⁉ サツか⁉」
「時代だ!」
新たに現れた強盗が銃口を向ける。平成は掌に小さなボールを発生させ、大きく振りかぶり、相手に背中を見せるまで体に捻りを加える。強盗が戸惑う。
「な、なんだ⁉」
「『トルネード』!」
平成がボールを投げる。ボールは真っ直ぐに飛んだかと思うと、強盗の手前で急降下し、その股間に当たる。強盗は悶絶しながらうずくまる。
「ぐおっ!」
「だ、大丈夫か⁉ はっ⁉」
「隙有り! 『かかと落とし』!」
距離を詰めた平成が右脚を高々と上げて、もう一人の強盗の頭に振り下ろす。脳天に直撃を受けた強盗は倒れ込む。
「っ!」
「おし! 後一人か! 何⁉」
「おい、時代よ、こいつがどうなっても良いのか⁉」
残っていた一人が客を人質に取る。平成が舌打ちする。
「ちっ……しまった……」
「動くなよ! おい、お前ら! さっさと起きろ!」
強盗の呼びかけで他の強盗たちがゆっくりと立ち上がる。平成が苦々しく呟く。
「くっ、もう起きやがった……加減し過ぎたか……」
「寝ているやつも起こしてやれ……金は持ったな、ずらかるぞ……って、おい!」
股間を痛そうにさする強盗が平成に近づく。
「人の大事なところをよくも……てめえには痛い目みてもらうぜ!」
「ぐはっ!」
平成が殴り飛ばされる。すぐさま立ち上がったところに大柄な強盗が近づく。
「俺も大事な得物をお釈迦にされたんだ、お礼はしとかないとな! おらあ!」
大柄な強盗が拳を振りかぶる。平成は思わず身構える。
「! えっ⁉」
「な、何⁉」
「やっぱり援護が必要だったじゃないですか……」
大柄な男の拳を令和が受け止めて呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます