第1話(3) 知らないトラック

「くっ……細身の癖になんて力だ!」


「時代ですから……そもそもの体のつくりが違うのです」


 令和が淡々と告げる。


「くそ!」


「はっ!」


「どわっ⁉」


 令和が力を入れると大柄な強盗がくるっと一回転して、床に叩き付けられる。


「お、おい! だからこいつがどうなっても……どわっ!」


 強盗が人質に銃を突き付けようとしたが、顔に煙を吹き付けられ、人質を手放す。


「平成さん!」


「おお!」


 平成がすぐさま人質と強盗の間に割って入り、二人を引き剥がす。


「煙……なんだ⁉」


「よくやってくれました……」


 令和の掲げた指先に小型のヘリコプターが止まる。


「ドローンか! 厄介なもの使いやがって!」


「人質ももういない……投降をお勧めしますが」


「まだだ!」


「諦めが悪いですね」


「てめえらをぶちのめせば良いんだろうが! おいお前ら!」


 周りの強盗たちが令和に向き直る。


「令和ちゃん!」


 平成が叫ぶ。令和は冷静に答える。


「平成さんは皆さんの安全確保を優先して下さい……この連中は私が片付けます」


「令和だあ? ヒヨっこの時代が生意気抜かすなよ!」


 強盗の一人が令和に向けて銃を発砲する。


「はっ!」


「なっ⁉」


 令和が空間に発生させた刀を振るい、銃弾を叩き落としてみせる。


「ま、まぐれだろう!」


 別の強盗が反対方向から発砲する。


「それっ!」


「な、なんだと⁉」


 令和は刀をもう一本発生させて、それを器用に操り、銃弾を弾く。平成が驚く。


「か、刀が二本……」


「ええ、『二刀流』です」


「お、俺もそれなりに自信があったが、令和ちゃんはそれ以上の使い手だな……」


「研修とともに厳しい鍛錬を積みましたから……」


 平成の言葉に令和は淡々と答える。強盗の一人が声を上げる。


「マ、マズい! こいつらはマジで手強い、撤退だ!」


「黙って見逃がすとでも?」


 令和が二本の刀を構え直す。


「奥の手だがしょうがねえ!」


「⁉」


 強盗の一人がボール状のものを床に投げつける。大量の煙が噴き出す。


「け、煙玉⁉ 忍者かよ! って、か、体が痺れる?」


「しびれ薬を含んだ煙玉だ! 煙を少しでも吸ったらしばらく動けねえぜ!」


「ちっ、ま、またドジったか……」


 平成が膝を突くのを見た強盗は口元を抑えながら叫ぶ。


「よし! 今の内に逃げるぞ! 何⁉」


「はあっ!」


「どわっ!」


 逃げようとした強盗を令和が刀の柄の部分で思い切り殴りつける。強盗が驚く。


「な、何故動ける⁉ はっ⁉」


 強盗は目を疑う。令和がマスクをしていたからである。


「マスクは常に携帯しておりますので」


「じゅ、準備が良いな、令和ちゃん!」


「これには事情がありまして……」


 感心する平成に対し、令和は言葉少なに答える。


「くそ!」


「む!」


 わずかな隙をついて何人かが銀行から逃げ出す。令和も後を追いかける。


「どうする⁉」


「あのバスだ!」


「⁉」


 強盗たちは通りがかったバスに襲いかかり、運転手を無理やり引きずり降ろして、自らで運転し、その場から逃走を図る。令和が苦い顔になる。


「くっ……」


「ど、どうする⁉ 令和ちゃん!」


 なんとか動けるようになって銀行から出てきた平成が令和に問う。


「これは極力使いたくなかったのですが……」


 令和が右手を空にかざす。


「なっ⁉」


「『異世界への誘い』……」


「えっ⁉」


 令和が唱えるとどこからともなくトラックが現れる。


「……」


「ト、トラック⁉」


「導け!」


 トラックは勢いよく、逃走しようとしたバスの側面に衝突し、横転させる。


「どあっ⁉」


「ちゅ、躊躇なくぶつかった⁉」


 平成が唖然とする中、令和がゆっくりとトラックに歩み寄る。


「お疲れ様です」


「おおっ、これで良かったかい?」


 トラックの運転席から作業着姿のトラック運転手が顔を覗かせ、令和に対して笑いかける。令和も微笑みを浮かべて頷く。


「バッチリです。相変わらず良い仕事をされますね」


「そいつは良かった。もう行っていいかい?」


「ええ、お忙しいところ恐縮です」


「俺と令和ちゃんの仲だろう? それじゃあまたな」


 トラックはそのままどこかへ走り去っていく。令和は手を振ってそれを見送る。平成が慌てて声をかける。


「れ、令和ちゃん⁉」


「はい?」


「い、今の誰⁉」


「……さあ?」


「し、知らないの⁉」


 令和の意外な答えに平成は驚く。


「全く知らないわけではありませんが……ああやって派手にぶつかっては誰かを異世界?に送ることを日々の生業としているらしいですよ」


「いや、どんな生業だよ!」


「最近結構多いみたいですよ? トラックにはねられたいという転生希望者の方」


「はねられたい方が希望多いのかよ! どういうことだよ!」


「私に言われても……流行ってそういうものじゃないですか?」


「違う気がするけど……!」


「!」


 横転したバスから強盗数人が這い出てくるのが見える。

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